視覚特別支援学校の子どもたちに対する
「将来なりたい職業」全国調査から見えてきたもの
長尾 博(宮城教育大学特別支援教育講座)
【主な目次】
T.
盲学校におけるキャリア教育に関する問題提起
U.
調査実施の概要
1.
調査目的
2.
調査項目
3.
調査対象
4.
調査方法
5.
調査実施機関
6.
回収結果
V.
調査の結果
1.
人気のある職業
2.
学年進行で見る職業選択
3.
なりたい度とやる気度
W.
調査結果から見えてくるもの
1.
地域校における子どもたちの「なりたい職業」選択との比較から考える
2.
視覚障害をもつ者としてあり得ない職業をどう見るか
3.
形式的にはキャリアプランが立つ職業であっても実現に向けて盲学校は何をするのか
4.
「なし」をどう考える
5.
「会社員」をどう考えるか
X.
まとめに代えて
1.
なりたい職業を見つけ出す道のりは、普通校のそれでいいのか?
2.
これから盲学校はどんな子どもを世に出したいのか
引用・参考文献
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※なお、このページは、「宮城教育大学特別支援教育総合研究センター紀要」(第10感,2015年)に掲載したものをもとに作成したものです。
T. 盲学校におけるキャリア教育に関する問題提起
文科省は、2011年、「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」の答申(以下、2011年答申とする)により、幼稚園教育から高等教育までを通したキャリア教育・職業教育の在り方をまとめた。これは、各学校段階を通じて、組織的・体系的にキャリア教育・職業教育を行っていく方途を、生涯にわたるキャリア形成支援の観点に立って述べたものである。もちろん、視覚特別支援学校(本稿では「盲学校」とする)におけるこれら教育がこの枠外でよいわけはない。
昨今、盲学校をはじめとする「準ずる教育」においても、これからのキャリア教育の在り方については、いくつかのカリキュラム化に役立つ試案が紹介されている。北海道立特別支援教育センターは「視覚障害教育における自立と社会参加を見据えた指導の在り方に関する研究(キャリア教育の視点による教育活動の改善・充実)」の中で、視覚障害教育における基礎的・汎用的能力〈2011年答申がいう「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「課題対応能力」「キャリアプランニング能力」の4つ=筆者〉に、新しく「保有する感覚を有効に活用して事物などをとらえる力」を加え5つの能力が必要であることを明らかにした(北海道立特別支援教育センター,
2013)。また、岡山県特別支援学校長会は「岡山県特別支援教育キャリア教育の発達
段階表(試案)」を公開し、聴覚や知的障害といった他障害とからめての視覚障害教育におけるキャリア教育に含まれる諸能力の段階表を示している(岡山県特別支援学校長会,
2013)。
これらは、幼児期教育から高等部教育段階までを、その指導の一貫性に着目して、キャリア教育の全体カリキュラムへの包括化および「視覚障害教育におけるキャリア発達を促すための能力と態度の段階を明らかにしようとした先進的な成果であることは間違いない。
そして、次に見えてきた課題がある。それは、盲学校に在籍する児童・生徒の意識の実態、あるいは視覚障害児(生)が取り結んでいる社会関係との関わりの分析に立脚したキャリア教育の在り方の検討へと盲学校教育が進むことである。
2011年答申は、キャリアという語を次のように用いている。「人は、他者や社会とのかかわりの中で、職業人、家庭人、地域社会の一員等、様々な役割を担いながら生きている。これらの役割は、生涯という時間的な流れの中で変化しつつ積み重なり、つながっていくものである」。「人は、このような自分の役割を果たして活動すること、つまり『働くこと』を通して、人や社会にかかわることになり、そのかかわり方の違いが『自分らしい生き方』となっていくものである」。「このように、人が、生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を見いだしていく連なりや積み重ねが、『キャリア』の意味するところである」。また、「このキャリアは、ある年齢に達すると自然に獲得されるものではなく、子ども・若者の発達の段階や発達課題の達成と深くかかわりながら段階を追って発達していくものである」と説明されている(文科省,
2011)。
ここで引用した文章の主語である「人は」とか「子ども・若者」を「視覚障害者
に置き換えて再読してみてほしい。「キャリア」を説明するキーセンテンスは、「視覚障害者が、生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を見いだしていく連なりや積み重ねが、『キャリア』の意味するところである」となる。しかし、いま対象としているのは日本の視覚障害児(者)であることを忘れないでほしい。盲学校に在籍する子どもたちやその保護者がこれまで取り結んできた社会とは、障害者差別解消法の施行を声高に要求せざるを得なかった様々な直接・間接差別の実態を今も引きずっているこの社会なのである。「生涯の中で…」というが障害をもたない子どもたちのキャリア形成と平等に語れるフィールドが視覚障害児(生)の生涯にいくつあるだろう。「職業人、家庭人、地域社会の一員等、様々な役割」と答申はあげているが、「職業人」のフィールドひとつを取り上げてみても、視覚障害者の就労実態がいかに非障害者と比べて不平等な役割しか果たせていないかをいまさら述べるまでもないだろう。筆者も子どもの頃からの視覚障害者であるが、自己の障害およびその社会関係と真正面から意図的に向かい合わずして、「自分らしさ」を掲げるキャリア形成はあり得ないであろう。2011年答申の「特別支援教育」の項目では、「障害のある児童生徒については、自己の抱える学習や社会生活上の困難について総合的に適切な認識・理解を深め、困難さを乗り越えるための能力や対処方法を身に付ける」とその課題に触れているが、「困難さを乗り越える能力
