第37回 京都の巻 その8 あなたの触覚が2度阿弥陀様とつながる金戒光明寺

 ここ京都には全盲者が阿弥陀様に直接つながることができる場所があります。金戒光明寺(京都市左京区)がそれです。ここは法然上人が比叡山を下り、はじめて草庵を結んだ浄土宗発祥の地。山門には後小松天皇の宸筆で「浄土真宗最初門」の額が見られます。


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満開の桜と山門



 また私たち全盲者の偉大な大先輩、近世筝曲の祖・八橋検校が埋葬されている常光院(通称八はしでら)はこのお寺の塔頭であり、金戒光明寺の山門の手前を右に進むとすぐです。お正月ともなるとどこかしら聞こえてくるお琴の調べ「六段の調」の作曲家が八橋検校ですね。

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門前左に立つ「八はしでら」の石碑



 さて、金戒光明寺では2度触覚を通して阿弥陀仏とつながることができます。まずは1回目。アフロヘアの阿弥陀様として有名な五劫思惟阿弥陀仏に出会いに行きましょう。

 見える友人やガイドヘルパーさんに誘導されるままに連れて行ってもらうのもいいでしょうが、今回は境内図の点図版をおともに歩いてみませんか。これまでの受け身的だった旅での移動が、この点図があるだけで少しは‘自分で決めて歩いている’という主体的な気分になれるかもしれません。点図があることで、全盲者が、この先の歩く方向や曲がり角を事前に頭に入れて歩くことができるのです。「アフロヘアの阿弥陀様はどうやらこの先を右みたいよ」なんて会話を全盲者の方から持ち出せるのです。

 では点図の線をたどって南門から境内へ。そして墓地の中を三重塔に向かって東に進むというルートをまずは頭に入れます。

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点図の境内図、点字は読めなくても線をたどることで方向や広がりがつかめる



 点字の線をたどると阿弥陀様の方向は…、「次は右に曲がるのですね」。すると阿弥陀様は墓地の中の坂の石段横におられるとのこと。さっそく触覚を通じての対話を始めましょう。わあっ、噂通りの髪型。お顔がとっても柔らかな印象、ただ私は少し集合体恐怖症の気があるので特徴的な螺髪をじっくりとは触れられませんが、時間が経つと直接阿弥陀様とつながった感じがしてきます。

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お外におられる石仏、阿弥陀様との触覚による対話が可能



 そして2回目の阿弥陀様とつながる体験はこちら。御影堂の中です。

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金戒光明寺御影堂。鏡の御影と呼ばれる法然上人のお姿や多くの仏像を安置



 普通、お堂の中には触れてもよいものはないものです。こちらの御影堂にも重文クラスの仏像がおられますがもちろん触覚による対話はできません。ただ、レプリカではありますが、なんと重文指定の「山越阿弥陀図屏風」と触覚でつながることができるのです。

 この屏風は往生者の枕元に置かれ、彼岸に旅立つ者と屏風内に描かれた阿弥陀様の手とを五色の糸で結ぶためのものでした。実際、現存する屏風には糸がいまも残っているとのことです。

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パンフレット「黒谷金戒光明寺」より「山越阿弥陀図屏風」



 ここ御影堂ではレプリカではありますが、山越阿弥陀図が再現され五色の糸が阿弥陀様の手より垂らされ、それを握って私も極楽往生をひたすら願うことができるのでした。

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五色の糸で屏風内の阿弥陀様と触覚でつながることができる



 でも、実際どんな阿弥陀様の絵なんでしょう?お姿が拝見できないのはくやしくも悲しいものです。そこで点図ボランティアとともに「山越阿弥陀図」を点図にしてみました。

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点図の山越阿弥陀図。指で図を読み取るにはここまで原図をデフォルメ



 阿弥陀様との触覚による対話をテーマに金戒光明寺を紹介しましたが、他にも手でみるポイントがこのお寺にはいくつかあります。

 最後に東側に広がる墓地の見所を紹介しましょう。こちらは亀のお墓?「亀趺(きふ)」と呼ばれる珍しい墓石です。

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亀のお墓は山本鐵心の墓石



 山本鐵心は江戸初期、大坂の陣にて後藤又兵衛を破る活躍を見せ家康の信頼を得た人物のようです。

 この墓地の北東部には幕末期、新選組をかかえる京都守護職の本陣があり、今では300基を超える会津藩の殉難者の墓地となっており、松平容保の像もあります。

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会津藩殉難者墓地・京都守護職本陣跡



 その近くの塔頭・西雲院には法然上人が腰掛けて、ひたすら念仏をするとたちまち紫雲がたなびく霊験あらたかな体験をしたという「紫雲石」があり、念仏有縁の地がこことなっています。

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西雲院の紫雲石



 視覚障害のみなさんも「見えないからお寺なんてつまんない!」と嘆く前に、点図の境内図を手元に、手でみる旅が楽しめる数少ないお寺の一つとして金戒光明寺を訪れてみるのはいかがでしょうか。なお、今回紹介した点図2枚・「金戒光明寺境内図」「山越阿弥陀図」について興味と必用のある方はどうぞ遠慮なく私までメール連絡ください。


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