ムツボシくんの山城全盲物語
むつぼしくんが飛行機に乗っている画像
2022年12月29日

金・銀は愛でずとも、触る紙に福来たる!

 ハーイ!ムツボシくんです。今回は紙粘土で愛でる金閣寺と銀閣寺のお話しです。さすがに金閣(鹿苑寺の舎利殿)と銀閣(慈照寺の観音殿)はともに世界遺産!修学旅行生向けでしょうか、お安い模型もあり形だけならざっとつかめます。

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こちら400円、なぜか銀閣は銀色?大きさも本来は銀閣は金閣の3分の2のはず



 手でみる旅人ムツボシくん、増えてきた修学旅行生にもまれながら先日久しぶりの金銀めぐりをしてきました。ただ、思った通り、両者ともに手で楽しめるものはまったくなく、手でみる旅先としてはご紹介できないのが残念です。

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見えたら息をのむ?見えないから何をのめばいいのか金銀様よ(左:金閣。右:銀閣)



 これら二寺のうち、唯一これは!と触れてみて楽しいのは銀閣寺垣でしょうか。総門から中門までの約50mほど続く銀閣寺垣は珍しいもの。根元から石垣、その上に竹垣、そして椿の生け垣と三段に積み上がった背の高い垣根。手でバッチリ観察できます。

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銀閣寺垣は下から順にしっかり触ってみよう



 「まあ、金閣・銀閣ともに模型があるからこれでわかった!と許してあげるか…」とも考えたのですが、それにしてもくやしい。もっと見えなくてもわかりたい。そこで思いついたのが紙粘土でありました。果たして「さわる紙(粘土)に福来たる」か…?

 こちらは金閣寺にある足利義満お手植えの五葉松。京都の三大松のひとつ。舟の形をしており西の極楽浄土を目指しています。

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義満遺愛の盆栽からここまで大きくなった陸舟の松



 休憩した茶店にて、スマホ写真を横に紙粘土でヘルパーさんに作っていただいた陸舟の松の作品がこちら!

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おっ!なるほどこちらが舳先。そして真ん中がもしかして帆?



 銀閣寺では、有名な向月台と銀沙灘を知りたいとヘルパーさんに無理をお願い。2つとも砂盛りです。波紋を表現した銀沙灘と白砂の円錐の上部をカットしたような形の向月台(高さ1.8m)。ともに月の光やそれが反射する様子を愛でるものらしいのですが、これだけは言葉だけではまったくイメージがわかりません。

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庭園に反射する満月の光は背後の月待山から射し込むのだ!といわれても…



 仕上げとばかり、食後のテーブルにあった爪楊枝で銀沙灘に波紋をつけてくださったヘルパーさんの力作がこちら!

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はじめてわかった銀沙灘と向月台の形と配置!月光を待つ人の気持ちでも想像してみるか…



 視覚障害者のみなさん、いかがですか?同行いただく見える人に「ちょっと、それ、ザッとでいいので作ってもらえませんか?」とお願いしては…。そして鞄からそっと紙粘土を出してみるのです。

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おすすめの紙粘土はダイソーのこちら。軽くて手にもつきにくい
2022年11月23日

手でみる京都深草・伏見稲荷のお山めぐり

 ハーイ!ムツボシくんです。外国人観光客からナンバーワンの支持を受けている千本鳥居がシンボルの伏見稲荷大社。「おいなりさん」と呼ばれて有名ですよね。全国約30000社ある稲荷神社の総本宮でもあります。

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こちらが横からみた本殿、よくある流造よりもさらに屋根が前に伸びる



 実は主祭神の稲荷大神が鎮座するのはこの本殿のみではなく、稲荷大社が立つこの稲荷山全体がご神体となっているのです。よって、稲荷山一体に多くの神社が点在し至る所に神跡があり、それらをめぐるお山めぐりが盛んなのです。(稲荷山めぐりのコース例はこちら

 このように奥深い稲荷山にムツボシくんがやってきたのでありました。今回がはじめてのお山めぐり、手でみる稲荷山ポイントをいくつか見つけたので紹介しましょう。

 これは珍しい!狛龍と狛馬に触れることができました。普通は狛犬ですよね。

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狛龍(伏見神宝神社)



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こちらは狛馬(奥村社)



 こちらは、私たち視覚障害者にはとりわけ関心深い目の病にご利益のある眼力社。「眼力」から「先見の明」に通じて未来が見通せる力も授かるかも…。まるで空を飛んでいるような狐の手水がありました。
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空飛ぶ狐の口から浄めの水