と身に付けた「対処方法」で進む生き方が刻むキャリア形成に、筆者は一教育者として魅力を感じない。障害者差別を受けていない子どもたちには、「人は、このような自分の役割〈職業人、家庭人、地域社会の一員等、様々な役割=筆者〉を果たして活動すること、つまり『働くこと』を通して、人や社会にかかわることになり、そのかかわり方の違いが『自分らしい生き方』となっていくものである」としているが、視覚障害をもって生きる者にとっては、まさに、障害をもたない人々優位に造られてきたこの社会環境にあって、その社会との「かかわり方の違い」とは、答申がいう「個々人の生き方の違い」といった母集団的なくくりでは語れない違いを含むのであり、それが「自分らしい生き方となっていく」といわれても困るのである。2014年2月、ようやく障害者権利条約を発効したこの日本という社会において視覚障害をもちながらも「自分らしく生きる」とはどのようなことなのか、これこそ、盲学校におけるキャリア教育の中核にぜひ据えてほしい視点である。
そこで、これからの盲学校におけるキャリア教育を進めるためには、在籍児(生)の実態に迫る基本データの収集が不可欠となる。その第一歩として、筆者は「将来なりたい職業」の意識調査を全国の盲学校在籍児(生)に対して実施した。「なりたい職業」の名称を答えてもらうことで、現時点での社会との結びつきの様相や障害の自己理解・自己咀嚼度の様相などが職業名に現れてくると考えたからである。また、この調査で見えてきたものは、子どもたちの生の意識を反映している。よって、本調査結果をもとに、視覚障害をもちながら今後のそれぞれのキャリアを子どもたちがいかに楽しみながら、あるいは苦悩しながら、盲学校の中で形成していくのか、その過程をどう支援すべきなのかを多くの関係者とともに考える契機としたい。
U. 調査実施の概要
1. 調査目的
本調査は、全国の盲学校およびそれに準ずる特別支援学校に在籍する小学部4年から中学部3年の視覚障害単一障害児(生)に対して、将来なりたい職業名およびその職業への「なりたい度合」と「そのためのやる気度合」を調査するものである。これにより、在籍児(生)の職業意識の実態をとらえ、視覚障害をもちながらキャリアを形成していく子どもたちの支援に関する今後の盲学校のキャリア教育の在り方を考えるための基本データの収集を目的とする。
2. 調査項目
調査した内容は次の3項目である。質問は大問を3つ用意した。項目@は自由記述とし、項目A、Bは5つの選択肢を設け、1つを選択させた。
@将来なりたい職業はありますか。ある人は、その職業の名前を書いてください。ない人は、「なし」と書き、理由も書いてください。
Aなりたい職業がある人は、その職業になりたいという気持ちに一番近いものに○を付けてください。
1 必ずなる
2 どうしてもなりたい
3 できればなりたい
4 どちらかといえばなりたい
5 とりあえず書いてみた
Bなりたい職業をするためには、どのくらい頑張ればよいと考えますか。一番近いものに○を付けてください。
1 一生懸命頑張ればなれる
2 もっと頑張ればなれる
3 少し頑張ればなれる
4 頑張ればなれる
5 今のままでもなれる
3. 調査対象
調査対象者は、全国の盲学校およびこれに準ずる視覚障害部をもつ全国の特別支援学校に在籍する小学部4年から中学部3年の視覚障害児(生)であり、視覚障害以外には、知的障害など他の障害を併せもたない単一障害の者とした。
4. 調査方法
(1)調査期間
調査の実施期間は、平成26年10月1日から平成26年10月30日までとした。回収は、平成26年10月2日〜平成26年11月30日までとした。
(2)調査用紙
用紙は、点字版と墨字版を用意した。墨字版は14ポイント、18ポイント、22ポイント、26ポイントを準備し、回答者自身が文字サイズを選ぶようにした。墨字版は、調査項目が書かれたアンケート用紙に直接回答者が書き込む形式とした。点字版は別紙回答用紙への記入とした。
(3)調査方法
調査は、「なりたい職業アンケート」と題した質問紙による郵送調査にて実施した。アンケートへの回答は、対象となる児童・生徒が自ら記入するようにした。アンケートの回収までの手順は以下の通りである。
@担任の先生がアンケート実施2日前に児童・生徒に向けてアンケートを実施することを予告する。このときに担任の先生がアンケートの概要を説明する。
Aアンケートを実施するときには、児童・生徒同士の相談を禁止とする。
B児童・生徒自身が原則として回答用紙に記入する(回答時間は特に制限しなかった)。
Cアンケートの記入が終了したら、担任の先生が回答用紙を回収し、返信用封筒にて返信する。
5. 調査実施機関
国立大学法人
宮城教育大学特別支援教育視覚障害教育コース
長尾研究室(なお、調査にあたっては、ゼミ生・小西望さんの協力をいただいたことを付記する。)
6. 回収結果
(1)全体回収率
全国の盲学校およびそれに準ずる特別支援学校65校を対象として調査用紙を郵送し、48校から回答があった。回収率は、73.85%である。回答のあった48校から288人分の調査用紙を回収することができた。そのうち記入漏れ等の不備があるものを除くと、279人分の有効回答用紙を得ることができた。内訳は、小学部(4〜6年)119人、中学部(1〜3年)160人である。
(2)有効回答者の内訳
表U-1には、回答者の学年別・地方別の人数を、表U-2には、学年別・男女別・使用文字別の回答者数を示した。使用文字が「墨字」とあるのは、点字による回答以外をトータルしたものである。
表U-1 学年別・地方別回答者数
表U-2 学年別・男女別・使用文字別回答数
(3)職業名のカテゴリー化
児童・生徒から出された職業名は125種を数えた。そこで、総務省の日本標準職業分類(2009年)等を参考に、筆者とゼミ生、社会福祉士各1名で協議し41種の職業名にカテゴリー化した。表U-3はそのうち回答者数が1人のもの13種を「その他」の項目としてまとめたものである。
表U-3 職業名のカテゴリー化とその件数
V.
