「こんな大学あったらいいな! 学生支援の未来像」(視覚障害編)

宮城教育大学 長尾 博



●主な内容

T 求められる支援内容の未来像

 A. 入試前〜受験当日
 B. 合否通知〜入学前
 C. 学習生活
 D. 学生生活
 E. 施設・設備・環境
 F. その他

U 大学側が供給責任をもつテキスト類、文書類とその費用分担

V こんな勘違いは支援じゃない









T: 求められる支援内容の未来像


. 入試前〜受験当日、この間に考えたい支援



1. オープンキャンパスの時

(1)当日配布資料の可読媒体による提供

 音声読み上げ・拡大用データの事前提供、点字版の当日提供

(2)単独参加者のために待ち合わせ場所を事前に決めて、そこからの終日手引き誘導

(3)視覚障害学生支援内容がわかるイベント・現役障害学生や現役学生支援者等との交流会の開催

2. 試験前相談と受験生からの希望する配慮の聞き取り

(1)願書書類内容の可読媒体での提供および願書記入の柔軟な対応

 点字・テキストファイルによる提出、対面による代筆も認める→転記後の当事者確認が必須。今後の書類記入方式の希望確認調査 も行う。

(2)多様な試験問題および解答方式の準備

 点字版、希望する拡大率の墨字版、音声・拡大対応のPCもしくはタブレット版、口頭方式等(例:問題は口頭で、解答はマジックペンによる墨字等、自由に選択可能とする)

(3)入学後の単位取得手段の方法に向けての準備

 試験・レポート・討論・図書館利用・文献講読等に対して、受験生が現時点で持っている対応能力を調査 する。

(4)受験時間延長幅の柔軟な対応

 点字は1.5倍、拡大は1.3倍などと硬直的な対応は取らない。

(5)受験当日の手引き者の配置(待ち合わせ場所と解散場所を事前に決定しておく)。

. 合否通知〜入学前、この間に考えたい支援



1. 合格発表

 合否通知郵送では事前希望に応じた点字版、拡大文字版もあわせて同封する。

2. 入学手続き

 入学手続き書類の可読媒体での提供および入学手続き書類記入の柔軟な対応(点字・テキストファイルによる提出、対面による代筆も認める→転記後の当事者確認が必須である)。

3. 大学側が供給責任をもつ教科書類・「履修のしおり」等入学時配布書類の入学者希望媒体での製作準備
 専門機関への依頼を行う(点字版、テキストファイル版、音訳版等)。

4. 支援機器利用技術向上に関する入学前トレーニングの実施

 レンズ類・拡大読書器・PCやBMSの活用方法、言語コミュニケーションを主とした支援依頼力向上等を目指すとともに入学予定学生の技術の現状把握を行う→専門家を招いての講習会開催も必要となる。

5. 通学保障のための相談

 住居地・アパートの選定相談(生協と連携)、キャンパス内も含めた通学路歩行訓練の斡旋等 を行う。

C. 学習生活



1. 多様な受講(講義・演習・討論等)スタイルへの対応

 講義の録音・録画の限定的許可、レジュメ類・板書内容等の可読可能な媒体での事前提供(→受講次のノートテイクサービスは不要となる)、視覚的確認が必須な実験等へのTA配置を行う。

2. 試験・レポートへの柔軟な対応

 試験時間の個に応じた延長、点字・ファイル・口頭試問等、多様なレポート提出方式への対応を行う。

3. 文献講読支援

(1)大学図書館による希望文献のテキストファイル化(→対面朗読は減少する)

