第9回 静岡の巻 その1  手と足と舌で満喫の2時間。観光ボランティアと歩く伊豆・修善寺の旅

 今回は伊豆市修善寺の旅です。あの空海が807年に創建したと伝えられる修善寺というお寺のある町。修善寺温泉としても有名なところですね。歴史的には、源頼朝の弟の源範頼と、頼朝の息子で鎌倉幕府2代将軍の源頼家が当寺に幽閉され、その後この地で殺害されたとしても知られているところです。

 修善寺山門前で観光ボランティアの方と待ち合わせて、さっそく手引きしてもらいながら周辺の探索にでかけました。



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修善寺の全景



 境内に入ると迎えてくれるのがこの緋寒桜。3月下旬でしたが、散りかけていました。幹を触るとコケがびっしり生えているのがわかります。


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境内にある緋寒桜、幹にはコケが生えている



 まずガイドに案内されたのが御手洗。龍の口から流れ落ちる水に手をかざしてみるとなんとお湯ではありませんか。ここにも温泉のお湯が引かれているとのことでした。これは珍しいですね。



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あったかい、御手洗は温泉のお湯だった



 そのすぐ後ろにあったのがお百度石と書かれたくぐり石。お百度参りによる願掛けはここをくぐっては参拝というのを百回繰り返して行うのです。



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これは御百度石、御百度参りはここをくぐって行う



 さて、本堂にて手を合わせたのち、ガイドからはこんな話しをうかがいました。ご本尊の大日如来の中からは、三筋の毛髪が出てきたとのこと。わが息子頼家(鎌倉2代将軍)の死を弔った北条政子の毛髪(血液型はO型)とされています。頼家の幽閉とその死を政子が心痛む想いでいたことが伝わって来ますね。



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十六羅漢が触れます。ふくよかなお耳ですね。肩に獅子を乗せた羅漢様もありましたよ



 ここ修善寺の土地は東西に流れる川を挟んで南側と北側が丘陵となっています。この谷を流れる川は桂川とよばれ、なんと渡月橋という名の橋もかかっています。はるか京都の都から落ちてきた公家達の想いが小京都をここに築き上げたのでしょう。

 修善寺を出ると、すぐその前がこの桂川です。なんと足湯が作られていました。「独鈷の湯」といいます。この湯は、空海がこの地を訪れたとき、この川で病気の父を洗っていた孝行息子の話を聞いて、手にもつ独鈷にて川辺の岩を叩いたところ、そこからこんこんとお湯が沸き出したという伝説の湯のようです。修善寺温泉の起源ですね。



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桂川にある足湯「独鈷の湯」。独鈷っていうのはこれです



 川には修禅寺物語の登場人物の名前を付した「かつら橋」とか「かえで橋」なども架かっています。その橋を渡ったところにこんなに人里離れた雰囲気の静寂そのものの竹林があり、散歩道が整備されています。一歩踏み入れただけで周囲の空気と音が変わるのがわかります。



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竹林の中野散歩道、竹のテーブルでごろりんこ



 また、この谷沿いには四国八十八カ所参りがここでもできるという、88箇所の石盤が配置されているそうです。四国の地よりそれぞれの札所の土を持ち帰り石盤のところに埋めてあります。



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この石盤は五十番札所、お釈迦様のお顔と薬師如来などの文字が彫られている



 川沿いに南側を散策していると、こんな老舗旅館に出会いました。500年以上続く旅館のようです。



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500年つづく老舗の旅館「あさば」の門前、庭には本格的な能舞台もあるらしい



 また、ぶらり立ち寄った十割そばのこの屋台風のお店「さくだ」さん。この地は本山葵でも有名な土地。山葵と塩だけでいただく十割そばは香織が絶品でした。



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ぶらり立ち寄った屋台の十割そば屋「さくだ」、朝取り立てのよもぎの天ぷら、本わさびをササッとすり下ろし塩だけでいただく十割そばは「さくだオリジナル」。



 谷川を挟んでちょうど北側の修善寺のお寺と向かい合う南側の丘陵に頼家のお墓はありました。これも北条政子が奉ったものとされています。その前には指月殿が創建され5千巻のお経が納められていたとされています。政子の息子頼家のお墓の前には「元禄十六年」と彫られた石碑が立てられており、その横にひっそりと頼家の墓石はありました。「えっ、こんなに小さいの?」、暗殺されたといわれるその死が忍ばれます。このお墓と修善寺は川を挟んで直線上の位置関係、政子の息子頼家をこの地に葬った思いが伝わってきます。



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これが指月殿、いまは5千巻のお経はここにはない



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2代鎌倉将軍頼家の墓石前にある石碑、元禄十六年の文字が彫られていた



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真ん中が頼家の墓石、こんなに小さい。左は妻の若狭局、右は長男の一幡の墓石



 頼家の墓石の前には不思議な丸い石が置かれていた。ガイドによると、「あなたが願うことを心で告げながらこの石を持ち上げてみてください。石が軽いと感じた人の願いは叶います。想いと感じた人の願いは今は叶いません。」といわれる石のようでした。



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直系20センチくらいの丸い石、これを願いをこめて持ち上げてみよう




 これだけ修善寺の町を堪能して2時間。ボランティアガイドのおかげで全盲の私でも手と足と舌、満喫のひとときとなりました。ここまで来たら、ぜひ乗ってみてほしいのが土肥湊と清水湊を結ぶフェリーです。約1時間の航路ですが、途中船の上からの富士山が楽しめます。弱視の方でもレンズなどを用いれば十分雄大な藤野姿を船から楽しめるのではないでしょうか。



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土肥湊と清水湊を結ぶフェリーからは富士山が望める、これがそのフェリー「富士」



 今回の旅を通して、観光ボランティアのみなさんの活動をもっと私たち視覚障害者は見直す必要があるように思いました。ネットを調べると全国各地に観光ボランティアの団体はあります。電話で相談すると気軽に「手で楽しめるポイント」についても、「体験や味覚のポイント」についても準備してくださる団体もここ修善寺のようにあるようです。待ち合わせ場所をしっかり調整してタクシーなどでなんとかその場所までいけば、ガイドさんとおしゃべりしながらの「見えなくても楽しい手作りの旅」ができる時代になってきているのです。


●今回お世話になった「伊豆市観光協会修善寺支部、修善寺ふるさとガイド」のページ
http://www.shuzenji-kankou.com/sougou-panf.html#guide



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