第30回 京都の巻 その1  枯山水庭園に触れられる京都唯一(?)の寺院・霊源院〜見えなくても禅が手と耳と身体でわかるかも〜

ある日、ラジオからふと流れてきた地元レポーターの声。

おやっ、この人、お寺の庭に降りて石や庭木を触りながら話をしているじゃん!。

私は手を止め「そこはどこ?」と耳を澄ませました。

それは、この春、お庭を新しくされた霊源院という禅寺でした。

もしかして全盲の私にも枯山水の庭を感じられるかも…。

心が踊りました。

霊源院のホームページを見ますと「甘茶の寺の霊源院」とあります。

正直に告白しますが、京都検定2級の私恥ずかしながらこの禅寺、存じ上げておりませんでした。

さらにホームページを読みますと、霊源院は、京都最古の禅宗寺院である建仁寺の塔頭寺院であり、応永年間(1394年〜1428年)に龍山徳見和尚を勧請開山として創建されたようです。

この龍山徳見って方は饅頭を中国から伝えた方ではありませんか(でも、特別な饅頭の授与などはやっておられません。残念!。

また、鎌倉時代末期から室町時代にかけ、京都五山の禅僧たちによって栄えた漢文学・五山文学の最高峰寺院、建仁寺の学問面の中核を担った寺院だったようです。京都検定1級を目指す私としては覚えておかなきゃです。

写真1
こちらが開門前の霊源院、少し早く着いちゃいました!



みなさんは「甘茶」って何かご存じでしたか。

世の中には、その正体を知らないくせによく耳にする言葉ってありますよね。

「甘茶」もその一つじゃありませんか。

お釈迦様の誕生日を祝う日に飲んだりするんじゃないの?ってね。

ここ霊源院は「甘茶の寺」なんです。さっそくご住職に尋ねてみました。

写真2
これが甘茶の葉で作った茶葉。すでに甘い香りがプンプン!



甘茶はヤマアジサイの突然変異種でその葉に砂糖の約四百倍もの甘さを持つ品種だそうです。

江戸時代にこのことがわかり、ヤマアジサイの葉を紅茶のように発酵させた茶葉にして飲むのでした。

生薬の風邪薬「改源」にも入っているそうですよ。

もともとアジサイですので花も6月から7月にかけて、青からピンクへと移り変わりとてもきれいとのことです。

このように説明をいただいたように、ここ霊源院はご住職みずから時間があれば案内をしてくださるのです。

魅力的ですね。幸運にもこの日もそうでした。

さて、お目当ての枯山水庭園。この春、新しくなった庭園は、インドから中国・そして日本へと仏教・禅が伝わってきた様子を表現したものとのこと。

中根庭園研究所(あの中根金作のお孫さん・中根直紀作の庭による令和の枯山水庭園です。

「鶴鳴九皐」と名付けられました。「鶴鳴九皐」とは鶴の鳴き声が深い谷に響くという意味のようです。

ご住職いわく。「どうぞ庭に降りてください。あのオレンジの石がインドから運んだ坐禅石です。よかったら座ってみてください。」

さっそくインドエリアに。

水の流れが描かれた白砂にある飛び石を渡ります。

この石が釈迦が菩提樹の下で悟りを開いた聖地・インドのブッダガヤから運ばれてきた坐禅石です。

車でムンバイまで約二千キロ、そこからは船で霊源院まで三ヶ月ほどかかってやってきた石とのことです。

写真3
ふざけたポーズ、とても禅にはほど遠いほど遠い!



なお、このインドエリアは手前に甘茶が群生し奥には三角のヒマラヤを表す石がありました。

このヒマラヤとなる石は今川義元ゆかりの浜松から運ばれたもの。

そうです。

今川義元は幼少期に18年もこの寺にて修行をしていたのでした。

そもそも義元生誕五百年記念事業として新庭園が今回作庭されたのでした。

写真4
これがヤマアジサイ(甘茶)の葉、奥には三角石のヒマラヤ



次に、こちらが禅を伝えた中国エリア。

テーマは洛陽郊外の嵩山少林寺と禅宗開祖の達磨。

赤く見えるのが達磨像。石洞で9年坐禅を続けたという逸話でしょうか。

写真5
洛陽の嵩山少林寺と達磨



この写真の右手前に一部写り込んだ白い石が日本に禅と茶を伝えた栄西の船。

栄西は日本に戻る途中上海にて体調を崩します。

その時、栄西を元気にさせた飲み物がありました。

それが雲南茶。栄西はこの雲南茶の種を持ち帰ります。

写真6
庭にはお茶の木も植えられています



これは宇治茶の辻利によって植えられたそうです。

京都で抹茶関連スイーツと言えば辻利、有名ですよね。

こうして、禅と茶が日本に伝わりました。

こちらが小堀遠州様式の日本庭園・鶴亀の庭となります。

写真7
左に寝かせている石が鶴の首、立石は羽



インドから日本に禅と茶が海を渡って栄西により伝えられた様子の庭を見た跡は霊源院に伝わる宝物の数々の説明を受けました(写真撮影はダメ)。印象深かったのは、室町幕府第7代将軍義勝(10歳で暗殺?病死?)が描いた達磨図と毘沙門天が持つ水晶に閉じ込められた仏舎利の話。

ご住職のお話はとにかくおもしろいのです。

ここ霊源院は、禅の講話や座禅体験も可能。

コロナのこんな時期じゃなければ甘茶とお菓子もいただけるとのこと。何より私たち視覚障害者にとってイメージしがたい枯山水のお庭に触れられるのです。

盲学校の修学旅行など視覚障害の方が京都にこられるのなら、禅を学びたいのなら、庭を知りたいのなら京都唯一(?)ではないでしょうか、見えなくてもかなり理解を深められる禅寺・霊源院はおすすめです。いろいろと見学の相談にものっていただけそうですよ。

○建仁寺塔頭・霊源院/甘茶の寺・京都五山文学の最高峰
 http://www.reigenin.jp/



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