第8回 東京の巻 その4  ここまで触っていいの? 顔・髪型・衣装、そしてセクシーポーズ…! 蝋人形館「マダム・タッソー」は視覚障害者のバーバリズムを打ち破れるか?!


 東京お台場にある2013年にオープンした蝋人形館「マダム・タッソー東京」は、早くから光を失って人の顔や髪型、立ち姿など視覚的イメージのない方や、また、私のように少しは見えていた時期があっても、もはや全盲時代の時の流れの長さから、親兄弟の顔の目鼻立ちも何一つ思い出せなくなった方には、ぜひ訪れてほしいおすすめのスポットである。有名人の顔・髪型、その衣装、そしてポーズまで、すべてが自分の手で思う存分、納得いくまで触れるのである。

 視覚障害者にとって、意外と知らないものに‘人の姿’がある。顔や髪型も、触れるのは自分のもののみだ。親しい友だといって、その顔を触らせてもらった人は少ないだろう。まして、異性となれば、その衣装や靴など目が見えればいやでも入ってくるものも、それが見えないとすべてが‘謎’となる。表情やポーズとなれば、言葉で説明されても果たしてどれだけわかっているかすら自分でもわからないものである。視覚障害児への国語教育でも、このあたりは大きなテーマであり、言葉での把握とともに「動作化」により理解を補ったりしている。ここマダム・タッソーはそのような表情やポーズの動作化でもとても参考となりそうな場所である。

 そこで、いくら触れるからといって、「目が三角になる」「頬がゆるむ」などの表情は蝋人形の顔から触って読み取れるだろうか。例えば、女性の「流し目」のポーズに触ったからといって、そこにある‘女性からのメッセージ’を視覚障害者は受け止めることができるのだろうか、こんな問題意識を頭の隅に置きながら、私はマダム・タッソーのゲートをくぐったのである。



写真1
入り口ゲートではレディー・ガガがお出迎え。







人の顔って、絵としてイメージしにくいのはなぜ?


 まずは、有名人の顔についての見どころ、いや、触りどころである。

写真2
ウィリアム王子を尻目にキャサリン妃のクルリン眉毛に触れてみる。




写真3
大島優子、少し歯並びわるくない?




 私が男性ということもあってか、女性の顔の美醜はどこでみんな決めているのか、とても気になるものである。それが蝋人形の顔でもしかしたらわかるかも…?と期待して触察に臨んだのだが、あえなく沈没…。両手で丁寧に顔の全体輪郭、凹凸、そして目鼻立ち、そして再度輪郭などと繰り返し触ってみたのだが、これがなかなか手こわいのである。触ったままの顔の形が絵としては頭に浮かんでこない。手の形や指の様子などはわりとすぐに絵としてイメージできるのにである。不思議であった。まして表情まで読み取るなんてことは不可能と思えた。口を軽く開いているから「きっと笑っているはず」などと気づいたが、これは知識そのものであって、表情を感じたわけではない。顔としてのまとまりというのは、やはりかなり中枢神経による視覚処理に関わっていて、私のように見えないものには各部品を配置するテンプレートのようなものがないのかもしれない。ただ、全体配置には困っても部分的に歯並びの善し悪しやカールした眉毛などはとてもよくわかった。

 次は男性の顔。こちらも表情はやはり絵としては浮かばなかったが、それでも白人と黒人との違いといっては怒られるのだろうか、お鼻に注目!さきほどのウィリアム王子や俳優のジョニー・デップのスラリと高い鼻と黒人の方々のそれとは、鼻筋に人種の違いを見つけた。




写真4
マンデラ大統領の鼻はこんなに重厚、どっしり座った鼻、額には苦難の跡かゴツゴツした凸凹がたくさんあった。




写真5
こちらはオバマ大統領、鼻はやはりどっしり。頬のほうれい線、それとも縦長のえくぼ?が印象的。






ばっちり触ってイメージできるのが髪型やコスチューム


 人のヘアスタイルというのも全盲だとなかなかわかったようでわかっていない分野となる。だが、ここマダム・タッソーなら、いろんな髪型がすべて触ってわかるのである。顔が絵として浮かばなかったのに比べて髪型は比較的絵として浮かんできた。また、衣装もここだからこそ触れるというものである。ぜひ、異性のコスチュームだからといって恥ずかしがらずに触ってみてほしい。とてもよい勉強となったものをいくつか紹介してみる。




