ムツボシくんの山城全盲物語
むつぼしくんが飛行機に乗っている画像
2018年12月6日

見えなくても紅葉の京散歩を満喫!(ご存じですか?同行援護)

 ハーイ!ムツボシくんです。一人暮らしのムツボシくんは、どうやってここ京都の秋を楽しむのでしょうか。それには強い味方があったのです。「同行援護」という制度をみなさんはご存じでしょうか。この制度のおかげで、先日、紅葉の琵琶湖疏水沿いにムツボシくんも散歩を兼ねた小運動に出掛けることができたのです。まずは、同行援護という制度について軽く説明をしておきますね。

 【同行援護の定義】 

 同行援護とは、「視覚障害により、移動に著しい困難を有する障害者等につき、外出時において、当該障害者等に同行し、移動に必要な情報を提供するとともに、移動の援護その他の厚生労働省令で定める便宜を供与することをいう。」と障害者自立支援法(第5条の4、2011年)で定められています。

 それまでは地域支援として行われていたガイドヘルパーが行っていた内容は「介護」とみなされていましたが、これにより、2011年以降の同行援護による外出支援は「移動に必要な情報を提供する」と明記されたのでした。つまり、これは介護保険にはないサービスであることが明確にされ、外出時のヘルパーの支援の中心は情報障害者としての視覚障害者への情報提供とされたことは画期的でした。具体的なサービス内容としては

 (1) 移動時及びそれに伴う外出先において必要な視覚的情報の支援(代筆・代読を含む。)
 (2) 移動時及びそれに伴う外出先において必要な移動の援護
 (3) 排泄・食事等の介護その他外出する際に必要となる援助

 【どんな場面で利用できるのか】 

 さて、どんな場面で利用できるサービスなのでしょうか。利用できない場面もあるのでしょうか。定義の中にあった「移動の援護その他の厚生労働省令で定める便宜」と言われている具体的場面が気になるところです。私たち視覚障害者の全国団体「日本盲人会連合」が作成したガイドブックを参考に紹介してみましょう。ただし、( )内はムツボシくんのつぶやきです。

 (a) 通勤や営業活動、選挙運動などの政治活動、布教などの宗教活動、通年かつ長期の外出、反社会的な活動などには利用できませんが、それ以外の日常的な外出については、社会参加や余暇活動についても認められます。(えっ?通勤には利用できない!そうしたら職場まで単独歩行せよってこと?通学なら家族に送ってもらわないといけませんね)

 (b)通年かつ長期の外出はだめとありますが、もちろん買い物や通院(院内の案内、代読等も含めて)など定期的な外出ではありますが、日常生活をするために必要な外出なので利用できます。これらは国も利用可能と説明しています。また、社会参加や余暇活動についても、毎週などの定期的な利用も認められます。(このおかげでムツボシくんも秋の京都散歩にいけたんだ!)

 (c)ただし、布教活動(特定の宗教を普及する活動)や選挙活動(特定の政党を支持する政治活動)等については対象外と考えられています。しかし、一市民としてのお墓参りや日曜礼拝、選挙演説の傍聴などは利用可能です。(選挙投票のための利用を認めない地域があったとムツボシくんも聞いたことあるけど、それって参政権剥奪の人権問題だよね。)

 【琵琶湖疏水沿いを満喫】 

 「JR山科駅から山科川沿いに歩くとすぐに琵琶湖疏水に出られます。」ヘルパーの道案内に応じてムツボシくんの頭の中で新しい地図が描かれていきます。まずは行く手の東西南北を確認、そしてそれぞれの方角に見える風景を尋ねます。ここに点図の触地図などあればバッチリなんですが、それがそれがまだまだ町歩きに役立つ点図入りの点字本がなかなかないのです。ここ京都においてもです。

写真1
琵琶湖疏水沿いを歩いてみました。落ちない柵のおかげで歩きやすいです。



 どの辻にもそれなりの歴史的な神社仏閣があるのが京都であります。この辺りで有名なのは毘沙門堂門跡。すごい人だったので軽く通り過ぎ、有名な周囲30メートルものしだれ桜に触れた後は春に再訪を誓いつつ、隣の塔頭、双林院(山科聖天)をヘルパーが案内してくれました。「ここ、しょうてんさん、子どもの頃よく来たものです」とさすが地元のヘルパーです。

写真2
こちらが双林院(聖天さん)、周囲は紅葉の山麓、毘沙門堂のごった返しに比べ穴場かもです。



 実はこの「聖天さん」、2つの仏様が合わさった双身仏のようです。象の頭をした男天を、女天が優しく抱き寄せる姿をしているそうです。調べてみると、男性の「大日如来」「と女性の「十一面観音」が化身した姿とのこと、模型でいいので触れてみたいものです。抱き合った姿から夫婦和合、陰陽和合の聖天さんですが、非公開とのことでした。

写真3
細い水が落ちていました。ムツボシくん、白杖に身代わり滝行をさせてみました。



 境内の突き当りのお堂にはお不動産がありました。ムツボシくんが手を合わせ終わったときです。お参りされていたおばさまに声をかけてもらい、次のような話を聞かせていただきました。この仏像、なんと何体もの仏様を寄せ集めて作られたものだと言います。真っ赤な唇の愛染明王や馬頭観音、弥勒菩薩など、いろんな仏様が組み合わされているそうです。頭につまようじが一杯刺さっているようでしょ、と言われました。織田信長による比叡山焼き討ちの折に燃え残った仏様を寄せ集めて作ったのが、このお不動さんなのだそうです。

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これが烈火を背負った継ぎ接ぎお不動さんです。



 それにしてもこの同行援護という制度、見えない私たちにとって本当に‘人として豊かな生活を可能にしてくれる’とても優れた仕組みです。視覚障害者への福祉サービスの中でも血の通ったサービスと言えます。ただ、日本全国で受けられるサービスの水準にまだまだ格差があり課題となっているのも事実です。さあて、ムツボシくん、次回のお出かけは醍醐寺から上醍醐を予定中なのであります。

○同行援護事業Q&A | 社会福祉法人 日本盲人会連合
http://nichimou.org/assistance-guide-helper/qa/
2018年9月30日

私たちは模型なくして天文学の理解を進められるのか?!