調査の結果
1.
人気のある職業
(1)総数による職業ランキング(表V-1)
10人以上の支持を集めたものを表V-1にあげる。「なし」と回答した者が16.5%と1位となったが、「教員」→「三療師」→「食料品製造従事者」と上位を占めた。7位に「スポーツ選手(11人)」がきたのは注目である。
表V-1 小・中学部総数「なりたい職業」ランキング表
(2)男女別に見る職業ランキング
@総数でみた男女別ランキング(表V-2)
総数を男女別にみたのが表V-2である。男子では、「なし」が総数でみた時と同じく1位だが、女子ではパティシエに代表される「食料品製造従事者」が1位となり、「なし」は2位となった。また、それぞれの職業名ベスト3は、男子が「三療師」→「教員」→「会社員」に対して、女子は、「食料品製造従事者」→「教員」→「音楽家」である。盲学校児(生)においても男女差が見られている。男子は「スポーツ選手」や「輸送運転従事者」に、女子は「食料品製造従事者」や「音楽家」に人気が集まる傾向が見られた。
表V-2 男女別にみた総数「なりたい職業」ランキング表
A学部別にみた男女別ランキング(表V-3)
次に、学部別に5人以上の支持を集めた職業で男女差を見てみたのが表V-3である。小学部段階では、男子の上位は、「なし」→「教員」→「会社員」→「スポーツ選手」と続くが、女子は、「食料品製造従事者」→「音楽家」→「教員」となり、「なし」は顔を出さない。しかし、これが中学部になると、男女ともに「なし」が1位となる。また、「教員」と「三療師」といった生徒にとって身近な仕事が順位を上げる傾向が見られ、男女差としては、依然、男子にとっての「会社員」と「情報処理技術者」が、女子にとっては「食料品製造従事者」と「音楽家」が中学部生の人気職となっている。また、小学部の男子に見られていた4位「スポーツ選手」と4位「輸送運転従事者」は中学部ではランキング外となり、自己の視覚障害を意識した選択傾向へと移行していることがわかる。
表V-3 学部別・男女別にみた「なりたい職業」ランキング表
(3)点墨別に見る職業ランキング
14pt〜26ptまでの墨字により回答を寄せた者を「墨字使用者」とし、点字使用の者との人気職の違いを見てみる。
@総数でみた点墨別ランキング(表V-4)
5人以上の支持を集めたランキングを見ると、点字・墨字使用者ともに1位「なし」→2位「教員」→3位「三療師」→4位「食料品製造従事者」と上位は同じとなった。また両者の特徴としては、点字使用者では、「音楽家」「スポーツ選手」「販売店員」が人気を集めているのに対して、墨字使用者では、「会社員」「情報処理技術者」の方がこれらより上位となっている。
表V-4 点墨別にみた総数「なりたい職業」ランキング表
A学部別にみた点墨別ランキング(表V-5)
小学部では、点墨ともに上位3つは「食料品製造従事者」→「教員」→「なし」となり、総数で上位にきていた「三療師」は墨字使用者を中心に小学部ではまだ人気がないことがわかる。中学部では、点字使用者で「福祉・介護従事者」が墨字使用者よりも多く、「通訳」をあげたのは点字使用者のみであった。
表V-5 学部別・点墨別にみた「なりたい職業」ランキング表
2. 学年進行で見る職業選択
(1)学年進行とともに顕著に増加するもの(図V-1)
@「なし」は中学部墨字使用者の4人に1人
「なし」を選ぶ回答者は、学年進行とともに増加していく。「なし」は、小学部平均では10.1%だったのが、中学部では21.3%と2倍になる。これを点墨別に見ると、墨字使用者に「なし」と回答した率が高い。点字使用者の「なし」は中学部平均14.8%を占めるのに対して、墨字使用者のそれは24.5%であり、中学部墨字使用者の4人に1人が「なし」と答えたこととなる。
A「三療師」は墨字使用者で急増し全体でも2.8倍へ
「三療師」も中学部になるにつれて多く選ばれた職業といえる。「三療師」は、小学部平均は5.0%だったが、中学部では一気に増加し13.8%と約2.8倍となる。これを点墨別に見ると、墨字使用者に率の顕著な増加が見られる。墨字使用者で「三療師」をあげた小学生は1人もいなかったのに対して、中学部では14.2%と急増する。これに対して、点字使用者では、小学部10.7%から中学部13.0%への増加となっている。
図V-1-@ 「なし」の点墨別学年進行増減 図V-1-A 「三療師」の点墨別学年進行増減
(2)学年進行とともに徐々に増加するもの(図V-2)
@男女・点墨ともに「教員」が着実に増加
全体として「教員」は、小学部平均10.1%から中学部平均13.8%へと着実な伸びを示している。男子は9.7%から12.9%へ、女子は10.6%から14.7%へとそれぞれ中学部平均を伸ばしている。また、点墨別に見ても、点字使用者が小学部平均10.7%から中学部平均13.0%へ、墨字使用者も9.5%から14.2%へと同様に増加している。
