第23回 宮城の巻 その8  歩き旅に欠かせないiPhone〜ハガキの語源がわかった仙台市賀茂神社〜

 今回は、iPhoneを片手に同行援護者と出かけたとっても小さな歩き旅の楽しみ方を紹介してみよう。私も仙台に引っ越して3年目とはいうものの、まだ見えなくても一人散歩をストレスなくできるルートを開拓できず、万年運動不足状態である。そんな中、とてもありがたいヘルプの制度が同行援護である。通院・役所、買い物に各種イヘントなど電話予約ひとつで手引きしてもらえる制度だ。そして、運動不足一挙解決作戦ともいえる今回の企画にもこの制度のおかげで快く同行していただけたのだ。

 二人が降り立ったのは仙台地下鉄南北線・八乙女駅。まずは私のiPhoneで今回の目的地賀茂神社をルート検索!使ったアプリは「ブラインド・スクウェア」と「アップルマップス」だ。いずれもiPhoneの画面読み上げ機能のおかげで見えなくても使える。歩くとアプリが周囲の情報を音声で伝えてくるのだ。現在地の地名、近くにあるお店やバス停の名前、今向いている方角と目的地までの距離、そしてアップルマップスが「このまま道なりに250m」などと声でナビしてくれる。


写真1
iPhoneの画面写真2枚。ブラインドスクウェアで賀茂神社を目的地に設定(左)、ルート探索を実行すればアップルマップスが音声付きでナビを開始する(右)



 iPhoneには「目的地は11時方向、賀茂神社までは約48分」と出た。いよいよ秋の紅葉スポットのひとつでもある賀茂神社にゴー!である。ただ、残念ながら、このルート音声ナビだけではさすがに知らない道を白杖1本探り探り歩くのは厳しい。昔住んでいた京都のように碁盤の目の町割だったら迷ってもストレスも少ないだろうが、ここはそうもいかない。ただ、このアプリがあると手引きしてもらいながら歩いていて楽しい。現在どっちに向いているのか、あとどのくらいなのか、周りに何があるのかなどiPhoneから聞こえてくる情報が、ともすれば受動的な手引き歩行となりがちなところを、まるで自分で道を選んで散歩しているかの気分にさせてくれるのである。

 歩くこと約1時間、迷うこともなく到着した目的地・賀茂神社で二人を迎えてくれたのがこの見事な2本の「イロハモミジ」であった。

写真2
高さ16m、樹齢200年以上の宮城県指定天然記念物2本の「イロハモミジ」。少し色づいた10月31日の紅葉(上)と驟雨(しゅうう)に煙る七五三祭11月15日の紅葉(下)。




 ここ仙台の賀茂神社には1つの神社の中に、上賀茂と下賀茂の2つの拝殿がある。また、この地は昔「糺(ただす)」と呼ばれてもいたという。上賀茂神社・下鴨神社、そして糺ノ森(ただすのもり)とくれば京都である。京の都との深いつながりを感じる。

写真3
左が上賀茂、右が下賀茂、2つの拝殿が左右に並んでいる。




 両拝殿前の狛犬に触れてみて、おもしろいことに気づいた。前列に新しい狛犬が、その後方に風化した古い狛犬があるのだが、なんと、上賀茂前も下賀茂前もともに、前列と後列で「阿吽」の口の形が異なっていたのである。新しく作り直した狛犬を置くときに左右を間違えて配置したのだろうか。

写真4
こちらは下賀茂神社前の狛犬。前列の狛犬は左が「阿」、右が「吽」だが、後列の古い狛犬の口はその逆である。




 さきほどの「イロハモミジ」の他にも賀茂神社には貴重かつ珍しい樹木が多い。

写真5
こちらも樹齢200年以上のアラカシ。高さ12m、地上数mの幹は空洞だが樹勢は強い。




 中でも、最も興味を引く木がこちら、多羅葉(タラヨウ)の木である。一般に、多羅葉の植生北限は静岡以西などと言われているのだが、ここ仙台にてこんなに元気な多羅葉は極めて珍しいという。仙台市指定天然記念物ともなっている常緑樹である。

写真6
日本北限の多羅葉の木、高さ17m。分厚く15cmほどの楕円の葉に注目。




 突然だが、みなさんは「葉書」の語源をご存じだろうか。紙に文字を書くにもかかわらず、なぜ「葉っぱ」と書くのか私はこの漢字を知ってからずっと不思議に思ってきた。その何十年来の謎がここに来てようやく解けたのである。

 多羅葉の葉っぱには文字が書けるのであった。半信半疑、私も書いてみた。なるほど分厚めの葉は平らであり、ある程度の面積もあった。ポケットにあった点筆で葉の裏にカタカナを書いてみた。

写真7
上の段は5分前に書いた「ムツボシ」の文字。今、下の段にも書いているところ。時間が経つほど文字がくっきりするのがわかる。




写真8
5日後のさっきの葉っぱ、なんと「ムツボシ」の文字は消えていない。




写真9
持ち帰ったもう1枚の多羅葉の葉っぱ、5日もたっているにもかかわらずまだ文字が書けるではないか。




 なるほど、これなら紙の代わりに十分なったであろう。「ハガキ」のことを「葉っぱに書く」と漢字で書くのも納得である。このことから、日本では郵便局のシンボルツリーとなっているらしい。友人が東京の中央郵便局に植樹されている多羅葉の木の写真を転送してくれた。

写真10 この写真の中に、「郵便局の木「タラヨウ」という看板が写っている。その内容はこうである。タラヨウは郵便局のシンボルツリーです。葉の裏に先の尖ったもので字を書くとその跡が黒く残るので、古代インドで手紙や文書を書くのに用いたタラジュの葉になぞらえてその名がつけられました。一説に「はがきの木」とも言われています。 (平成24年5月植樹)
東京駅近くにある東京中央郵便局(JPタワー)にはしっかりシンボルツリー・多羅葉が敷地内に植樹されている。



 帰り路は、来るときに探しておいたバス停より歩かないルートで戻ったのだが、同行援護者との小さな歩き旅も、iPhoneアプリの活用でなんとも一人旅の気分にもなれることがよくわかった。ただ、この同行援護の制度だが、地方ごとによって利用の条件が異なるケースが見られているという。ある意味、視覚障害という障害特性をよく知っておられる同行援護者との旅は、私たちにとって、触って楽しめるポイントを押さえた旅作りの近道なのかもしれない。


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