 11月の稲荷山は各者にて御火焚祭の大祓の神事が開催されるようです。この日は薬力社にてムツボシくんも大祓神事に出くわしたのでありました。
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「末永く街歩きができる足腰を…」と護摩祈願


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薬力社で振る舞われた焼きみかんをしっかりゲット


 次は岩石信仰の地でもある稲荷山を象徴するパワースポット。こちらがその長者社神跡にある雷石。なんでもこの石に落ちた雷を神が閉じ込めているとも伝わるのです。
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雷石に前身をあわせてしっかり超人的なパワーをいだたきましょう



 いよいよ一の峯に続く階段です。ちなみに稲荷山には三の峯までお山めぐりは続きます。稲荷山ではお山めぐりの参道の至る箇所が千本鳥居の風景です。
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山頂に向かう参道もこの通りの千本鳥居


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ふーふーふぅ!要約山頂・一の峯233m地点で焼きみかんで一服


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四ツ辻にある老舗茶屋「にしむら亭」で昼食、こちらは俳優・西村和彦さんのご実家



 今回の紹介はこの辺にします。麓に降りてくるとなんと猫ちゃんがお出迎え!地域猫に癒やされます。

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まるで稲荷山の観光大使・サービスたっぷりの地域猫たち



 地域猫の取り組みには愛猫家ムツボシくんも賛成です。ただ、不妊去勢手術の後につけられる耳のさくらカット!うーん、誰がこんなルール考えたのでしょう。猫の耳を一部削るなんて!猫は耳の先もふくめてあの完全なフォルムが大切なんです。猫を愛する触る文化で生きるムツボシくんとしては耳につけられるさくらカットは許せません。他の識別手段を考えてほしいものです。

 奥深い稲荷山、機会をみつけてもっと手で楽しめるポイントをこれからも探していきます。それにしても、周りの観光客がもれなく目にしているコースマップ!「ムツボシくんも点字・点図のマップがあったらどんなにたのしいか。誰か作ってくれないかな?」と心の中でつぶやくのでありました。
2022年9月29日

見えなくても手で読み解きたい作家の思い~視覚障害者のための美術鑑賞

 ハーイ!ムツボシくんです。9月10日、ムツボシくんは「手だけが知ってる美術館 第5回 清水九兵衞/六兵衞」という美術鑑賞会に参加しておりました。

今回は清水九兵衞の作品に触れられるのです。このように視覚障害者が作家の本物の作品に触れられる機会はほとんどないのです。企画いただいた京都国立近代美術館に感謝です。

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焼き物・花器



写真2
こちらも焼き物・花器



 金属工芸家の側面も強い清水だけに、焼き物でも粘土を手でひねるというよりも粘土の薄い板を金属板のように曲げて形にした感じがしました。

また、見る文化で生きていないムツボシくんにとって写真2の花瓶のこの左右の穴には違和感!なんでこんな折り目近くでしかも端っこに穴をあけちゃうの?触覚の住人としてはこの左右の穴は雑音そのもの、もっとすっきりとした斜面にしてほしいと感じました。

 以上はあくまで私が手を通して感じたこと。作家・清水の思いではないのです。

写真1を私は着物の襟元のようにイメージしました。

でも、清水が抱いたイメージとは絶対に違うでしょう。

ムツボシくんはそこがいつも歯がゆいのです。

作家の思いを知りたい。

いえいえ作家の思いまでもとはいわなくてもせめてその作家独自の表現技法の一部だけでも手で読み取りたいのです。

鑑賞の専門家の方たちに「ここを触れてみてください。

この感じがこの作家の特徴です。」みたいに教えてもらえるイベントに参加したいものです。

 ところがです。美術館などで開催いただく視覚障害者が参加できる美術鑑賞会のほとんどが、参加者をグループ単位に分け、作品を前にして互いに感想を出し合って終わるというものが多いのです。