 ハーイ!ムツボシくんです。今回は「こりゃ、模型がないとわかんないや」というお話です。見えない子どもたちへの教育では、模型を用いて理解を促す場面はけっこうあります。でも、まだまだ適切な模型やレプリカが盲学校等にそろっているわけもありません。学校を卒業してからとなりますと、なおさらです。新しいものを知りたいなと思っても模型などが準備されているという場面は皆無となります。それでも、1年ほど前でしたか「触って分かる考古学」(橿原考古学研究所付属博物館)のようにレプリカをふんだんに用いた視覚障害者の来館を意識した企画もポツポツと開かれる時代となってはきています。

 さて、そんな中、東京都三鷹市にある国立天文台(天文情報センター)では、3Dプリンタによる模型を通して、視覚障害者に天文学への理解を進めてもらおうという取り組みが始まっています。

 去る9月20日、国立天文台の知人が姫路開催の学会に向かう途中、京都に下車してくれました。ムツボシくんにもこの3Dプリンタによる模型作りの取り組みの成果物である「すばる望遠鏡」(国立天文台ハワイ観測所)の3D模型を触らせてくれたのでした。

 さて、この模型があるとないとではムツボシくんの理解はどう異なるかであります。私たち見えない者は、新しいものをイメージするときに、まずは全体像をつかもうとします。そこで、模型を見せてもらう前日、事前学習のつもりで、スバル望遠鏡のHPをのぞいてみました。もちろんHP内の図版類は見えませんので文字による説明だけを読みました。まずは言葉により全体像をつかもうという作戦です。そこにはこんな説明がありました。

 スバル望遠鏡は、望遠鏡なのに筒がないようです。「鏡筒がない代わりに、主鏡のすぐ上にある筒や、観測装置の中の光学系を工夫して、迷光が入らないようにしています。」また、「鏡筒の代わりに、「トラス構造」とよばれる複数の三角形の骨組構造により、望遠鏡の一番上の部分「トップリング」と、主鏡(一番大きな鏡)部分を結合しています。」

 うーん、正直、まったくこの言葉だけではスバル望遠鏡の全体像は頭にイメージできませんでした。さてさて、全体像がつかめないままに、いよいよ3D模型との対面です。

写真1
3Dプリンタで作成したスバル望遠鏡110分の1のスケール


 あれあれ、言葉の説明ではつかめなかった全体像が触れば瞬時につかめるではありませんか。これは模型の強さですね。しかも、次の点がすばらしい出来映えでした。

 (1) 鏡の表面と他の構造物で手触りを変化させてあること。
 (2) 主焦点などに取り付けるカメラなどの部品類が取り外せる仕組みになっていること。
 (3) 本物の望遠鏡自体の動きがトレースできるように模型も上下左右などに手で動かせること。

 ただ、残念ながら、模型を触ってもわからない点もありました。その典型的なものは次の2点です。

 「筒がない代わりに、光学系を工夫して、迷光が入らないようにしています」とHP内の説明にはありましたが、模型をさわってもその意味はわかりませんでした。トラスト構造はわかったのですが、周囲から光はバンバン入ってくるのではという疑問です。実際はトラスト構造の外側に筒に相当するドウム条の壁があるとのことでした。

 次に理解できなかったのが「望遠鏡の一番上の部分「トップリング」と、主鏡(一番大きな鏡)部分を結合しています」と確かHPでは書かれていたにもかかわらず、模型では、上下はつながってはいませんでした。しかも、下の主鏡の上には細い筒が立っているのです。そして、この筒も途中で切れてしまっています。この点も当日の説明にて疑念が晴れましたが、なんとこの主鏡の上に立つ細い筒の中には左右に別の焦点を結ぶための鏡の仕組みが仕込まれているとのこと、そのあたりもわかる模型だったらとも感じました。

 いずれにしろ、この日、模型に触れているうちに、これまでムツボシくんがあきらめていた天文学といったこれ以上はわからないなという世界が、見えなくても探求してみたくなる世界へと変貌してきていたのです。気付けば、模型を触りながら約1時間ぶっつづけで質問をぶつけているムツボシくんがいたのです。

 知人によると、次回はアルマ電波望遠鏡の模型にチャレンジするとのことと、スピーカー状の望遠鏡が66個も連動して観測しているアルマ電波望遠鏡、この連動の意味を模型を通してぜひとも知りたいものです。

 最後に一つ要望をさせていただくとしたら、このような模型の場合、取り外しと組み立て可能な模型になっているとさらに理解は深まります。内部の構造までも触れられるようになっていたらさらにワクワクしちゃいます。アルマ電波望遠鏡の模型作りでは、ぜひ「電波干渉計」の原理がわかる模型作りまで踏み込んでいただけたらと伝え、知人を姫路に送り出したのでした。

[参考サイト]

○触って分かる考古学(橿原考古学研究所付属博物館)/奈良新聞デジタル
https://www.nara-np.co.jp/news/20170206091221.html

○3D模型スバル望遠鏡/国立天文台
http://prc.nao.ac.jp/3d/subaru_top.html
2018年9月1日

昨今の障害者雇用率水増し問題に思う

 ハーイ!ムツボシくんです。今回は8月になって急に騒がしくなっている中央省庁の障害者雇用率水増し問題について、つぶやかせてください。それは、あまりにもこのニュースへの世間の‘怒りどころ’がズレているのではと感じたからです。

 今朝(8月30日)、ラジオでニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」を聴いていたときのことです。この問題に怒る聴取者からのメールが紹介されておりました。その中にこんなものがありました。

 「民間は納付金(雇用率未達成のために支払う罰金)までこれまで払ってきたのに、中央省庁は未達成でもそれすら支払わなくてもよい仕組みだ。これまで民間が支払った納付金を国は返済すべきだ!」と言う主張でした。コメンテイターの飯田泰之さん(明治大学)もこの意見に軽く同調されていました。ムツボシくんは、とうとうこんな意見まで現れたかという思いでした。

