第16回 石川の巻 その1  充実の1泊2しょく(食と触)、KBOSと歩けば半日あればここまで楽しめる金沢街歩きの旅


 北陸に新幹線の風が吹く直前の2月、金沢視覚障害者外出支援サークル(KBOS)のTさんの手引きで冬の金沢街歩きを楽しんだ。KBOSは、金沢を訪れる私たち視覚障害者の強い味方である。仕事・観光ともに視覚障害の私たちを安全に手引きしながら目的のところまで連れていっていただくことができる。今回お願いしたTさんは、なんと観光ボランティアも裸足で逃げ出しかねない名調子にて金沢案内をしてくださった。半日と短い日程であったが、見えなくてもここまで楽しめたぞ金沢!編をお届けしよう。

 まず、手による「触」の世界から始めてみる。金沢と言えば、兼六園、入園券を購入するときには、必ずこの点字パンフレットをもらおう。点字による説明はもとより、なんと巻末には立体コピー版の園内地図がついているのだ。中心地となる霞ヶ池や現在地などを指で確認していざ入園である。

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立派な点図付の兼六園点字パンフレット




 何はともあれ、あの有名な雪吊に触れてみた。樹木を大切にされている雪国の人々の気持ちがしみじみと伝わる。

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すごいお手間の雪吊、高い支柱から放射状に綱が張られ、小さな枝も大切に支えられていた。




 園内一のこの橋はなんと1枚石だという。名前は黄門橋。青戸室石でできた一枚石で、大きさは長さ6メートル、幅1メートルある。

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黄門橋、ここに段差をつけることで一枚石には見えないようになっているという。なるほど2枚の石を重ねたように見えるのだなとその視覚的イメージはわかった。




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茶室前の竹根石手水鉢。なんと樹木の幹の化石に水が貯められているのだという。




 ここ兼六園には徽軫灯籠(ことじとうろう)や根上りの松など見どころポイントも多いというが、さすがにこれらは触ることができない。しかし、琵琶湖になぞられた霞ヶ池、瀬田・唐崎から13代藩主前田斉泰が種子を取り寄せた黒松・唐崎松(からさきのまつ)の話などをTさんから聞くにつれ、わが郷土・近江との結びつきに俄然親しみを覚えるのであった。

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日本最古の噴水。石に直接あたっているのか、残念ながら落ちる水の音はあまり心地よくはない。




 金沢で近江と聞けば、次は近江町市場。ここで2つ目の「しょく」、食の金沢探検となる。残念ながら寿司どころはいずれも満席だったが、食べ歩きを演出するものたちとの気軽な出会いが楽しめた。

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金沢プレミアムソフト・金箔入りソフトは少しお高めの480円。もちろん金の味はまったくしません。




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はじめて食べたどじょうの蒲焼、こちらは1本120円、苦味もおいしい。




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こちらはウニ、殻付で500円。食べやすく身は外してあった。少し塩味が強かったかな…




 次は、全身の皮膚による触の世界といっていいだろう金沢蓄音器館だ。

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ここが金沢蓄音器館、点字ブロックが誘導してくれている。迎えてくれるのはもちろんビクターのワンちゃんだ。




 こちらでは電気を使わないゼンマイ式蓄音器の名器の聞き比べができるのである。蓄音器の発明はもちろんエジソン、1877年のことという。ラップの芯のような蝋管に刻まれた100年以上も前のエジソンの音が今も聴けるのである。記録媒体はその後円盤となり、録音芸術は大発展する。

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1901年製、エジソン社スタンダードモデル蓄音器のラッパに触れてみた。




 再生用の蓄音器もまたより大きな音へ、さらに雑音の少ない音へと進化する。いくつか名器を聴かせてもらえたが、気に入ったのはビング・クロスビーの音像が前に迫り出して聞こえた英国製のE.M.G.エキスパート・シニアだ。

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館長・八日市屋典之さんと紙ラッパの英国製名器E.M.Gを囲んでのツーショット。




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3Fでは、紙ラッパ、木製ラッパ、そして金属ラッパの音の聴き比べができるコーナーもある。




 最近、金沢では、「21世紀美術館」を超える「訪ねてみたいスポット」として人気上昇中というここ蓄音器館、この日も11時からの名器聴き比べタイムでは、用意された席が満席となるにぎわい。仙台をはじめ、東京、横浜など各地から多く集まっていた。気に入った音と出会えたら、1Fにて、今聴いた蓄音器によるSP盤名演奏をCDで家に持ち帰ることができる。1枚1000円程度だ。


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今回購入したのはこの2枚。左:ブランズウイック・バレンシア(木製ラッパの名器)と右:E.M.G.エキスパート・シニア(紙製ラッパの名器)の音だ。




 さて、最後に全盲の人が一人で宿泊してもここなら安心と感じたホテルを金沢に見つけた。それは「金沢白鳥路ホテル」である。

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ここが金沢白鳥路ホテル。




 タクシーでホテルに着くと、すぐに声をかけてもらえ、手引きにてロビーの椅子へ。そこで宿泊カードへの代筆による記入。もちろん部屋までの手引きによる案内・部屋の中の設備の説明もばっちりだ。特に、コンセントの場所、エアコンやテレビのリモコンボタンの説明やフロントへの連絡の仕方・電話の説明、そしてお風呂のシャンプー・リンス・ボディシャンプーのボトルの位置などは視覚障害者にとってはぜひ聞き取っておきたいことである。

 圧巻のサービスは、なんと大浴場への案内であった。こちらのホテルは天然温泉。フロントに一か八か断られてもしかたないつもりで、「あの、温泉大浴場に入りたいのですが、案内してもらえますか?」「脱衣場と浴室内を一緒に少し歩いてくださる男性のスタッフお願いできませんか?」「私がルートを覚えられるまで少し一緒に歩いてくださったら、場所を覚えて入浴し、一人で戻るのもできますので…」などと伝えてみた。「はい、わかりました。」と即答でオーケー。なんと2名も男性スタッフが現れた。エレベータからの道のり、脱衣場と湯船の行き帰りの練習、洗面器などの位置の確認など一緒に移動してもらいながら私が覚えるまで付き合ってくれたのである。お蔭さまで、自分のペースであとはゆっくり鉄分塩味のぬるぬる美白湯を気兼ねなく楽しめたのだった。

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ひとりで入れたもん!ご機嫌のさっぱり湯上り。これまであきらめていたことを征服した気分にも似て何とも言えない満足感であった。




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もちろん朝食のバイキングも安心。部屋まで迎えにきてくれるし、好きなものを伝えれば、準備してもらえる。




 今回は、1泊しての半日街歩きの金沢であったが、1泊2しょく(食と触)、ともに大満足の旅となった。事前から準備いただいたKBOSのみなさん、当日案内いただいたTさん、白鳥路ホテルのスタッフのみなさん、本当に感謝である。見えなくてもこれだけ満足感が残る旅、視覚を用いない世界にいるが故に感じ取れる金沢の魅力は確実にあるのである。北陸新幹線とともにぜひみなさんもこの春訪ねてみてはどうだろう。

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金沢の三文豪の銅像がならぶ白鳥路通り。何かひらめきましたか室生犀星さん(真中はウサギを抱く泉鏡花、右は手にタバコの洋装の徳田秋声)




●参考サイトはこちら…

 金沢視覚障害者外出支援サークル(KBOS)
  http://jbos.jp/groups/area3/kanazawa.html

 金沢蓄音器館
  http://www.kanazawa-museum.jp/chikuonki/

 金沢白鳥路ホテル
  http://www.hakuchoro.com/


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