 【視覚障害者のための美術鑑賞を企画される方々へのお願い】 

僭越ながら私がこれまで参加させてもらった美術鑑賞会への物足りなさをあえて書かせてください。

これまで視覚障害者への美術鑑賞を企画してくださった方、怒らないでくださいね。今後の課題と取ってくださいね。

 a.作品を触りながら「さあみなさんで感想を出し合いましょう」ってスタイルは物足りません。作家の思いより鑑賞者の思いが大切にされても「美」には近づけないのです。

 b.特に、絵画作品のように直接触れられないものを前に「ああだ、こうだ!」とボランティアの説明を聞いても「美」はまったく感じません。たとえその作品から美を感じているボランティアが説明をしてくれても、その人の言葉からは視覚障害者に美は喚起されないのです。ボランティアの感想を聞いて、どこが視覚障害者のための美術鑑賞会なんでしょう。

 c.見える主催者は、美術鑑賞を触覚を通して行うということを神秘化しておられるのか、視覚障害者が作品に触れた感想をやたら珍重してくださいます。手で鑑賞するということは「ここを触れてみてください」「この感じがこの作家の特徴です、手で読み取れますか」と、作家の思いを手で読み解いていく過程を意味するのではないでしょうか。触れた印章を視覚障害者に語らせるだけで主催者が満足するイベントを企画する時代はもう過ぎたと思います。

 【まとめ】 視覚障害者の美術鑑賞において、他人の言葉を介在させての作品との対峙からは彼に「美」は生まれません。彼自らの感覚(主に触覚・聴覚)による作品との直接の対峙にこそ彼に美の発見のチャンスはあるのです。

手で鑑賞する場合の美とは作家の思いに近づくために彼が振り下ろす感覚の鍬による作家の思いの発掘作業の課程にあるのです。

この作家や作品に対して、どこにどのように鍬入れをしたらよいのかを視覚障害者が独学で学ぶことは極めて困難です。

鍬入れのポイントを鑑賞の専門家から、まさに手を取って教えてほしいのです。

本物の作品を前にして、その作家の思いを手で読み解く技を知ることができるイベントがいつか企画される日をムツボシくんは楽しみにしています。

写真3
フィギュアという大きな鋳物の作品



 ムツボシくんは「これ、巨大なネクタイピン?」て思いました。「さすが触覚で生きている人の感想、とてもおもしろい。」って当日見える人から褒められました。私が知っている物体で似ている物は何かないか?必死で頭を回転させてようやく出てきたのが「ネクタイに留まるネクタイピン」。この鑑賞を褒めてもらってもムツボシくん、清水九兵衞の美には何も近づけないのであります。

[参考サイト]
○手だけが知ってる美術館 第5回 清水九兵衞/六兵衞
 https://www.momak.go.jp/senses/workshop_kyubey.html

○生誕100年 清水九兵衞/六兵衞(京都国立近代美術館)
 https://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionarchive/2022/449.html
2022年9月21日

‘萩振る舞い’ってなんだ!伏見の釜敷さん・勝念寺

 ハーイ!ムツボシくんです。いきなりですが、まずはこの写真をみてください。萩であふれています。

写真1
萩があふれてくる勝念寺門前


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門をくぐればいきなり‘萩振る舞い’


写真3
萩をかきわけかきわけ境内を歩く


 こちら勝念寺は伏見区丹波橋に1587年に創建された浄土宗のお寺。織田信長の帰依を受け安土の仏様が安置されました。中でも、閻魔法王の後ろに安置される釜敷地蔵尊は地獄の釜の中に立たれている極めて珍しいお姿とか。地獄のみならずこの世で味わう釜ゆでで苦しむ人の身代わりになって、自ら煮えたぎった釜の中に入っておられるのです。
写真4
閻魔法王と身代釜敷地蔵尊(釜はよく見えない)


 萩は境内に散りかけているとのこと。ちょっとここで萩の花を触察!花びらは何枚?果たしてその形は?ところが指ではよくわからないのです。サクラのように上から見たらすべての花びらが開いて丸く広がっているイメージでいましたが、あれっこれって広がっているの?えっ、広がっているのはこの花びら1枚だけじゃないの?そこでムツボシくん、指よりもずっと分解能の高い唇や舌の登場です。
写真5
萩さん、どうしてパッと開かないの?これで満開なの?


 9月15日、この日は約6キロのお散歩でしたが、伏見の萩寺に興奮したムツボシくん、竜馬通商店街の甘酒ハウスにてフクラハギの興奮も沈めたのでありました。
写真6
玄米甘酒450円也

[参考サイト]
○京都伏見・勝念寺(かましきさん)
 https://kamasikisan.wixsite.com/syonenji

2022年8月30日
見えなくてもどこまで楽しめる観光特急「しまかぜ」
 ハーイ!ムツボシくんです。ちょっと今回のテーマは愚問でしたね。そんなん、鉄道ファンなら見える・見えないにかかわらず一度は乗りたい近鉄観光特急。見えなくても好きな人にはたまらない点満載でしょう。残念ながら鉄分の薄いムツボシくん、今回は教育者目線にてレポートしてみます。

写真1
伊勢市駅4番線に入るしまかぜ


 先頭展望車両の3列目をゲットしていたムツボシくん。指定席に向かう間に、どこが豪華なの?と触覚と聴覚をピクピク。床の敷物が違う、走行音が静か、そしてこの座席は革張り!