 そもそも、この問題が世間を騒がせ始めた頃、当初からメディアは、「民間は雇用率達成のためにがんばっているのに、国は何をしていたのか?」という論調でした。ムツボシくんには、「えっ?民間はがんばっているの?」と言う疑念がすぐに湧きました。

 2017年に公表された最新の民間の障害者雇用率を見てみましょう。

 法定雇用率達成企業の割合は50.0%(対前年比1.2ポイント上昇)、実雇用率1.97%(対前年比0.05ポイント上昇)です。昨年度までは雇用率達成企業は50%を切っていたのですよ。わが国の企業の半数がいまだに雇用率(従業員数の2.2%雇用)を達成していないのです。確かにわずかながら前年度よりは上昇している点を「民間はがんばつているのに…」と言いたい人もおられることでしょう。しかしです。ここで、大切なことは何でしょうか。「民間もがんばっているのに、国は何をしている?」という怒りでしょうか。「なぜ進まない障害者雇用率の達成…!」ということではないのでしょうか。世間の怒りが「納付金を返せ!」となぜなるのか?ムツボシくんには理解できません。返してほしいのは、私たち障害者がこれまで当たり前のように奪われ続けてきた労働権なのではないでしょうか。

 この問題は、この先、中央省庁の障害者雇用率達成をいかに早く進めるか、とりつくろうかということになるでしょう。そして、ある程度、緊急措置的に障害者募集となるでしょう。こうして、軽度の障害者の需要が高まるのです。官庁の職場のシステムを何ひとつ変更しなくても働ける障害者が求められるのです。点字使用と言った重度の視覚障害者はお呼びでないのです。アシスタントパーソンの部分的な支援があれば働ける重度の視覚障害者などには興味はないのです。

 これに加えて、民間企業の障害者雇用を見守ってきた「独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)」みたいな機構を新しく中央省庁等の障害者雇用を監視するために設けるべきという声も上がってくると思われます。ムツボシくんもぜひそのような機構を第三者的に作るべきと思います。ただです。この新しくできた中央省庁障害者雇用推進・監視機構に働く人たちがまたしても非障害者で埋め尽くされるのではと危惧しています。

 話を進めて、それでは、民間・公共団体を含めてですが、障害者を直接支援するような職場での障害者雇用は進んできたのでしょうか。この方面での雇用率達成に関する調査結果も公開してほしいところです。ムツボシくんがこれまでの経験から類推するところでは、これまで、わが国では、障害者雇用政策充実の名のもとに新予算によりできた新制度や新しい箱物内に雇われてきた人たちが非障害者ばっかりだったという例は少なくありません。ヘリコプターマネーではありませんが、障害者雇用充実に予算を使うのなら、直接、働く機会を奪われている障害者にお金を配ってほしいとも考えます。そのお金をもとに障害者自身が就労をがんばるからです。その上でがんばっている障害者を支援する仕組みこそが必要なのです。私自身、障害者という立場だからこそ、全国の点字図書館関係の職場のような障害者のための支援施設や、障害者雇用推進を掲げる職場の障害者雇用率を見てみたいものです。きっと、視覚障害者が一人も雇われていない点字図書館や視覚障害者への情報提供施設というものもあるのではないでしょうか。まるで、「障害者支援のことは健常な私たちにすべてまかせてください」と言わんばかりにです。障害者雇用推進のための予算が直接障害者当事者を雇い入れるような方向に使われる仕組みが大切だと、この機会に声を大にして言いたいのです。

 幸いメディアが障害者雇用について世間の目を向けてくれました。このブームが去らないうちに、障害者雇用の裏も表もその間で隠されてきた実態にも世間の目が見開かれることを期待します。
2018年8月13日

造形美術を手で触って楽しいと感じる3つの条件を考えてみた!

 ハーイ!ムツボシくんです。今回はひさしぶりに美術鑑賞のお話です。といっても今回は絵画ではなく立体物を見えないムツボシくんがいかに手で鑑賞するのかです。ここで言う「手で鑑賞する」という言葉にはムツボシくんはこんな意味を込めています。「触って見てこそわかる楽しさ、触ってこそ見えてきた新しい世界」という意味です。

 8月10日、出掛けたのは国立近代美術館(京都市)の次の企画です。「美術のみかた、みせかた、さわりかた」です。この企画は、学芸員のナビゲーターと一緒に、作品をさわることで質感や大きさ、重さなどを体感するツアーだとの案内がありました。

http://www.momak.go.jp/senses/openday2018.html

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この時間帯、3階会場には約20名が集まりました



 ムツボシくんが考える「手でさわって楽しい」という条件は次の3点です。別の言い方をすれば、これらの条件が感じ取れないのなら、「鑑賞」とは言えないのです。作品を目で見えない人が何をえらそうに…なんて思われちゃうかもしれませんね。そこはあくまで「手で鑑賞する」という立場からのみの意見だと思ってご容赦ください。

 【条件1 触って見いだす意外性】 日常ふれている世界を逸脱する物、考えてもいなかった配置や感触、これらから届けられる意外性には格別な楽しさを感じます。

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予想を超える大きさ、直径1.2mの磁気の大皿(梅の模様も点図で知りたかった)



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「噛む」というガラスの作品、黒の噛む主体には静かな感染爆発への悪意があるのでは…



 【条件2 触って芽生える好奇心】 ムツボシくんは美術作品の作成過程をよく知りません。油絵の具に筆をつっこんだ経験もありませんし、鋳型に何かを流し込んだこともありません。そこで、触って見えてくる制作工程には推理小説を読み解くような興味がわきます。

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釉薬の濃淡を指で感じ取れれば焼き物の景色を読み取れるかも…



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銅の花瓶、鋳型の跡が内側に4箇所残っていました(鋳型もふれてみたかった)



