第36回 京都の巻 その7 見えない仲間をはじめてガイド〜宇治上神社〜読売テレビ「かんさい情報ネットten」が密着取材!

連休もあけた新緑の午後、私、宇治にいたのであります。

この日は、なんと見えない私が同じく見えない仲間をはじめて街歩きガイドする日。見えない仲間のAさんが世界遺産・宇治上神社までガイドヘルパーさんとやってきてくれました。

見えない者が見えない人に街並みや神社仏閣をどのように案内したら印象深く喜んでもらえるのか…?そのことをずっと考えておりますが、いまだ正解は見えておりません。

ただ、次の3点は見えない人のイメージをふくらます上でとっても大切な方法だと言えそうです。

【見えない人の街歩きを印象深くする3つの方法〜ユニバーサルツーリズムのために〜】

(1) 街歩きの主体は視覚障害者…頭に地図が浮かびながらの手引き者との移動と、どこをどっちに向かっているかもわからないまま手引き者に引きずられる歩行とは大きな違いがあるのです。そこで、今回準備したのは、Aさんが歩くコース周辺を点字の地図にした点図(宇治上神社境内の建物配置図も必用でした)。この点図、Aさんには事前に渡していたので、歩くコースが頭に入っているAさんにとって主体的な手引き歩行となりました。同行者が伝えてくる「今、左に辻利、あっその先の右が上林のお茶屋さんやわ」など、頭の中の地図に新たな情報を書き入れつつ街歩きが楽しめていた様子でした。

写真1
JR宇治駅から宇治上神社に向かう点図(黒い点々が歩いたコース)



(2) 白杖は触覚の延長…案内地には手で触れられるポイントが必用ですが、白杖を用いることで普通は触れない場所も探索ができるのです。当日は宇治川の流れも白杖を流れに沈めて観察してもらいました。「ええっ?宇治川ってもしかして南から北に流れてるん?はじめて知ったわ!」とAさん。ガイド冥利に尽きるお言葉を頂戴しました。


写真2
宇治の七名水・桐原水の井戸を白杖で探索するAさん



(3) 模型があるとないとでは天と地…(たまたまですが宇治上神社の精密模型はSさん個人製作の素晴らしいものがありますが)。ただ模型なんてないのが当たり前。そして模型がないと建物をイメージするのは至難の業。かといって全盲の私に案内地の神社の模型が作れるわけもなく…、そこで考えたのがこちらの写真のもの。せめて神社建築の基本的用語‘流造’と‘五間社’の意味でも伝わればとの思いで、鞄の中をごそごそ…、そしてお菓子の箱と1枚の点字用紙を取り出したのであります。

写真3
お菓子の箱に流造の紙の屋根



この紙を二つ折りして屋根に見立て少しそらせて流造の屋根を説明、お菓子の箱に紙の屋根を乗せると前がこちら。ここで妻入りと平入りの違いや切妻の意味も。続けて指で柱を屋根の下に立てつつ五間社とか三間社と言われる意味を説明。ここでいう‘間’とは柱と柱の間のことなのですと。「さて、宇治上神社は五間社流造と言われています。間が五つあるということは柱みたいな区切りが6箇所あるはず!触って調べてみましょう」と案内。「ほんと?」と言ってさっそくAさんは探索に入ったのでありました。模型とも言えないこんなものでも見えない人のイメージ形成の核となるのであります。


写真4
宇治上神社本殿の‘五間’を調べるAさん



この日の見えない私が見えない仲間を案内する宇治街歩きは、読売テレビ「かんさい情報ネットten」(2022年5月27日)の中で放映されました。私が非常勤講師として勤めているびわこ学院大学での講義風景や中途視覚障害者の方への点字触読訓練の風景など、番組は私への密着取材みたいな構成となっており、いささか恥ずかしいのではありますがよかったらこちらのYoutubeでご覧ください。

○全盲の男性が伝える視覚障害者の「観光」
 https://youtu.be/VreIAdzTTK4



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