写真2
脚も持ち上げてくれるリクライニング、なんと腰のマッサージ機能もあった!



 弱視の人なら先頭まで進んでみてほしい。すぐ目の下に運転士、そしてこの展望。視力0.01でも目から感じるものがあるだろう。ムツボシくんでも運転席から聞こえてくるナビのような合成音に少し興奮。操縦席のナビは「6両停車」と連呼しつつしまかぜは丹波橋駅へ。

写真3
丹波橋駅に近づくしまかぜ先頭車両運転席目線



 頻繁に横を通るアテンダントをつかまえて3号車のカフェカーに案内してもらうのもよい。せっかくなのでと財布の紐がゆるむのが旅というもの、人気の「海の幸ピラフ」を注文してみた。

写真4
さすが\1500、イセエビだぜ!


 車両間の移動はたいへん。この路線、よく揺れるので注意。車内の点字表示はトイレ以外にはない。一人で座席まで戻るときは気をひきしめて歩こう。


写真5
近鉄京都駅にてしまかぜとお別れ



 さて、しまかぜの旅を全盲者の視点からまとめると、見えない分、景色を楽しめないところは減点だが、ただ、しまかぜに乗り込んでこそわかる、全盲者でも感じ取れる部分は見てきたように多々ある。特におすすめはアテンダントやカフェカーのウェイトレスさんとの会話を楽しむことだ。特別な電車だけに乗務員のみなさんは、会話もサービスのうちと意識されておられる感じがした。ということで全盲者でも依頼の仕方ひとつで十分楽しめるのが「しまかぜ」であった。
写真6
しまかぜの車両文字はさわってわかる。「ぜ」の濁点を指でとんとん!


写真7
今回のおみやげは記念乗車券・しまかぜ弁当・しまかぜホチキス

[参考サイト]
○観光特急しまかぜ/近畿日本鉄道
 https://www.kintetsu.co.jp/senden/shimakaze/
2022年8月15日

もうひとつの足付け神事(北野天満宮)

 ハーイ!ムツボシくんです。連日35度超えの京都の午後、涼を求めて足付け神事にガイドヘルパーと出かけました。夏の足付け神事と言えば下鴨神社の御手洗祭が有名。でも、もうひとつの御手洗祭がここ北野天満宮でも行われているのです。見えなくても大丈夫、けっこう楽しめます。

 お供えするローソクは色によりお願い事が決まっているようです。ムツボシくんは欲張って紫(無病息災)と白(開運)の2本。水量は膝下くらい。川に入ると川底も安定しており川岸も杖でさぐればわかりやすく歩道を歩くのと変わりません。途中で火をともしてもいいのですが、ローソクを持って歩くには少し斜めに傾けて歩かないと指先に蝋がしたたってきます。

写真1
ローソクを選び御手洗川に。水の流れを感じ取り一人で進みます



写真2
休憩所に氷の涼



写真3
川の左を意識しつつ歩くとローソクをお供えする場所に



 ローソクは釘に立てていくようです。初めての人はおうちで一度ローソクを釘に立てる練習をしておくといいですね。それとモタモタしていると蝋が溶けて流れて指先に!アチチッとなります。これも一度は経験しておくとあわてないかもです。

 この足付け神事、見えなくてもなかなか楽しめました。それは的確な声かけをいただくだけで一人でお参りできるからです。

 こんな体験だけじゃ物足りない!という方は同時に開催されている御本殿石の間通り抜け神事にも参加してみましょう。きっと知的好奇心がムクムクです。

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横から撮影すると、拝殿(右)とその後ろの本殿(左)、その間が石の間です



 特別公開では、国宝の本殿内部に案内され、いくつもの珍しい宝物の説明が聞けます。係の人にお願いしたら弱視の方もすぐそばまで近づけますよ。いただいたパンフレットから2点ほど抜粋します。



珍しい桃の意匠の蟇股



写真6
最近発見された10世紀の木像鬼神像13体

[参考サイト]
○北野天満宮
https://kitanotenmangu.or.jp/
2022年5月23日

借景の無鄰菴名勝庭園をムツボシくんは3D模型からイメージできるのか…?