A全体として「情報処理技術者」が増加
男子中心だが、ゲーム製作などを含む「情報処理技術者」は、小学部平均3.4%から、中学部平均4.4%へと増加していく。墨字使用者に人気の職業で、全11人中、点字使用者は中学部で2人にすぎなかった。
図V-2-@ 「教員」の男女別学年進行増減 図V-2-A 「情報処理技術者」の点墨別学年進行増減
(3)学年進行とともに顕著に減少するもの(図V-3)
@小学部女子に人気の「音楽家」は全体として中学部で半減
女子に人気の「音楽家」は、全体として減少していく傾向が見られる。小学部全体平均7.6%だったのが中学部で3.8%とちょうど半減する。「音楽家」のピークは小学4年女子の27.8%、小学4年の女子の4人に1人以上が選ぶ職業となっていた。点墨別に見ると、墨字使用者は小学部4.8%から中学部4.7%と横這いだが、点字使用者は小学部10.7%から中学部1.9%へと激減する。
A小学部男子で人気のあった「スポーツ選手」は全体として中学部で半減
男子を中心に人気を集めた「スポーツ選手」も中学部で半減する「スポーツ選手」は、全体として小学部平均5.9%だったが、中学部になり2.5%と半減する。ピークは小学5年男子の11.1%である。点墨別に見ると、点字使用者の小学部平均は7.1%、中学部平均は3.7%と半減し、墨字使用者では4.8%から1.9%と同様大きく減少する。
図V-3-@ 「音楽家」の点墨別学年進行増減 図V-3-A 「スポーツ選手」の点墨別学年進行増減
(4)学年進行とともに徐々に減少するもの(図V-4)
@女子に人気だった「食料品製造従事者」が全体としてやや減少
小学6年で女子の22.2%とピークを示す「食料品製造従事者」は、小学部平均10.9%から中学部平均6.3%へと減少傾向を全体としては見せる。男女別・点墨別ともに中学部平均は小学部平均を下回るようになる。
A点字使用者に人気だった「会社員」がやや減少
「事務職
や「パソコンを使った職に就きたい」と答えた者を含む「会社員」は、小学部平均6.7%から中学部平均5.0%へとやや減少する。男子では、ピークは小学6年の17.4%だが、全体としても小学6年を山頂とする山型のカーブとなる。しかし、点墨別に見ると、墨字使用者は9.5%から4.7%へと中学部平均で半減しているのに対して、点字使用者では、3.6%から5.6%と中学部にかけて増加している。
図V-4-@ 「食料品製造従事者」の男女別学年進行増減 図V-4-A 「会社員」の点墨別学年進行増減
3. なりたい度とやる気度
回答した職業にどれくらいなりたい気持ちなのかを5段階で、また、その職業に就くための頑張る気持ち(やる気)も5段階でそれぞれ尋ね、この2つの度合の組み合わせの関係についても表V-6にまとめた(度合は「5」が最も高く、「1」が最も低い)。なりたい職業に向けて、今後の頑張り度の「やる気度」は、最も高い「5」を73.8%の者が、これに続く「4」を20.2%の者が表明しており、9割以上の者がその職業に就くために一生懸命頑張ろうと思っている様子がよく見えてくる。このやる気度を学年進行でみたものが図V-5-@(男女別)と図V-5-A(点墨別)である。全学年平均だと男子が4.67に対して女子は4.53と低くなっている。学年別では、男女ともに小学6年から中学にかけて高くなる傾向が見られる。点墨別に見ると、墨字使用者は中学部にかけてやる気度を上げていく傾向が見られるのに対して、点字使用者は逆に中学部にかけてやる気度が下がっていく傾向が見られる。
次に、どれくらいなりたいかの度合では、「3」の「できればなりたい」が45.9%と最も多かった。「5」の「必ずなる」の24.9%と「4」の「どうしてもなりたい」の20.6%がこれに続く。なりたい度の学年進行変化を図V-6-@(男女別)と図V-6-A(点墨別)に示す。男女ともに全体的になりたい度は下がっていく傾向が見られる。また、点墨別では特徴的な変化は認められない。ただ、職業別になりたい度の平均を見ると(表V-7)、「スポーツ選手」が1位、「音楽家」が2位となり、「食料品製造従事者」や「会社員」は下位となった。これは、表V-1にみた人気順のランキングとは大きく異なっている。
表V-6-@ なりたい度とやる気度の関係
表V-6-A なりたい度とやる気度の組み合わせ順位
図V-5-@ やる気度の男女別学年進行増減 図V-5-A やる気度の点墨別学年進行増減
図V-6-@ なりたい度の男女別学年進行増減 図V-6-A なりたい度の点墨別学年進行増減
表V-7 なりたい度からみた職業ランキング
W. 調査結果から見えてくるもの
1.
