第34回 京都の巻 その5 花の寺・法金剛院の視覚を用いない楽しみ方を探る

 平安時代の初め、右大臣・清原夏野が双丘寺として創建し、858年文徳天皇が大伽藍の天安寺として中興し、1130年鳥羽天皇の中宮・待賢門院が都の西方に極楽浄土を求めて再興したのが、今回訪ねた法金剛院(律宗)です。

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丸太町通に面する法金剛院の門



 国の特別名勝の庭園は、わが国最古の人工の滝「青女の滝」を中心とした回遊式浄土庭園です。春の「待賢門院桜」は珍しく、ヒガンザクラ系のベニシダレザクラの変種で、花の色が紫に見えると言われています。秋の紅葉ももちろん有名です。ただ、こちらの庭園には年間を通して花が咲き誇っており、特に7月から8月にかけての蓮は観察会が定期的に行われるほどの人気で京都で「蓮の寺」と言えば法金剛院となるそうです。

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寺名が書かれた表札にも蓮のレリーフが触れられる



 さて、私が訪ねたのは90種の蓮が咲き乱れるには一足早い6月の雨が似合う‘時の記念日’でした。

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蓮の葉の中心に雨のエクボ?



 これが蓮の葉。中心にたまった雨の水たまりが、私には葉っぱのえくぼのようです。見える人にはどんなふうに見えるのでしょうね。私にとっては、見つけてうれしい驚きでしたが、見えていれば、けっこうよくある風景なのかしら。

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蓮の花が開くのはもう少し先。でもツボミがこんなに高い位置まで伸びるんだ



 雨の庭と言えば紫陽花でしょうか。法金剛院も隠れた紫陽花の寺とも言えます。

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庭のあちこちで触れ慣れる紫陽花の法金剛院



 仏堂ではご本尊の阿弥陀様などがすぐ間近で拝見できます。弱視の人ならこの距離なら見える人も多いかもしれませんよ。撮影禁止なのでここでご紹介できませんが。

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これが青女の滝



 こちらのお庭で何と言っても有名なのがこの「青女の滝」でしょう。この石組は、背丈ほどもある大石が2段に組まれたもののようで、巨石を用いた滝石組は平安時代特有のものと言われています。残念ながらこちらも近づくことはできず、滝の音を聞くのみでした。ただ、この水が流れ出す川に咲く花菖蒲は今が見頃だったようです。

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川辺まで降りて花菖蒲を観察



 最後に、おすすめする6月の法金剛院と言えば、それがこちらの菩提樹です。花が咲き誇り匂いが一面に広がっています。菩提樹と言えばお釈迦さまの悟りの木ですね。そして、お釈迦さま入滅の木、沙羅双樹も見事に咲き誇るのがこの時期の法金剛院なのです。仏教の聖木がそろうのが法金剛院なのでした。

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菩提樹の花、間近では少しきつすぎる匂いかな



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沙羅双樹の花、こちらは近づけません(妙心寺塔頭・東林院なら触れられるかも)



 おまけとしてですが、庭の片隅に鬼瓦が陳列されていました。こちらも必触ですよ。鬼の顔を触れてイメージするのにも最適ですし、卍(まんじ)の型にも触れられます。

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いろんな形の鬼瓦にじっくり触れてみよう



 色や光は感じられなくても、触れたり顔を近づけたりすることでお花や葉っぱの様子はかなりわかるものです。

 さて、浄土庭園の全体像を見えなくてもなんとかイメージできないものでしょうか。触れてわかる点図の地図みたいなものがあればかなり役立つのではありますが、そう簡単には入手できないのです。なんせその都度ボランティアにお願いして作成してもらわないといけません。しかも、触れる点図の地図が作れるボランティアはかなり減少しているようで、地元の京都ライトハウスにお願いしても「いまは点図を作れるボランティアがおられません」と断られる有様です。見える人には、パンフレットを開けばすぐに境内マップなんかは目につくものをです。

 しかたありません。同行をお願いしたガイドヘルパーさんにはできるだけ多くの視点からの写真を撮ってもらってください。どこか落ち着いた場所にきたら、お庭の全体像をイメージしてみましょう。これには見える人の力を少しお借りして、お庭全体をいくつかの方向から撮影した写真を見てもらいます。
 お庭の輪郭とその大きさは?池の位置とその形は?水の流れのルートは?お堂の位置は?などを尋ねてみましょう。これらを頭に入れて全体像をつかみましょう。

 それができたら、次に、現地にて触れてきたお花や樹木があった位置を教えてもらうのです。これがうまくできたら、かなり鮮やかに法金剛院のイメージがあなたの記憶に残ることでしょう。そして、もしかしたら、それって見える人よりも鮮やかかもしれませんよ。負け惜しみかもですが…。




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