 ハーイ!ムツボシくんです。5月12日小雨の午後、ムツボシくんは無鄰菴にいたのであります。「未知の庭」というイベントに参加していたのであります。「視覚障害者は国指定名勝の無鄰菴の借景庭園をどこまでとらえられるのか?」がこの日のテーマ。この企画は、庭を管理する植彌加藤造園のYさんがプロジェクトリーダー。これは、3Dプリンタにて模型を製作・準備された京都工芸繊維大学のKYOTO Design Labと無鄰菴の協力にて実現された視覚障害者に対する無鄰菴庭園ガイド企画なのでした。

 3Dプリンタによる庭園の模型が完成したとき京都新聞の取材にYさんは「借景といった概念は、説明だけでは伝わりにくい。模型に触れてもらうことで理解を深めてもらえる」と言っておられます。さあて、庭の3D模型をさわったムツボシくんに、借景の無鄰菴庭園がどこまでイメージできたでしょうか?

写真1
庭の西側母屋2階から借景の東山を臨む無鄰菴庭園



 借景の庭とは、遠くの山などの景色をあたかも庭園の一部のように取り込んでしまう造園技法です。恥ずかしながらムツボシくん、この日まで借景の意味はわかってはいましたが、なんでそれが見える人には美しく見事と感じるのかがまったく理解できていませんでした。

 京都新聞によると、「模型は約3300平方メートルの庭園を800~850分の1程度に縮小した樹脂製」で、「再現できない樹木の部分はあえてなめらかに加工し、石や築山の凹凸を際立たせ」たとあります。

写真2
そして、こちらがこの日準備いただいた3Dプリンタによる模型(三角形のとがった頂点の方向に2km離れて借景の東山があるつもり)



残念!この模型では借景の概念はつかめない

告白します。模型を触りながら、どの部分に何が実際はあるのかの説明を受けたムツボシくんでしたが、まったく借景の意味がつかめませんでした(力不足でごめんなさい)。

見える人にとっての借景の美とは

そこで、ムツボシくん、Yさんに「無鄰菴の借景ってどこが見える人には美しいのか」を率直に尋ねてみました。すると、「三角形の庭の頂点(最も遠方)に向かう2つの斜辺(外縁)が緑の木々となっており、その緑がさらにその奥に位置する東山の緑とつながっていることが大切なのでした。本当は庭からは2kmも離れている東山にもかかわらず、ひとつの緑の枠で手前の庭の淵と遠方の山が連続した緑に見えているそうです。よって、庭の頂点から庭全体を流巡る琵琶湖疎水の水もまるで東山を源流として流れくる小川かのように見え、また、3箇所のこんもりした芝地も、あたかも庭の先に見える東山まで連続する里山の段々に見えているらしいのです。ムツボシくんは、このYさんの話を聞いてようやく借景庭園の‘イメージの核’が芽生え始めたのでありました。

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無鄰菴スタッフにガイドしてもらい庭園の最奥の滝をめざす



 どんな模型だったらわかりやすかったのか 

それでは、なぜ、今回の模型ではわかりにくかったのか?です。Yさんの伝えたい借景の美が模型にはあまり反映されていなかったからです。僭越ながら視覚障害教育学の立場から模型の改善点をあげてみます。

 (1) 借景概念理解のキーは「緑の連続」「緑の額縁」でしょう。となると、模型の淵の部分が緑の植栽で外界から隔てられているという表現が模型にもほしいのです。この部分が省略されていたのはとても残念でした。

 (2) 次に、東山までを庭の中に取り入れていることが手で理解できる必用があります。緑の東山の模型もほしいところです。そして、手前の庭から庭の奥に向かって勾配が付いていき(今回の模型でも忠実に勾配はありましたがもっと強調するべきです)、庭から約2m(実際は2km)ほど離れたところに東山の模型を置き遠近法の仕業でまるですぐ背後に東山があるかのようになることを感じてもらうべきでしょう。見えない人に遠近法を理解してもらう方法についてはここでは省略しますが、東山の模型は遠近法理解に必須です。