【条件3 触って共感する表情】 最後に「馬」という作品を見てください。はじめは幼児が牛乳パックや空き箱で作ったようなものだとあまり関心を持たずにいました。ところがナビゲーターの方に「首が少し傾いていますね」と言われてムツボシくんもさっそく手で確認。その瞬間、やたらこの馬に愛着めいた気持ちが湧き出した自分に驚きました。作者に共感したと言えば作者が「かってに共感するな!」と怒って来そうですが、この首のねじり方ひとつを発見しただけでこの作品が好きになったのも事実なのです。

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焼き物の馬、首のねじれにやられちゃいました



 最後に、立体物の手による鑑賞は、案内人とともに絵を鑑賞するのとはどこが違うのかについて考えてみました。結論を言えば、全盲者の絵画鑑賞はあくまで他人の言葉による受動的なイメージ鑑賞にすぎないということです。よって、ここにあげた鑑賞の3つの条件も絵画の場合はすべて「聴いて見いだす意外性」「聴いて芽生える好奇心」「聴いて共感する表情」となってしまいます。聞くというのはとても受動的で、質問をするにしても案内人が発した範囲の言葉の世界の中での質問にならざるを得ません。自分発信のイメージに出会わないのです。自分で作品に向かい合っているという気持ちが萎えてくるのです。その点、立体物の手による鑑賞は主体的な読み取りが可能なのです。作品との出会いにより自分発信のイメージと出会えるのです。「触れる」という動作や行為が持つ全盲者の生きる力を垣間見たような今回のお出かけとなったのでありました。
2018年6月13日

障害者支援が単なる「代行」になってはいませんか?

 ハーイ!ムツボシくんです。京都に引っ越し後、はじめて先日仙台を訪れました。東北大学にての「障害者支援入門」という講義のためです。今回はこの時、学生と行なったトランプを用いたワークショップについてお話します。テーマは「支援と代行の違い」です。

 【代行されちゃうつまんなさに気付いてください】

 まずは、アイマスクを付けてトランプゲーム「ババ抜き」ができるかというセッションです。「できるか」と言われても目隠し状態ではできませんよね。参加者をAB2班に分けて、A班がアイマスクを付けてババ抜きをするプレイヤーチーム。B班の者は、アイマスクは着用しないで、マンツーマンにてアイマスクプレイヤーの後ろまたは横に張り付き専門の支援者となります。アイマスクプレイヤーにとっては自分一人だけを支援してもらえる支援者が確保されたのです。さあ、これでアイマスクプレイヤーでもババ抜きができそうです。どんな支援をしてほしいか、どんなふうに支援したら見えなくてもゲームが進められるのか…、互いにいろいろと考えながら配られたカードをプレイヤーは手にするのです。

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普通のトランプ、アイマスク者と支援者がペアとなりババ抜きにチャレンジ!



 いろいろとささやきが聞えてきます。
 アイマスクプレイヤー: どのカードとどのカードが合ってますか?
 支援者: 左端とそこから3枚右のカードが同じです、出せますよ。
 支援者: 誰からスタートするか私たちでジャンケンしますので待っててください。決まりました。右隣に手を出して1枚引いてください。
 アイマスクプレイヤー: どこですか、もっと上ですか?

 数分後、ゲームを止めたムツボシくん。アイマスクプレイヤーから感想を求めます。「まったくわくわく感がなかった」「状況がわからないのでつまらない」「言われるままにしていただけだった」などと不満めいた声が出てきます。

 そうなんです。実際にやってみると、いかにこの方法でのゲームがつまんないかが身にしみてわかるのです。マンツーマンで支援があるにもかかわらずです。これは「支援」ではなく「代行」だからなのです。結局はゲームをしたのは誰あろう「支援者」なのでした。全盲プレイヤーの手や口を使ってゲームをしていただけなのです。

 同様の風景は町にもあります。ムツボシくんがヘルパーと買物に出かけた時のことです。コンビニ店員はおつりを渡す時に、ムツボシくんの方は見もせずに、ヘルパーに対して「おつり、確認してもらってもいいですか?」と何枚かのお札を見せています。誰が買物の主体なんでしょう?おつりは誰が確認しないといけないのでしょう?

 ヘルパーと洋服を買いに行った時もこうです。色やデザインの説明は必ずと言ってヘルパーに対して目と目で対話されていきます。店員という見える文化の人たちは、ヘルパーというこれまた見える文化の人との間で、安心できる見える者同士のチャンネルで交信したいのです。だから単にこのことが買物支援ではなく買物の代行になってしまっていることに気付かないのです。

 【誰もが力を発揮できる環境があれば代行はなくなる】

 そこで、次のセッションです。今度はムツボシくん開発のUDトランプを使ってのアイマスクプレイヤーのみのゲームをします。これなら、みんなが自らの力のみで楽しめるのです。互いに声を掛け合うだけで状況もばっちりわかります。ここで用いたUDトランプとは、「見えなくても、見えにくくても、点字が読めなくてもできるトランプ」のことです。詳しくは、2015年8月26日の記事「点字は読めなくても遊べるトランプをムツボシくんが開発!!」をご覧ください。

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UDトランプを用いればアイマスクをしていても疎外感はなく参加できる!



 【みなさんはどんな共生社会にしたいのですか】

 この2つのセッションを通して、「私たちはどんな共生社会にこの日本をしたいのか」ということを考えてほしいとムツボシくんは願っています。

 障害者には年金を与えておけば働いてもらわなくてもよいのではという考え方は、見える人が見えない人の代わりに仕事のすべてを代行してくれている社会です。普通のトランプしか用意されてない会社の中では、ようやく雇用されたとしても、結局見えない私たちの力は発揮できず、「危ないから横で仕事が終わるまで待っててもらっていいですよ」みたいな会社の中での扱いに甘んじざるを得ません。普通の枠組み、見える人同士が安心できる枠組みでは力を出せない視覚障害者も含めて、誰もが使いこなせる枠組み、UDトランプみたいな枠組みを街中や学校、仕事場、福祉、社会制度…あらゆる側面で作り直していく必要があるのではないでしょうか。
2018年4月28日