写真6
これがあの有名な黒柳徹子のタマネギ頭か…。頭頂部に髪の毛をすべて集めて留めているのがわかる。




写真7
これが千代の富士の大銀杏という髪型。「上手は1枚まわししかとれていない」という相撲中継の意味もわかる。




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さすがプレスリーの衣装は派手。金のピンや金具がいっぱい付いている・




写真9
シェイクスピアさんは深緑色のマントに茶色の半ズボン。そういえばダ・ビンチさんも半ズボンでしたっけ。




写真10
ダライ・ラマの衣装は布を巻き付けたもの。足下もちょっと拝見。スリッパでした。




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浅田真央のコスチュームは真っ赤なドレスに銀のビーズがいっぱい。スケート靴もしっかり触れます。




 私のもっともお気に入りの髪型はマイケル・ジャクソン。細く垂れた前髪、関西の漫才師みたいに思わずフッーと吹いてしまいました。

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マイケルジャクソンの前髪。これって漫才の海原はるかのハゲ各市の前髪そっくり…。フッー!







触ってポーズ、これって意外と楽しいかも!でも、これがセクシーと言われてもね…?


 最後にポーズは触ってわかるものなのか?これはわかる。ただ、そこにこめられている例えばセクシーさなどとなるとそれはわからない。モンローが横向きに方をややあげて、半眼、口も軽くあけている姿は読み取れた。でも、これが‘なやましい’姿なのかはわからなかった。衣装などを触るとただごとではないということは想像はできるが。




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深くスリットの入ったドレス。もうここだけで圧倒される。手は意外と大きかったマリリン・モンロー。




 次は世界のホームラン王、王選手である。私はこれまで勘違いをしていた。1本足打法のスタイルは、もっと背筋をピンとのばしてバットも真っ直ぐ点を指しているものだとばかり思い込んでいた。触って、やってみてはじめてわかった。こんなに猫背になってまるまっていたのですね。

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背番号1の形もよくわかる。野球のユニフォームを知らない人にもぜひおすすめ。




 最後に、私は「壇蜜」の胸に触らせてもらいながら考えた。蝋人形とはいえ、やはり若干ドキドキするものである。

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壇蜜の衣装に触れるのもまたドキドキ、でもこんな知識はここでないと入手できないかも。




 考えていたことはこうだ。見えないと自分の好みの女性のタイプを触って選ぶことができない。壇蜜のように肉感的な女性と付き合いたいと思っても見えない男性には選びようがない。これは女性からも同じことがいえる。鼻筋の通った男性が好み、もっと筋肉質の人がいいなんて想像はできても触って確かめてから付き合うことは難しいものだ。では、見えない諸君はどうしたらいい?「声の好みと性格の相性、優しさなどの心のことだけでパートナー選びをしたまえ!」「お相手の胸が大きいとか小さいとか、太っているとか痩せているとかを付き合う基準にするなんぞは不純!」と世間は見えない諸君にいうのだろうか。それとも、こんなことを考えるのは私が男だからなんだろうか。

 こんな想いを吉田茂元総理にも聞いてもらいながら、堅い握手をかわして私は蝋人形館をあとにしたのであった。

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吉田茂元首相と和やかに懇談、再会を誓って堅い握手。




 ちなみに、マダム・タッソー東京のある建物には「たこ焼きミュージアム」もある。ここをぶらり食べ歩いてから帰るのもまたよしである。

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うーん、昔ながらのお醤油味のたこ焼き。これは大阪・会津屋さん。




マダム・タッソー東京
http://www.madametussauds.com/tokyo/


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