 (3) 最後に、芝地と水の流れです。Yさんの言葉にあった無鄰菴を象徴する美の風景です。絶対にこれらも手でイメージできないといけません。今回の模型でも水の流れについては手触りを変化させる工夫がありました。残念ながら水の流れの手触り・勾配の高低をもっと強調すべきでした。特に芝地についてはほとんどこの模型では重視されていません。どこが芝地なのかが区別できる手触りの変化、東山に向かって3つの芝地が徐々に高まっていく表現、それらが模型にほしいところでした。

 無鄰菴は明治27年から29年に造営された山縣有朋の別荘です。また洋館の2階には、伊藤博文と山縣有朋らが日露開戦に向けて話し合った「無鄰菴会議」の部屋が残されています。

写真4
洋館2階「無鄰菴会議」が行われた部屋



 このような国指定名勝と歴史的建造物が、今回のイベントをきっかけに3Dプリンタ模型として手で触れるようになったことは実にムツボシくんはうれしいかぎりです。改善の余地は感じたものの模型があるとないとでは天と地です。ここまで準備いただいた関係者のみなさんに心より感謝します。

[参考サイト]
○未知の庭/見えない人と見える人がともに体験するガイド/京都東山・南禅寺界隈の傑作日本庭園・名勝無鄰菴
 https://murin-an.jp/events/event-20220512/
○視覚障害ある人触れて、庭園の特徴実感できる模型制作/京都・無鄰菴を3Dで(京都新聞)
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/786287
2022年5月15日

ムツボシくん、見えない仲間をはじめてガイド~読売テレビ「かんさい情報ネットten」が密着取材!

 ハーイ!ムツボシくんです。連休もあけた新緑の午後、ムツボシくんは宇治にいたのであります。この日は、なんと見えないムツボシくんがはじめて神社を案内する日。ムツボシくん同様、見えない仲間のAさんが世界遺産・宇治上神社までガイドヘルパーさんとやってきてくれました。

 見えない者が見えない人に街並みや神社仏閣をどのように案内したら印象深く喜んでもらえるのか…?ムツボシくんもその正解は今も見えておりません。ただ、次の3点は見えない人のイメージをふくらます上でとっても大切な方法だと言えそうです。

【見えない人の街歩きを印象深くする3つの方法】

(1) 街歩きの主体は視覚障害者…頭に地図が浮かびながらの手引き者との移動と、どこをどっちに向かっているかもわからないまま手引き者に引きずられる歩行とは大きな違いがあるのです。そこで、今回準備したのは、Aさんが歩くコース周辺を点字の地図にした点図(宇治上神社境内の建物配置図も必用でした)。この点図、Aさんには事前に渡していたので、歩くコースが頭に入っているAさんにとって主体的な手引き歩行となりました。同行者が伝えてくる「今、左に辻利、あっその先の右が上林のお茶屋さんやわ」など、頭の中の地図に新たな情報を書き入れつつ街歩きが楽しめていた様子でした。

写真1
JR宇治駅から宇治上神社に向かう点図(黒い点々が歩いたコース)



(2) 白杖は触覚の延長…案内地には手で触れられるポイントが必用ですが、白杖を用いることで普通は触れない場所も探索ができるのです。当日は宇治川の流れも白杖を流れに沈めて観察してもらいました。「ええっ?宇治川ってもしかして南から北に流れてるん?はじめて知ったわ!」とAさん。ムツボシくん、ガイド冥利に尽きるお言葉を頂戴しました。

写真2
宇治の七名水・桐原水の井戸を白杖で探索



(3) 模型があるとないとでは天と地…模型がないと建物をイメージするのは至難の業。かといって全盲のムツボシくんに宇治上神社の模型が作れるわけもなく…、そこで考えたのがこちらの写真のもの。せめて神社建築の基本的用語‘流造’と‘五間社’の意味でも伝わればとの思いで、ムツボシくんは鞄の中をごそごそ…、そしてお菓子の箱と1枚の点字用紙を取り出したのであります。

写真3
お菓子の箱に流造の紙の屋根



 この紙を二つ折りして屋根に見立て少しそらせて流造の屋根を説明、お菓子の箱に紙の屋根を乗せると前がこちら。続けて指で柱を屋根の下に立てつつ五間社とか三間社と言われる意味を説明。ここでいう‘間’とは柱と柱の間のことなのですと。「さて、宇治上神社は五間社流造と言われています。間が五つあるということは柱みたいな区切りが6箇所あるはず!触って調べてみましょう」と案内。「ほんと?」と言ってさっそくAさんは探索に入ったのでありました。模型とも言えないこんなものでも見えない人のイメージ形成の核となるのであります。