ひとり暮らし全盲引っ越し物語2018

 ハーイ!ムツボシくんです。私、仙台にて引っ越し難民となっておりましたが今月中旬、ようやく山城の国に引っ越して参りました。今回は、ひとり暮らし全盲引っ越し物語、その「困った!コマッタ!こまった!の巻」をお届けします。

【全盲の転入者は手も足も出ないぞ!】 

 引っ越した日、まずはタクシーで区役所へ。そして転入手続き、身障手帳の住所変更、そして、同行援護利用の申請などを行ないました。ところがです。この同行援護利用開始までは何週間もかかるのです。そして、自宅に「利用が認められましたよ」という書類が郵便で届くのを待って、事業所を探して契約となり、ようやくお出かけ予約ができるのです。おまけに、担当者からは「同行援護をやっている事業所は少ないのでね、ライトハウスに聞いてみてください。」などと言われて不安ばかりです。郵便で書類が届いてもこちとらわかりません。その郵便などを見てもらえるサービスが利用できないのですから。区役所に電話で尋ねるしかありません。「まだですか?」と。

【買い物が手強いぞ!】 

 買い物はネットスーパーで、と思いパソコンでアクセス。会員登録しようとしてあぜん!画像認証が突破できずに断念。では、地域生協に連絡。こちらはあいかわらず「毎週紙のカタログをお届けしますので注文があってもなくても103円いただきます」ですって。「あいかわらず」と言うのは、宮城県の生協もそうだったからです。生協はネット注文できるのに、いまだに紙のカタログを毎週届けるための費用を取っているのです。「そんなカタログいりません」といってもこのシステムはやめてくれないのです。その月、何も注文しなくても400円くらい取られていくのですよ。許せません。

【引っ越す前の方へのご忠告】 

 引っ越すからといって何でもかんでも捨ててはいけないということがわかりました。洗濯物を干すピンチが一杯ついたポール、壊れていたので捨ててきました。でも、今は洗濯しても干すポールが新しく買えず困っています。カーテンレールや畳に広げています。

 食料品や調味料。そんなん引っ越し先で買えばいいと思っていたのですが、ご覧のように買い物難民となっています。まもなく仙台から持ち込んだ食糧が底をつきます。おかげさまで2キロやせました。

 机や戸棚類。これらも古かったので捨ててきました。こちらで買えばいいと思っていたのですが、その買い物に連れていってくれる人が誰ひとりいません。おかげさまで荷物が整理できずにいまだに積み上がった段ボールの林に住んでおります。とほほです。

 意外にスムーズだったのは、ネット環境の構築でした。ソフトバンクエアーっていうのでしょうか、ポケットWi-Fiの親分みたいなものはすぐに使えました。

【障害者の転入者にはもう少し柔軟な対応がほしい】 

 タクシーを呼ぶ他はどこにも出かけられず入院のような生活をしております。食糧は民間の弁当宅配が中心…。行政には、たちまち困る私のような全盲転入者に対して、一度でいいから、数時間でいいから自宅まできてくれるようなサービスがほしいです。画像認証の突破のお手伝い、コンビニにての市指定のゴミ袋の購入などたちまち困ることへの対応を手伝ってほしいのです。でも、そのような福祉サービスはありません。ゴミと言えば、京都市のゴミの分類の説明に関しては点字もデイジーも何もありません。ネットで検索したら、画像PDFを開けと言います。デイジー版のゴミ分別CDがすぐにもらえた仙台が懐かしいです。

 ムツボシくんは、これまで数回以上はひとり暮らし全盲引っ越し体験をしてきたのですが、なんで今回がこんなに大変感があるんだろうと不思議でした。わかりました。それは、これまでは引っ越し先には職場があったのでした。同僚たちがいてくれたのでした。今回は職場もなく部屋まできてくれる友もにわかにはいないというところが大きく違っていたのでした。
2018年4月10日

ムツボシくん、仙台の思い出を詰め込み4月から京都へ


 ハーイ!ムツボシくんです。このたび5年間の仙台全盲ひとり暮らしにピリオドを打ち、4月からは京都市南部に移り住みます。新たに「山城全盲ひとり暮らし」のはじまりはじまりです。

写真
こんな箱には詰め込めないものも一杯仙台で見つけました!


 そこで、この5年間、書き綴ってきた「仙台全盲物語」の中から、今回は想い出深さナンバーワンの記事を各年ごとに紹介させてください。

【2013年のおもしろビックリナンバー1】

封印されていたガストの点字メニュー(9月6日)
 
(続報)ガスト再訪、これが封印されていたガストの点字メニューだ!(9月24日)
 
【2014年のこれはよかったナンバー1】

これは画期的!宮教大生協自販機の点字化を、視覚障害者の働くNPO法人ビートスイッチが年間保守契約(1月1日)

【2015年の怒ってもいいでしょナンバー1】

「日本信号株式会社」様への手紙(7月21日)
 
【2016年のこれが実態ナンバー1】

「見えないから危険!」、これって見える人の優しさなのですか?〈前編〉

「見えないから危険!」、これって見える人の優しさなのですか?〈後編〉(1月4日)
 
(続報)生まれ変わるぞ!「笹かま館」の仙台・笹かまぼこ手作り体験(2月5日)

【2017年の知ってくださいナンバー1】
気仙沼で考えた‘みんなちがって、みんないい’の意味(6月17日)
 
 ちょっとお堅い話でしたか?ほんじゃまあ、ムツボシくんが仙台で見つけた味の想い出を最後にお届けします。いつか仙台を再訪したとき、こんな食べ歩きの1日をムツボシくんはしていることでしょう…!

(1)JR仙台に着いたらまずは、「お茶の井ヶ田」にて抹茶ソフトをペロリンコ!
 
(2)ランチは日本料理レストラン「一舞庵」、ウェスティンホテルの37階でバイキング料理を!
 
(3)仙台ぶらり歩きの途中で一息入れるなら「KURIYA COFFEE」でスペシャルティコーヒーを!

(4)夜の居酒屋ならここ「伊達のいろり焼・蔵の庄(一番町本店)」で炉端焼を!

