第10回 山形の巻 その1  これで景色が楽しめれば完璧!観光ボランティアおまかせの山寺の旅


 今回は山形市山寺にある立石寺、いわゆる「山寺」への旅。「閑さや岩にしみ入る蝉の声」とは芭蕉の有名な句。「奥の細道」では元禄2年5月27日(1689年7月13日)に芭蕉がこの寺に参詣し発句したとされる地である。今回も地元の観光ボランティアにおまかせしての手でみる旅。山寺観光ガイド「きざはし会」の方によるすばらしい案内の2時間を過ごした。

 JR山寺駅には仙台から仙山線にて約1時間、鉄道ファンならぬ私でもとても楽しめる1時間だった。線路の響きが子どもの頃から乗ってきた40年前の東海道線の音のままなのだ。鉄橋あり、トンネルあり、単線ならではの待ち合わせ停車あり…。そして到着した山寺駅はこれまた風流な瓦葺きの駅とのことだった。



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仙山線。降り立ったのは山寺駅山形ゆきホーム。ホーム階段にはなんとサッシのドアがある。



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これが山寺駅だ。昔ながらの窓、ねじってしめ込む鍵、なんとスイカのチャージ機があるがなぜか山寺駅は有人改札だ。



 まずは、腹ごしらえ。山形と言えばおそば…。山形ならではのおそばといえば「板そば」のようだ。お膳よりも大きな横長の板の上に約1.5人前のそばがのって現れた。聞けば、昔から山で木こりがこんなふうにして、そばを弁当にもっていったのらしい。



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これが板そば。全盲では持ちあげたそばをつゆのお椀にうまく入れるのが難しいのだが、なぜかこのそばは入れやすかった。その辺の盛りそばなどよりも短いのかも…。



 さて、山寺駅からは数分で山寺に到着。いよいよ噂に聞いていた1015段の階段上りにチャレンジかと思いきや、ご本尊が安置されている根本中堂はなんと目の前だという。お山の上は奥の院とのことだ。ふもとでは玉こんにゃくを煮詰めたいい臭いがしきりにしている。すぐ案内されたのが、根本中堂。これは極めてめずらしい総ブナ造りだという。木彫の薬師如来像がご本尊。その前におられた布袋様をこってり撫ぜて観察。





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総ブナ造りの根本中堂。布袋さんってこんな形だったんだ、肩やお腹に子どもが張り付いている。布袋のお腹は噂どうりだった。



 いよいよ1015段の階段だ。この結界の向こうは極楽浄土への道のりとなる。最奥にある奥の院までには、正塚の婆(奪衣婆)の関や閻魔の関などを通っていかねばならない。


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千段を超える階段に踏み込む前の結界の石仏



 無事、奥の院までたどり着けるか、やや心配しながらだったが、想いもかけぬくらい途中立ち寄る場所があり、休み休みのお参り、触れてみたいものがいろいろとあったのである。まずは芭蕉関連でおもしろいものはこれだ。



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芭蕉像。この顔は実はこの像を寄贈された山形で有名な「でん六まめ」の社長の顔らしいとは、ガイドさんからの内緒の話。さすがに芭蕉、足がでかい。



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有名な句碑。「しずかさや」の漢字は「静か」ではなくて、「閑か」だったんだ、触ってわかるこんなことがうれしい。



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奥の細道、供をした曾良(そら)の象。手で触れても芭蕉と違い、なかなか整ったお顔立ちである。



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蝉塚といわれるところにある「奥の細道」のここ山寺の記述が出てくるページの石碑。浮き彫り文字で記述通りの草書体みたいな文字が指で読めるのがおもしろい。



 860年慈覚大師円仁がこの山を開かれたとされるが、かなりの岩山だったのか、石にまつわるものも多い。



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円仁の前に立ちはだかった岩を円仁が両手で左右に押し開いたとされる道、円仁が手をかけたといわれる「お手掛けの岩」。手の跡の窪みが残されている。



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東北地方では珍しいといわれる磨崖仏と、のちにこの山寺を整えたとされる安慧(あんえ)の象。



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弥陀洞とよばれる洞窟もある。壁には額縁のような区画を彫って墓碑銘が彫られている。また上部には自然とできた5mほどの仏様の顔も浮かび上がっているという。



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この弥陀洞にあった後生車。(ごしょうぐるま)。高さ1mほどの木製の角柱にくるくる回る車が埋め込まれたもの。車の面には「南無阿弥陀仏」の文字が書かれていた。死者を見送るものとして今でも東北地方ではこの後生車を寺や墓場の入り口付近に置く風習があるらしい。



 さらに進む。仁王様が見張る門で閻魔の裁きを受けて無事極楽への切符をもらえたものには、五大堂からのすばらしい眺望が許される。



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五大堂からの長め、眼下にはJR山寺駅、昔はここが山形方面からの終点だったのか車両回転台も臨まれる。ガイドさんによると秋、紅葉の景色はまた絶品とのことだ。

 ここまでくると奥の院はすぐ目の前だが、残念ながら奥の院は撮影禁止であった。本尊の代わりに鏡が立てられているお堂への参拝は、手を合わす自らを写す鏡に心中を射貫かれている気持ちがしたものである。



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お堂前におられた「おびんづるさま」。なで仏である。頭を撫ぜると頭がよくなり、ボケ封じとなる。



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山頂の岩の窪みにつくられた三重の小塔、残念ながら手では触れられない。



 最後におもしろいものを見つけた。この奥の院手前にはなんと郵便ポストがあるではないか。しかも山形市本局がここでの集配を担当している。奥の院には、いまでは宗派の異なる4つのお堂があり、それぞれこの山頂にご住職家族が住まれているという。この日もあるご住職が草木の植え替えを手ずからやられていた。さすがに毎日の学校がある子どもは山の下で暮らすという。郵便屋も宅配便もこの1015の階段をかけ登ってくるのだそうだ。



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山寺山頂の郵便ポスト、よく見ると集配の時間なども読み取れる。



 今回も観光ボランティアの方に案内してもらっての旅であったが、手で触って楽しめるポイントをこんなにもあらかじめチェックしてくださっていたことに驚きながら感謝した。あとは景色をいかに視覚を使わずに楽しむかだけである。景色をイメージするための小道具とは何がベストなのか、言葉により説明される景色とあわせて、言葉以外の何かで風景がイメージできるものって何かないものであろうか、これらを求めてムツボシくんはソフトクリームを両手に考え続けたのであった。



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右手はさくらんぼソフト、左はラフランスのソフト。うーん、どっちがはたしておいしいのか…?(ムツボシくん、考えること、変わってるじゃないの!)




●観光ガイド:やまがたへの旅/山形県観光情報ポータルサイト
http://yamagatakanko.com/datadetail/?data_id=6790


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