写真4
宇治上神社本殿の‘五間’を調べるAさん



【放映予定は5月27日】 27日(金曜日)読売テレビ「かんさい情報ネットten」の中でムツボシくんへの密着取材が放映予定です(実はちとばかり恥ずかしいのであります)
2022年3月27日

ムツボシくん、取材を受けてきて思うこと(京都検定1級合格・番外編)

 ハーイ!ムツボシくんです。私の京都・観光文化検定試験(京都検定)1級合格が、全盲者発・点字使用者初ということで、このたび多くのメディアから取材を受けることとなりました。これをきっかけに‘観光と視覚障害者’‘街あるきは見える人だけのものじゃない’というテーマがあることに、見える人が目を向けてくださればと願うところです。

 さて、今回は番外編!取材のために私のおうちまでわざわざきてくださった複数社の記者さんたちのお話です。

 「見えなくなられたのはいつからですか?」各社ともにムツボシくんのプロフィールから取材は始まります。「ブラックでいいですか?」、ムツボシくんは自分も飲みたいのでペーパードリップでコーヒーを入れながら応えていきます。「どうやって京都検定の勉強をすすめたのですか?」「どうしてチャレンジしようと思ったのですか?」…。そうして、コーヒーも飲んでもらい写真も撮れば取材は終わりです。

 やがて、記者さんが帰りムツボシくんは思うのです。「見えなくてもどうやったらコーヒー、入れられるのですか?」、今回も尋ねられなかったなあ…と。

写真1
泡の音を聴きながらコーヒーを入れるムツボシくん

 もう一つ。記者さんたちの目に入らなかった話があります。それはムツボシくんが語る‘街あるきを見える人だけのものにしないための四つのお願い’。2月25日付ブログで書いたことです。どのメディアもこのことには未だに触れてはもらえていないのであります。

写真2
見える人は散っても美しい落ち椿?ムツボシくんは触れて感じる日光椿(城南宮)

写真3
ならば散らせてみようか枝垂れ梅(城南宮)

写真4
こちらが京都で桜満開一番乗りの長徳寺(3月20日)
2022年2月25日

ムツボシくん、京都検定1級合格を機に四つのお願い!

 ハーイ!ムツボシくんです。今回はうれしいご報告。京都・観光文化検定試験、いわゆる京都検定の1級にムツボシくん合格することができました。主催者の京都商工会議所と打ち合わせを重ねた結果、全盲者は問題は自薦の読み手同行による読み上げ、解答はパソコン打ち込みによるワード文書での解答用紙作成方式にて受験を許可していただきました。実は前回も受けたのですが、解答提出直前の突然画面消去・データ消失事件により提出できずの0点でした。そして今回はパソコンも順調、なんとか合格点をいただきました。

 全盲者としては発の1級合格者だったことから、各種メディアも興味をもってくれ、2月19日朝刊で京都新聞が、22日夕刊で読売新聞が掲載し、また大阪の朝日放送テレビの朝のワイドショー「おはよう朝日です」でも、25日7時前の時間帯で取り上げられました。

写真1
京都新聞朝刊の記事(2022/2/19)


写真2
読売新聞夕刊の記事(2022/2/22)

 ムツボシくんは、このHP上で「手でみる旅のガイド」のコーナーを設置して、見えなくても、視覚を用いなくても旅を楽しむ方法については長らく発信してきているところです。そこで、視覚障害者がもっと街に出て旅を楽しめる社会にするためのお願いを改めてまとめてみました。ムツボシくんからの「四つのお願い!」聴いてください(ちあきなおみみたいですね、古い歌です)。

 (1) 【模型・レプリカがほしい】 3Dプリンタをもっと活用して手で楽しめる文化財を増やしてください。特に建築物や仏像はムツボシくんも言葉だけからのイメージには限界があります。見えないということは、育ってきた自分のおうちの屋根の形もお母さんの顔もみたことがない!ってことなんです。

 (2) 【地図が少ないのです】 指で読み取れる点図の地図をもっと作ってください。まだまだ身近な自分の観光地の点図の地図がありません。街歩きのためのイラストマップも点図で指で読みたいのです。そもそも、この点図の地図を作成してくださるボランティアが少ないのです。