地域校における子どもたちの「なりたい職業」選択との比較から考える
表W-1は、ベネッセ教育総合研究所が2009年に実施した地域校の子どもたちの「第2回子ども生活実態基本調査報告書」から「なりたい職業ランキング」を取り出したものである(以下、「2009年ベネッセ調査」とする)。対象学年は小学4年〜中学3年と本調査と同様である。標本数は小学生が3561人(18校)、中学生が3917人(12校)となっている。これとの比較において、盲学校全国調査が示す「なりたい職業ランキング」に登場する職業名を再度眺めてみよう。中でも、両者で人気のある職業、ベネッセにおける「スポーツ選手」と、盲学校における「教員(ベネッセでは「学校の先生」)「三療師」に着目する。
地域校の男子が小・中ともに1位と2位にあげている「スポーツ選手」であるが、現在、プロをある程度意識して学校のクラブや地域のチームなどで汗を流しているかもしれない子どもたちが、これらプロ選手を「なりたい職業
にあげることに違和感はない。もちろん、プロまで進めるのはほんの一握りの狭き門であるが、教育者として小・中学段階で「それは止めた方が無難だ」とは口出ししないだろう。後でも述べるが、しかし、盲学校の子どもが「プロ野球」などと「スポーツ選手」をなりたい職業にあげるのは違和感だらけとなる。これはなぜだろう。もちろん、盲人スポーツにプロの世界がないといった理由だけではない。好きなこと=なりたい職業と直結するのは障害のない子どもたちも同様であろうが、盲学校に在籍する視覚障害児(生)が、少なくとも小学4年までに、「見えないとできないこともあること」へ思いをはせられていない事実に違和感を感じるのである。
次に、「教員」を取り上げる。2009年ベネッセ調査より盲学校調査の方が明らかに「教員」を選ぶ率が小・中ともに高い。これは、「三療師」も含めて、身近な職業であることが大きいであろう。別の言い方をすれば、「教員と三療師の他にはどんな職業があるかわからない」と言いたかったのかもしれない。「教員」「三療師」のなりたい度が他の職業に比べて特に高いとは言えなかったことも思い出せる。また、墨字使用者で「三療師」と答えた者は、小学生では0であったが中学部で急増する。彼らは小学部時代は「三療師」以外を「なりたい職業」として目指そうとしていたと考えられる。また、点字使用者では小学部段階から、「三療師」をあげる者が10.7%いることも併せて考えると、「三療師」以外に思いつかないといった意識が盲学校の子どもたちの中にあるように感じる。この傾向は点字使用者に強いようである。
表W-1 2009年ベネッセ調査に見る小・中学生男女別「なりたい職業」ランキング表
2. 視覚障害をもつ者としてあり得ない職業をどう見るか
盲学校教育関係者は視覚障害児(生)が11人も「スポーツ選手」をあげたことをどうとらえるだろう。種目は「野球」「水泳」「マラソン・陸上」「卓球」「テニス」「ゴールボール」などである。また、6人が運転士などの「輸送運転従事者」をあげており、「警察官」「理容師・美容師」「獣医師」「消防員」「画面を見て吹き込む声優」「花火師」なども少数だがあげられている。これらをあわせると総数の10.0%が視覚障害があればできないと断言したくなる職業を小学4年生以上の者があげたこととなる。盲学校教育関係者は、この状況を「夢があっていい」と放置あるいは激励するのだろうか。筆者は、小学4年以降において、あり得ない選択と言いたい。今後、彼らのこれら「夢」をいつ冷却するのかも大きな課題であるが、盲学校教育として、自己の視覚障害を見つめさせる教育をいつからどの分厚さで教育計画に入れていくのかが問われている現象といえる。
3. 形式的にはキャリアプランが立つ職業であっても実現に向けて盲学校は何をするのか
免許取得などにおいて、障害を欠格条項とするものに関する見直しは近年全廃の方向に進んではいる。欠格条項が全廃されている調理師免許や製菓衛生師免許を視覚障害者が取得することは理論的に可能であろう。また、医師免許や保健師、助産師、看護師又は准看護師免許のように視覚障害が絶対的欠格事由から外されたものも多い。ただし、看護師免許に例をとるが、国家試験は合格しても免許の交付に当たっては視覚障害の程度や障害を補う手段等の考慮によっては、相対的欠格事由としてその申請を受け付けられない場合もまだ残っている。
このような中で、女子に多く見られた「パティシエやケーキ屋」に代表される「食料品製造従事者」を例に取り、この職業を希望する児童・生徒に対してどのような支援が望ましいかを考えてみる。必要な資格を取るために、専門学校等への入学に向けてのキャリアプランを立てることはできる。しかし、実習やその後の修行等をどのように進めるのか等、調理関係者の理解に支えられた社会全体の理解を推し進めない限り実現は困難であることが容易に予想される。洋服屋や花屋、ペットショップなどで働きたいという「販売店員」や先にあげた弱視にとっての「保健師・看護師」などの職業も同様である。いまの日本ではまだまだ職場の良き理解者を前提としなければ実習すら困難な職業をなりたい職業としてあげる児童・生徒に対して盲学校教育はどのような立場をとればよいだろう。「頑張れば道は拓ける」と心から応援したいところではある。つまり、自ら視覚障害者にとっての新職業開拓の道を進もうとする子ども像をも盲学校はその教育目標として大切にするのかが問われてくるのである。
4.