(5)味を変えたいならこちらで飲み直し「チャオチャオ仙台駅前店」で変わり餃子を!
 
 8月までには3度ほど仙台に舞い戻る予定があります。上記5店舗にてムツボシくんを見かけちゃうかもですね。次回の記事からは山城国からの発信となります。引き続きムツボシくんのこと、どうぞよろしくです。仕事やめちゃったし、年金はまだ出ないし、そこで、「山城・月1万円食生活全盲物語」なんぞを語っていくかもですね。
2018年3月29日

これで見えない人も2020年を前に世界の国旗のイメージはバッチリ!

 ハーイ!ムツボシくんです。このたびムツボシくんの研究室企画にて、『世界の国旗図鑑(改訂版)』(苅安望著、偕成社、2016年)の点訳を完成しました。この3月に卒業したMさんが中心となり、世界の国旗の図案をいかに指で読みやすい点図にするかをムツボシくんと検討…。点図にする旗は200点以上、それに加えて点図の触り方を説明する「触読者のための図の説明」の作成、もちろん原本本文の点訳などなど、企画からは1年もありませんでした。

 そこで、ボランティアのみなさんに共同製作を依頼したところ、仙台メディアテーク(仙台市民図書館)の点訳グループと仙台市の点訳グループ「三六会」が旗の点図化で、そして滋賀県の点訳グループ「ぼちぼち会」が本文点訳でともに全面的に協力してくださることとなり、ここにこの企画は完成を見たのでした。

 点訳本は全8巻、世界を州別に編集しており、納められている旗は世界の国旗はもとより、国連や国際オリンピック委員会などの主な国際機関の旗など全218点。ただし、細かな紋章などは別に拡大して表記したため、作成した点図の総数は258点となりました。

 それでは、どんなふうに指でもイメージできる国旗の点訳となっているのか、一つ二つ紹介しましょう。

【仙台と言えば「ギュータン」、んじゃまあ「ブータン」からどうぞ!】

 右向きに駆け上る竜のデザインです。ぶっちゃけ、竜の細かな鱗模様まで指でイメージする必要はないと考え、鱗模様などは簡略化しました。強調すべき大切な点は、顔の位置と目を触りやすくすること、何より4本の足がつかんでいる玉に気付いてもらうことと考えました。

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ブータンの国旗(上)と今回作成したブータン国旗の点図(下)



【仙台と言えば七夕、んじゃまあお星さまが出てくるモザンビークを見てください!】

 あまり見えた経験をもたない見えない人にとって、重なりのある図の読み取りは苦手なものです。例えば、目の前にある家が大きく描かれた絵において、家の向こう側にある一部隠れたビルの上部が描かれていたり、遠くの山の斜めの稜線が一部描かれているとムツボシくんのように見えない人は、これらも家のどこかの線ではないかと思ってしまうのです。屋根から飛び出したビルを指して「このおうちには煙突がついているの?」などと考えてしまうのです。モザンビークの国旗を紹介します。この紋章はまさに苦手な重なり図となっているのです。星をバックに、本→鍬→銃と順に重なってしまっています。そこで、点図化にあたっては「触読者のための図の説明文」とともにこんな工夫をしてみました。

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モザンビークの国旗(上)と点図化した国旗全体(中央)、紋章部分の拡大(下)



●モザンビークの旗の触読者向け説明文: 「左に赤の右向き三角、残る部分を大きく三分割(上から緑、黒、黄色)した国旗で、黒の部分の上下には白の細い帯がある。また赤の三角部には紋章があり、この紋章は黄色の星に重なる三つのものからなっている。まず黄色の星に重なるのが白い本、そこに重なるのが黒い鍬、さらに重なり、最前面に現れているのが黒い銃となる。4時方向に出ているのが鍬の柄(鍬の歯は10時)、8時方向から2時方向に描かれるのが銃である。109ページには紋章で星の上に重なる各要素を描いている。数字は重なっていく順である。」(第6巻P108)

 この完成した『世界の国旗図鑑』(全8巻)をワンセット、先日、宮城県立視覚支援学校に寄贈させていただきました。同校の社会科の先生からも「これで国旗に関する課題をどんどん生徒に出すことができる」と喜んでもらえました。点字学習者のための国旗教材はこれまでなかったのです。「世界の国の中から南十字星を国旗にもつ国を探しなさい」といった課題はこれまで点字学習者には出せなかったのです。

写真3
●写真3 3月20日、4年生Mさんが遠藤学校長に手渡しました!



 点図入りの点訳完成という話題でもうひとつ。こちらは同じくムツボシくん監修にて最近完成した、なんと514点の点図からなる『家紋と名字』(別冊宝島、2014年)の点訳本です。私たちにとって「家紋」も、そんなものがあるという噂は知っていてもその形を触れたことはまずないものです。全18巻の点訳本として完成しております。宮城県点訳奉仕会エーデル勉強会のみなさんとともに3年がかりにて完成にこぎつけました。このことは「点字毎日」(3月18日号)にて紹介していただいたところです。あなたの家系にまつわる家紋をこの本で見つけられるかもです。

写真4
写真4 『家紋と名字』全18巻の点訳が完成しました!


※『家紋と名字』は宮城県視覚障害者情報センターよりすでにサピエ図書館に登録済みです。『世界の国旗図鑑』は5月に仙台メディアテークよりサピエに登録される予定です。両方とも、「ムツボシくんの点字の部屋」からは、国別点図国旗データ集または、家紋名別点図データ集として利用していただけるように準備する予定です。


[参考サイト]点字毎日:宮城の視覚障害者情報センター、家紋を点図で紹介(毎日新聞 2018,03,25)
 http://mainichi.jp/articles/20180322/ddw/090/040/014000c
2018年3月15日

見える国民の職業選択の自由権が見えない国民を駆逐する(後半)!?〜按摩業における視覚障害者保護が憲法違反と言い切れるほど見えない国民に職業選択の自由はあるのか?〜