(2)全国大学間ネットによる点訳・音訳・テキストファイル化文献の共有・活用

(3)学生が供給責任をもつ図書類については、希望媒体での提供に対して、適切な外部専門機関を紹介する。

4. 成績表・学位記等は可読媒体(点字等)をあわせた発行とする。

. 学生生活



1. 入学式・入学オリエンテーション時

(1)移動時の手引き者の配置

(2)履修登録等年度当初手続きの申し出による補助

2. 講義開始1か月間

(1)教室間移動の必要に応じての移動補助

(2)当事者が行う周辺学生への移動等支援依頼状況の見守り

(3)通学時の安全・一人暮らしの状況の把握と必要に応じての相談

3. 食堂、売店、自販機等の単独利用への工夫

4. 大学主催行事への参加支援

(1)当事者との協議による各種避難訓練を通しての緊急時対応方法の確立

(2)大学側主催セミナーや講演会参加時の配慮ある対応

 資料の可読媒体提供、会場内移動支援等を実施する。

(3)進路指導として、障害者就労支援行政等と連携

E. 施設・設備・環境



1. 単独移動を可能にする範囲をまず最初に設定する

(1)各種メイン窓口を設置し、そこまでの単独移動を保障する

 当事者からの各種申し出を総合的に受け付ける窓口をメイン窓口とし、そこまでは点字ブロック等を敷設し単独でたどり着けるようになっている。

(2)単独でたどり着けないといけないメイン窓口の種類

 事務手続きに関するメイン窓口
 大学図書館カウンター
 食堂や売店における依頼窓口
 障害学生支援窓口
 その他、当事者が必要とする窓口

(3)各建物内の移動は手すりによる移動を原則とする(点字ブロックを廊下には敷設しなくてもよい)。手すりに点字・拡大文字にて教室名をラベル表示する。

(4)トイレ内の移動も手すりによる誘導を原則とする。

(5)エレベータには音声ガイドおよび触角による使用可能な操作ボタンをつける。

(6)階段の段差やドア、廊下と壁との関係等、建物内ではコントラストのある色使いを工夫する。

2. 大学側が発信する情報を単独で入手できる仕組みの確立

(1)当事者への日々の掲示情報・連絡事項のメールにての配信

(2)履修登録・シラバス等ポータルサイト(ホームページ)のアクセシビリティの確立

. その他


1. 在学中に生じた中途視覚障害に対する相談支援

 リハビリ機関との連携やその学生のリハビリ休学期間の学費免除等行う。

2. 点字技能師資格程度の能力をもつ点訳・墨役ができる職員の配置

(1)点字等専門知識をもつ支援員の仕事の範囲

 講義レジュメや成績表等分量の少ない書類の点字対応
 図表や画像などの点字化、音声化、テキストファイル化への助言
 文献のテキストファイル化依頼に際して、スキャニング結果物の校正者を養成(校正は学生サポータでも可)
(2)点訳は専門知識がないと簡単にはできない

 点字使用者に供給する点訳とは、学生点訳サークルレベルでできるものではない。また長文や外国語、理数書、楽譜等は相当な時間・専門技術を要するため大学職員の仕事内容を超えている→専門機関に依頼する物と学内でできる物との区別をすることが大切となる

U. 大学側が供給責任をもつテキスト類、文書類とその費用分担



1. 多様な媒体による供給責任のあるテキスト類の扱い

(1)大学側が供給責任をもつべき文献の範囲

 シラバスに指定し購入した上での受講を求めているテキスト類と語学テキスト類
 履修の手引き、時間割表など単位取得に差し支える可能性のある大学側発行文書類。

(2)テキストファイル化、点訳、音訳に当たっては大学側からしかるべき専門機関に発注

(3)当事者学生の費用負担は障害のない学生の同テキスト類購入負担と同等額とする(原本価格差を大学側が負担)。

2. 学生責任にて供給を受ける図書類

(1)上記1−(1)に該当しない図書類についての可読媒体への変換は学生責任の範囲とし、大学側は費用負担は行わない。

(2)これら図書の供給に関しては、大学側は専門機関やボランティア団体等の紹介や奨学金、福祉サービスの案内などを行う。

V. こんな勘違いは支援じゃない



○視覚障害学生の学習権を奪うような代替措置は合理的配慮とは言えない

(1)試験問題の点訳に時間がかかるので、点字使用学生だけを口頭試問にする。

 →「面倒さ」を理由に、安易な妥協策を取るのは合理的配慮とは言わない。

(2)ロシア語やハングル等英語以外の語学において、点字使用学生に対して、テキストファイルや音訳等音声読み上げのみで授業を進める

 →その語学の点字による「読み書き」習得機会を奪う行為となる。

(3)全盲(重度)学生だから常時支援員を配置する

 →当事者が自ら支援依頼(友達作り)を行えるような状況の設定や見守り、相談を支援の中核とし、視覚障害学生の対人関係力向上の機会を保障する。


思索室TOPページへ戻る