「なし」をどう考える
「なし」と回答した者に求めた「その理由」を分類したのが表W-1である。「どんな職業があるかわからない」と「考えたことがない」と回答した者を合わせると、小学部では理由を書いた者12人中8人(66.7%)が、なりたい職業への無関心を示している。中学部では24人中7人(29.2%)とさすがに半減する。しかし、小学部で3人に2人が、中学生になってもまだ3人に1人は将来の自分像に無関心のままであることは、盲学校教育の課題として子どもたちのキャリア発達支援がまだ全国的には浸透していないことを示しているのではないだろうか。
また、考えているが見つかっていないとした回答が中学部で多くなり(70.8%)、自己の将来像への関心が盲学校でも中学部において高まっていることを示している。その中でも、「なりたい職業とできる職業の整理がつかない」とする回答が3人(12.5%)だが見られている。これは視覚障害者として今後のキャリア形成を自覚しつつ職業を模索し苦悩する姿と評価したいが、ただ、残念ながらあまりにも少ない件数である。
表W-2 「なし」と回答した理由の内訳
5.
「会社員」をどう考えるか
総数で5位(5.7%)であり男子総数では4位(8.3%)となる「会社員」であるが、その内訳を見ると、パソコンを用いる仕事に就きたいと明記した者が全回答者16人中8人と半数を占めている。視覚障害という自己の理解に基づいての選択かどうかはわからないが、パソコンを使ってできる仕事があることが「会社員」をなりたい職業として上位に押し上げたといえる。ただ、2009年ベネッセ調査によると同世代の子どもたちでは、「会社員」を「なりたい職業」としてはほとんどあげていない(小学生男子9位の1.3%。中学生ではランキング入りしてこない)。「会社員」に人気が集まるのは盲学校独自の傾向といえる。見える子どもたちにとって、「パソコンが使える」=「なりたい職業」とはならない。パソコン自体は道具であり職種ではないからだ。盲学校では、自立活動等を通してパソコンは使えるようになる学習の一つとして大きく位置づけられている。そのため、盲学校では、音声や拡大環境にてパソコンが使えるようになること自体が、単なるパソコン操作を「できそうな仕事の一つ」とする錯覚を与えているといえる。点墨別に見ると、中学部になっても点字使用者に「会社員」をあげる者が依然多い。点字使用者にとって「三療師」や「教員」以外の他の職業となると、「音声でパソコンが使える仕事」と結びつきやすくなっているこの傾向は何を示しているだろう。自分は何ができるのかといった職業に対する視野の狭さが、墨字使用者よりも点字使用者に、より強く表れている傾向とはいえないだろうか。とするならば、「パソコンを使った仕事」というのは、「なし」の回答の1種とも考えられるのである。「会社員」のなりたい度が他の職業に比して低いのもそれを表しているといえる。
X.
まとめに代えて
以上、見てきた視覚障害児(生)の実態傾向から、盲学校教育関係者とともに今後考えていきたい、いわゆる盲学校におけるキャリア教育についての課題を、最後にあげさせてほしい。それは一言でいえば、「これから盲学校はどんな子どもを世に出したいのか」ということとなる。
文科省初等中等教育局児童生徒課生徒指導調査官として2011年答申のまとめに関わった藤田は、キャリア教育は学校づくりでもあるという側面を強調し、「各学校が向かうべき方向性を改めて認識することを促進」し、「その実践は学校として果たすべき役割を遂行していく上で不可欠だ」という(藤田,
2014)。盲学校においても、キャリア教育がもつ学校づくりに直結する側面を重視し、キャリア教育をめぐる議論が、障害者権利条約下の社会におけるこれからの盲学校像およびこれから盲学校が世に送り出していきたい子ども像を明らかにしなおす契機となるだろう。
1. なりたい職業を見つけ出す道のりは、普通校のそれでいいのか?