 ハーイ!ムツボシくんです。前半の話では、「見える者ももっと按摩業に就きたい→なのに、国は按摩師養成学校をこれ以上作ることを認めない→それは視覚障害者の多くがこの按摩業にて職業自立を目指しているわが国においてはこれ以上の見える者のための養成学校設立は見えない者の生活をおびやかしかねないから認めない(按摩師等に関する法律第19条)→でもでも、それって憲法第22条の何人にも与えられている職業選択の自由に違反しているんじゃないの?」と言う平成医療学園グループ(按摩師養成学校を作りたい側)と国(これ以上作らせない側)との訴訟が起きていることについて、またその背景について解説しました。

 2月12日、仙台では、東北地区の各視覚障害者福祉協会が関わってのこの問題を考えるシンポジウムが開かれました。そこで、同じ視覚障害者のムツボシくんがこの問題をどう考えているかについてお話させていただきました(実はムツボシくんも按摩師の免許は持っていますが、ペーパー治療師なので、「お前に何がわかる!」とおこられちゃうような意見だったかもしれませんが…)。

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仙台福祉プラザで行われたシンポジウム(2月12日)



 【19条が撤廃されて何がわるいのかを考えてみた!】

 視覚障害者治療師を保護する按摩師等に関する法律第19条が憲法違反と言うことで撤廃されてしまったらどんな状況となるのでしょうか。まず、それを考えてみましょう。

 (1) 按摩業界に見える治療師がどんどん進出してくる!=そうなると、盲人治療師にはどんな不利があるのか?

 →見えないので車を運転できない盲人治療師に対して、見える治療師はどんどん往診料がもらえる訪問治療で収入を増やす可能性がある→この不利の差を補填しているのが障害者には年金が国から支払われているではないかと言われたらどうする?→年金の増額や往診に同伴するヘルパー制度のしくみを要求する方向にすすめばいいのではないか(19条を何が何でも守ろうとするのではなく)。

 (2)盲人治療師が職業自立できないのはなぜ?=見える治療師が増えてきたからだ!って言い切れるのか?

 →盲人にとって治療師と言う職種はなるほど素晴らしい職種だと世間に思わせてきたのか。それとも、「見えないと按摩しかできない」と自他ともに消極的に続けてきただけなのか。盲人治療師はどんな努力をしてきたのか。教育界も含めて、柔整師資格をさらに取得するなど盲人治療師がなぜもっと技術的武装しないのはなぜか?

 (3) 見える治療師の進出がこわいのはなぜ?=‘見える’と言うだけで‘優れている’とでも言うのか?

 →按摩業は技の世界なのになぜ見える治療師がイコール優れていると言えるのか→よい治療師かどうかは患者側が評価するのだから、患者に支持される治療師となることは、見えるか見えないかと関係しているわけはない→清潔感、人当たりのよさ、コミュニケーション力、誠意、そして治療術と経営手腕、いずれも視覚の有無とは無関係なのになぜ見える治療師の進出がこわいのか。

 【それでも19条を守りたい私の理由】

 それは、見えない国民には職業選択の自由は今だにない!と断言できるからです。この裁判において、按摩師等に関する法律第19条が憲法違反とされてしまったら、つまり平成医療学園グループ側が勝訴すると言うことは、それは「現在では十分視覚障害者は按摩業に就くことをもう保護する必要は無く、視覚障害者は他の仕事に対しても何ら支障なく職業選択の自由が享受できている」と言うこととなります。そんなわけはありません。ウソだと言うのなら、按摩業以外の民間企業における全盲従業員数の人数を47都道府県別に出してみてほしい、いかに少ないかを調べてほしいとムツボシくんは裁判官に言いたいです。大都市圏の大企業本社で一部のエリート全盲者の人たちががんばってくれている話しはよく聞きますが、地方や中小企業で全盲者が雇われてきたと言う話はほとんど聞えてこないのです。障害者雇用促進法の改正がこんなにも続いているにもかかわらずです。

 【19条問題が見せてくれた私たちの弱点と課題】

 盲人治療院が流行らなくなって店を閉じるのと、街角のラーメン屋が人気を失い店をたたむのとはどこが違うのでしょう。どちらも研鑽を忘れ、時流に置いてけぼりをくらうのは、点種の目が見えるか見えないかとは無関係です。19条で守られているから盲人治療師の店が減っていくのはおかしいなんて理屈にもなりません。この「ラーメン屋がつぶれるのとどこが違うのか」はこれからも真剣に考え続けないといけない問いかけだと思います。

 また、この裁判が私たち視覚障害者の職業自立に対してもう一つ問いかけているものに次の点があります。「あなたは障害者への年金が増えたら働きたくはないですか?」「やりたい夢の実現がバリアで阻まれても、年金が増えたらそれはそれでがまんできますか?」つまり、これから私たち視覚障害者は職業選択の自由のもと、どんな社会を望んでいくのかが問われているのです。障害者は年金という支援を受ける立場にしがみついて生きるという道もあります。これに対して、夢の実現を阻むバリアをひとつずつ壊して真の職業選択の自由を勝ち取る道もあるはずです。

 裁判は、今年から来年にかけて佳境に入り、来年には判決の言い渡しが相次ぐことでしょう。みなさんもぜひ裁判の行方に注目してください。

●2018年の公判予定
 3月23日(金)…大阪地裁(第8回) 15時30分開廷
 4月19日(木)…仙台地裁(第7回) 15時開廷
 5月16日(水)…東京地裁(第9回) 11時30分開廷
 6月6日(水)…大阪地裁(第9回) 15時30分開廷
 7月25日(水)…東京地裁(第10回)11時30分開廷
2018年2月25日

見える国民の職業選択の自由権が見えない国民を駆逐する(前半)!? 〜会社では雇ってもらえない視覚障害者のできる自由業と言えば按摩業〜

 ハーイ!ムツボシくんです。今私たち視覚障害者の多くが携わっている職業である按摩・マッサージ・指圧業(以下、按摩業とまとめて呼びます)に、見える人たちがもっと容易に進出できるようにと、見える人たちのための按摩師養成に関する専門学校を開設させてほしいという裁判が提訴されています。今回はこの問題について考えてみます。