 (3) 【仲間よ、街に出よう】 ‘見えないから観光なんてつまんない!’なんて言わないでください。視覚を用いない旅って食事だけでしょ、たのしみは…?なんて言わないでください。そんな人はぜひ「手でみる旅のガイド」をみてください。中途で視覚障害者になられた方、点字なんて今更読めないなんて言わないでください。点線やマークでできた点図の地図ならだれでも読み取れます。地図を持ってガイドヘルパーと街歩きを楽しみましょう。

 (4) 【初めての体験がしたい】 見えなくてもできる体験を増やしてください。見えないとすぐに「見えないと危ないのであなたは参加してもらえません」なんて偽善ぶったお断りがまだまだはびこっている日本なのです。先日なんてある水族館のバックヤードツアーに申し込んだのですが、ムツボシくん、しっかり断られちゃいました。「雨水がたまっていたり物があちこちに置いてあるから危ないんです」ですって。これって優しさの仮面をつけた排除の論理そのものだということにそろそろ気付いてほしいものです。

[参考サイト]
○京都検定1級に全盲の男性が合格 膨大な情報吸収、ボランティアが支える(京都新聞)
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/733278
○最難関試験を突破した全盲男性、工夫と努力の「勉強法」(読売新聞オンライン)
 https://www.yomiuri.co.jp/national/20220222-OYT1T50152/
2022年1月23日

博報堂さん、そいつはちょ・ちょっと…

 ハーイ!ムツボシくんです。いきなりですが、ACジャパンのこの広告、ご存じですか「2021年度支援キャンペーン:いってきます!をすべての人へ ACジャパン(クリック先ではテレビ広告とラジオ広告が再生できます)。

 博報堂さんが製作したこの広告を文字に起こすとだいたいこんな感じ…。

【いってきます!をすべての人へ(支援キャンペーン)】
誰も予想しなかった日常の中で、私たちは、気がついた。
外に出かけられることは、とても幸せなこと。
世界が動き出す、そのとき、取り残されてしまう人がいないだろうか。
例えば、目の見えない人、見えにくい人も、安心して出かけられるだろうか。
いってきます!ロビン(盲導犬の名前・筆者)、ストレートゴー。
いってきます!をすべての人へ。
日本盲導犬協会は、盲導犬や白杖の歩行指導を無償で行っています。


 何度も聴いているラジオ好きなムツボシくん、耳にできたタコをもう何匹捕獲したことか。ところがです。食べようとしてもどうも咀嚼できずに呑み込めないところがあるんです。

 この広告のメッセージはこうですよね。「‘いってらっしゃい’って声を背中に聞きながら、一人で安全に街へ出かけられる自由が視覚障害者には、コロナの前から、そして、たとえステイホームが明けてもありませんよ」と博報堂さんは伝えたいのです。

 でもね、ムツボシくんはこの広告に違和感満載なんです。そもそも、‘いってらっしゃい!’ってのはだれが声かけてくれているのでしょう?そもそも、一人で出かけるこの視覚障害者はだれに見送られているのでしょう?言い換えれば、一人で出かけている重度の視覚障害者は、危険が伴うにもかかわらず‘一人で出かけざるを得ない’人なのではないかと想っちゃいます。

 ‘いってらっしゃい!’の声がかかるということは、まず、家族がいることが大前提なんですね。博報堂さんのメッセージは一見きれいなんですが、実はその裏には、ともに障害があって、一人で出かける全盲者を見送らざるを得ない家族の気持ち、また、未婚率の高い障害者の一人暮らしや家族の高齢化問題がすけて見えてくるのです。そして、いまや視覚障害者自身も70%弱が高齢なのです。しかも、中途で視覚障害となった人の方がはるかに多いのです。私たちは、一人で安全に出かけるためには、手引きをしてくれるガイド者との同伴歩行の制度(同行援護)という制度の拡充を目指しているのです。博報堂さんのメッセージにあるような全盲者が単独で自由に歩ける社会の実現を求めるのはかなりの未来的目標なのではと感じちゃうのです。

 以上、一人暮らし当事者のムツボシくんの2022年初のひがみ節なのでありました。


[参考サイト]
○2021年度支援キャンペーン:いってきます!をすべての人へ|ACジャパン
 https://www.ad-c.or.jp/campaign/support/support_02.html
○わが国の視覚障害者の将来/社会福祉法人・日本視覚障害者団体連合
 http://nichimou.org/all/news/secretariat-news/future_vision_report/
○障がい者の結婚に関する意識調査/障がい者総合研究所
 http://www.gp-sri.jp/report/detail028.html