(1)盲学校で、やりたい仕事探しへの加熱をする意味はどこにあるのか?
地域校におけるキャリア教育において、しばしば語られる、「加熱→冷却→現実への着地点」といったなりたい職業見つけへのアプローチだが、盲学校もこの道筋でいいのだろうか。盲学校においても、「なりたい職業
を加熱することは容易である。サウンド・テーブルテニスが大好きな男児が「プロの卓球選手になる」といっていたとする。先生は彼を励まし(加熱)、違和感なく先の学部へ進学させる。そして、中学部になり、周辺状況から、その職業を希望することの無謀さに気づいた彼は、「なりたい職業=なし」のグループへと入るのだ。
ここには「自己理解」に関する盲学校側の支援が見えてこない。私は、「見えない、見えにくい」という自己理解は幼児期からの課題として位置づけるべきと考える。「ぼくは、見えないから落とした物は手で触ってさがすんだ」とか「手でさがしても見つからないので‘見える人’を呼んで探してもらうんだ」といった意識を芽生えさせながら、「自分は見えないけど、見える人もいる」といった自覚、それは「支援を一方的に受けるのが見えない人」といった自覚では決してない。「見えなくても、見えにくくてもこんなふうに工夫して楽しく遊んでいるよ」「見える先生にここだけ手伝ってもらったらあとは一人で大丈夫なんだ」といった意識の形成であり、まさに、この自己理解の段階が幼児期のキャリア形成課題と考えられる。
児童期に入り、「なりたい職業」を考えるにあたり、おそらく、自己の視覚障害を内面に見据えてきた子どもたちは、「見えなくても・見えにくくても、こんなことができるんだ」といった世界があることに、支援者が触れない限り、意図的に触れさせてあげない限り「なし」グループもしくは、好きなこと=できる職業という錯覚グループに入るおそれがある。児童期には、ぜひ、見えなくても、見えにくくても工夫や支援の中でできる職業を求め、そのためのぶれない生き方を追い続けた人、実際にその道を開こうとチャレンジしてきた先輩たちがいたことに目を向けさせてあげてほしい。その中で、子どもたちが見つけたものがあればこその「加熱」に意味があるのである。
小学部段階から「教員」と回答した者が多いこと、点字使用者では「三療師」も小学部から増えていくこと、これらは一見、視覚障害を自己理解しての選択がある程度進んでいる証拠のように見える。しかし、反対にいえば、この2つの職業しか見えてないのだともいえる。「教員」や「三療師」をあげた者に対して、「身近な存在だから」ではなく、どうして自分もなりたいのか、そのための困難やあるいは実現したときの楽しいイメージなど膨らませながらの選択となっているのか、それを突き詰める過程がここでいう「加熱」なのである。「加熱」過程をなくしてつまり悩む過程なくして、視覚障害があってもできる仕事=「教員・三療師」となってはいないか再度子ども自身およびその支援者に問い返してみたいところである。
(2)新たな道を切り拓いて世に出ていこうとする子どもたちを盲学校は見守るだけなのか
次に触れたいのが「パティシエ」に例をとるが、資格は取れても実際に職業人としてはかなりの困難が予想される職種を希望する者への支援である。ここでいう「希望」とは、もちろん前段の議論を踏まえての希望である。つまり、視覚障害があっても、やっていきたいとその困難も自覚してその道を切り拓こうとしている姿のことである。全盲生を調理師学校に入学させるための支援、それが実現したとしても実習・修行期間の支援は誰がするのであろうか。そこを見通したキャリア教育となっているのかである。その「やりたいこと」が実現可能かどうかについての探求(判断)は、基本的に生徒個人に任せていいのであろうか。実現に向かっての探求に、支援者として盲学校はどこまで立会い続けるのか、生徒の判断を見守るだけという立場もある。また、進学先の調理師学校と連携し社会に向けて理解の輪を広げていく支援者としての立場もある。なかなかに広がりを見せない視覚障害者の一般就労ではあるが、後者の立場に立ち、視覚障害者とともに働く共生社会実現に向けて、歴史ある盲学校だからこそ具体的に社会に発信できることがあるのではないだろうか。
2. これから盲学校はどんな子どもを世に出したいのか
(1)視覚障害者としてのキャリアアンカーをもつ人材の育成
キャリアアンカーとは、「個人の職業生活における『錨』のポジションに位置づくものであり、転職を繰り返したとしても、その根っこで通じている価値観のようなもの」を指すという(児美川,
2013)。児美川はこのキャリアアンカーを説明して、「なぜ、その職業(仕事)をやりたいと思うのかの根っこに存在するもの、人を支援したいとか、コツコツと物事を地道にやり遂げることに満足感を感じるとか、といったより深いレベルでの価値観」であり、この価値観の自覚が自分の軸となり、「軸をもって特定の職業(仕事)をめざすのであれば、たとえその職業(仕事)に就くことができなくても、困ってしまうようなことにはならない。大切なのは、職業(仕事)それ自体ではなくて、自分の軸に基づく価値観を実現すること」という。