【平成医療学園は見える人の職業選択の自由を主張】 

 2016年7月、平成医療学園グループは、東京・大阪・仙台地裁に同時に国を相手取って訴えを起こしました。平成医療学園グループ側は、自らの営業の自由と按摩師になりたいという見える人のための職業選択の自由を主張しています。これに対し、国は、このまま按摩師養成学校の新設をこれ以上認めることは、視覚障害者の職業的自立を確保できないと判断したことには合理的な理由があったとし、すでに晴眼者のためのあん摩師の養成課程が全国に多数存在することなどを主張しています。

【見えない人に職業選択の自由はあったのか?】 

 えっ?意味がよくわかんない!と思われた方も多いことでしょう。少し私たち視覚障害者の職業選択の自由について考えてみましょう。もちろん、見えない国民にも憲法上は職業選択の自由はあるのです。では、なぜ「障害者雇用促進法」(1960年制定)なる法律が日本にあるのでしょうか。それは日本において就職にあたっての障害者差別が今だに続いているからです。事実上障害者には職業選択の自由がなかったからです。改正を重ねてきたこの法律では、従業員50人以上をかかえる事業主に対して障害者を2.0%以上雇用することを求めています(国および地方公共団体では2.3%)。

 それじゃ、障害者だって働けているのでは…と楽観的に思われた方もおられましたか。平成26年の法定雇用率を達成した事業主の割合を見ますと44.7%と言われております。半数以上が2.0%の障害者雇用を平然と満たさないでいるのです。ざっくりした計算によりますと日本の障害者の方の約5%程度しか働けていないのです。

【障害者雇用促進法の問題点】 

 さて、その次です。では、この5%の働く障害者のうち、ムツボシくんのように点字を使用する重度視覚障害者はどれほどおられるでしょう。実は、この法律で雇わなければならない障害者の率を2.0%とはしたものの、その障害の種類については何ら規定していません。これまたざっくり言えば、「社内に点字使用の人がやってきても戸惑います。見えない人を雇っても何をしてもらったらいいのかわかりません」ということで全盲の人を雇用している事業所は極めて少ないのです。みなさんが事業主だったらどうでしょう。どんな障害の方でもいいので、また重度・軽度にかかわらず障害者を2%雇いなさいと言われたら、わざわざ点字使用の全盲の方を雇いますか?普通の文字でやり取りができて手間のかからない軽度障害の方をまずは雇用対象としたくはありませんか。厚労省は、この雇用促進法の法定雇用率2.0%で雇い入れられた障害者の方々の障害種別内訳のデータをなぜか公開していません。ムツボシくんの推測では、按摩・マッサージ業に関する事業主をのぞいて見ると、重度の視覚障害者の方々の雇用率が他の障害種に比べて最も低いと考えています。厚労省はどんな障害種の人が何%雇われているのかを明らかにしてほしいところです。その上で、障害種別ごとの法定雇用率をこの法律に組み込んでほしいと思います。重度視覚障害者を必ず何%雇わなければならないというようにです。

【会社が雇わないのなら自由業しかない】 

 ここまでのまとめです。私たち見えない国民のためにも法律にて雇用率2.0%があてはめられてはいる→でもわざわざ重度の視覚障害者を雇う必要は企業にはない→やれることは自由業となる→見えなくてもできる自由業として私たち視覚障害者には按摩業しか事実上ない→現に全国の盲学校にはこの按摩師等を養成する職業課程が設置されており盲学校卒業生の多くがこの業を選択している→だから今もこの按摩業にしがみついて必死で生きている視覚障害者の仲間が多くいるのです。

【19条問題とは何か】 

 視覚障害者はなかなか自由に好きな職につけず事実上按摩業が視覚障害者の職業自立の中心であることを国も認識しています。「按摩師等に関する法律」の第19条にはこんな文言があります。

 「[第十九条]当分の間、文部科学大臣又は厚生労働大臣は、あん摩マツサージ指圧師の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合、あん摩マツサージ指圧師に係る学校又は養成施設において教育し、又は養成している生徒の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合その他の事情を勘案して、視覚障害者であるあん摩マツサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があると認めるときは、あん摩マツサージ指圧師に係る学校又は養成施設で視覚障害者以外の者を教育し、又は養成するものについての第二条第一項の認定又はその生徒の定員の増加についての同条第三項の承認をしないことができる。」

 さて、みなさんは平成医療学園グループが主張するように、この19条事態が憲法が何人にも認める職業選択の自由に違反していると思われますか。視覚障害者の按摩業を国が法律で守ってあげているのは憲法違反だと思われますか。〈後半に続く〉
2018年1月4日

ムツボシくん、お笑い芸人として秋保温泉で漫談?!

 ハーイ!ムツボシくんです。2018年がスタートしました。今回は、吉本の文化のないここ東北において、ひたすらお笑いの心を伝導してきたというこれまでには見せなかったムツボシくんの側面をご紹介します。おっと、それって側面じゃなくて正面じゃん!なんて今つっこんできたあなた!あなたは立派に吉本文化がお分かりのご様子…。でもでもでもであります。そこは大学教員のムツボシくん、最近のM1やキング・オブ・コントのネタじゃあるまいし、「彼女とイルミネーションデートしたかったねん。ここでやってみていい」なんて不自然な設定で笑いを取ろうというのではありません。そこはそう、ちゃんとテーマがあるのであります。「それって見える人の優しさですか?」が今回のテーマ。障害を持ちながらもどう生きるか?共生社会の実現を見える人だけにまかせていいのですか?といった実は骨っぽいところがあるお笑いなのであります。

写真1
会場は秋保温泉岩沼屋「東北盲人会連合60周年記念仙台大会」です


 では、前置きはここまでとし、当日の音源をどうぞお聞きください。[ムツボシくんの漫談を聞く


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こちらは「華の湯」、貸切露天風呂に案内されたムツボシくん、川の音が聞こえています



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写真4
おはぎで有名な主婦の店「さいち」、おはぎ買ってみました。確かにこの小豆気に入りました