盲学校教育で位置づけるべきキャリアアンカーとは何か。自己の障害を改善・克服するために身につけた諸能力だけでは社会参加が実現できない場面において、合理的な配慮を申し出て関係者と調整しつつ時間をかけてでも、その諸能力の全面的な発揮、やりたいことの実現を目指して差別に負けない軸(心)を育てることが、私は盲学校教育におけるキャリアアンカーであると考える。なぜなら、このようなキャリアアンカーをもつ子どもたちを育てる過程こそが、盲学校は子どもの未来をどこまで支援するのかと関わってくるからである。つまり、「パティシエ」になりたいという子どもを前にして、「資格は取れても、どうやって、どこで修行させてもらうの? 現実的には、盲学校が支援できるのは調理師学校への入学までよ」と現実に直面しても、ぶれない軸(アンカー)をもってチャレンジし続ける子ども像を教育目標として位置づけていくのかが盲学校は問われているのである。キャリアアンカーの視点から、「やれること」、「やるべきこと」を追求し、自分らしく生きるためのこの「軸」を、一緒に見つけ出す作業としてのキャリア教育が必要となっているのである。
(2)キャリアアンカーを育てる盲学校となっているか
視覚障害をもちながら生きる軸の形成にあたって、子ども達の将来像を刺激するものが盲学校にはあまりにも少なすぎる現実はないだろうか。子どもたちが各発達段階で、自ら感じ取れ、かつ、あたかも手に触れられるような将来像(やれること、やるべきこと)のイメージがもてるような取り組み(体験など)がさらに求められている。
「日本にはまだ点字図書館はない。あってもよいのではないか。こんな立派なやり甲斐のある仕事がまだ残されている。」とは日本点字図書館創立者、本間一夫の言葉である(本間,
1980)。視覚障害者のためにするやり甲斐のある仕事は本間の時代とは違って、本当に今はもうないのか、今となれば、私たち視覚障害者の出番はなくなってしまったのだろうか。私たちが視覚障害をもちながら生きる上で訴えていきたいことは、すべて見える人たちがちゃんと考えてくれているという理解でいいのだろうか。これは立派な盲学校におけるキャリア形成のための教材である。
また、盲学校に流れる風自体が子どもたちのキャリアアンカーを太らせる栄養分を運んでいるだろうか。例えば、「職業体験活動」は教師が準備した社会学習の一つになっていないか、優しくされたり配慮されたりする体験にとどまっていないだろうか。教師は「進路指導」を暗く語ってはいないか。「一番その厳しい現実をよく知っているのが私たちです」とあたかも自慢しているかのようになってはいないだろうか。盲学校自体が自分らしく輝いているか、盲学校は、視覚障害者の生き方を語っているか、見せているか。見えない人と見える人が支え合って働き、ともに生きるための工夫や方法を社会に発信しているのだろうか。このように、キャリア教育を考える中で、学校づくりとして再考したい点はいくつも見えてくるのである。
きっと、盲学校教育関係者の方々には、私がここにあげた子どもたちの実態の特徴的な傾向以外に気になる諸点を見つけ出されることだろう。また、私があげた盲学校教育の現状分析からの諸課題には腑に落ちない諸点を感じておられることだろう。ぜひとも、本調査を職場の机の上に乗せ、子どもたちのキャリア発達・キャリアアンカー形成についての議論の場を、今一度設けてほしいところである。
【文献】
児美川孝一郎,
2013, キャリア教育のウソ,
筑摩書房, p79.
藤田晃之,
2014, キャリア教育基礎論,
実業之日本社, p62.
本間一夫,
1980, 指と耳で読む,
岩波書店, p31.
岡山県特別支援学校長会,
2013,岡山県特別支援教育キャリア教育の発達段階表(試案),
http://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/358822_pdf1.pdf
(参照 2015-04-28)
障害者欠格条項をなくす会,
2011, 政府の欠格条項見直しで、63制度はどう変わった,
http://www.dpi-japan.org/friend/restrict/shiryo/system63.html
(参照 2015-04-28)
総務省統計局,
2009, 日本標準職業分類,
http://www.stat.go.jp/index/seido/shokgyou/hen_h21.htm
(参照 2015-04-28)
ベネッセ教育総合研究所,
2009, 第2回子ども生活実態基本調査報告書,
http://berd.benesse.jp/shotouchutou/research/detail1.php?id=3333
(参照 2015-04-28)
北海道立特別支援教育センター,
2013, 視覚障害教育における自立と社会参加を
見据えた指導の在り方に関する研究〜キャリア教育の視点による教育活動の改善・充実〜,
北海道立特別支援教育センター研究紀要 第26号,
http://www.tokucen.hokkaido-c.ed.jp/?action=common_download_main&upload_id=816
(参照 2015-04-28)
文部科学省中央教育審議会,
2011, 今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2011/02/01/1301878_1_1.pdf
(参照 2015-04-28)
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