ムツボシくんの仙台全盲物語
ムツボシくん白杖
2016年12月29日

「見えないから危険!」、これって見える人の優しさなのですか?〈前編〉

 ハーイ!ムツボシくんです。突然ですが、私、仙台のあるかまぼこ屋さんにて、かまぼこ手作り体験を断られちゃいました。それは12月13日、火曜日の2時前の出来事でした。

 前日までには、「かまぼこの手作り体験」に電話予約し、ちゃんと約束の時間までにタクシーにて「かまぼこの国・笹かま館」に到着していたんですけど…。体験を受け付けてもらえませんでした。今回は、その一部始終をお知らせします。まずは、前編です。

 受付にて、「あのう、全盲なんですが、よろしくお願いします」と私。すると、「少しはお見えになられますか?」と受付のお姉さん。「いえいえ、まったく見えません」と私。そして、もしかしたら心配してるんですねと思い、あわててつけくわえました。「危ないと思われるところがあったら手伝ってください。」と。

 すぐに、ザワザワ感が漂い始めたのがわかりました。受付のお姉さん、「だれか、この状況を判断してくれる人に聞かなくては…」という感じなのです。

 そして、現れたのが、かまぼこ作り体験のスタッフとなのるおじさんです。私が再度お願いを繰り返すまでもなく、「こちらでは全盲の方の体験はお断りしています」とバシッときたのでありました。この方、やたら堂々とお断りになるのです。理由を聞きますと、「300度になるところで焼いてもらう過程がありますので危険です」って。

 私も、「まさか手づかみでかまぼこを焼くことはないでしょ。串につけたりしたものを扱うのでは?それならやりようがあるのでは」と思いつつも、見えない私がやけどしてはいけないとのこれも見える人の優しさの一つかもと心で思いつつ、「ああ、そうですか、そのように心配してくださるのでしたら、危ないと判断される場面は、どなたかが代わりにしてくださってもかまいませんよ。最初から最後まで一人でしたいところですが、今回はそんなことは言いません。危ないというところはそちらでしてくださいませんか」と、私も大人、わからない話をしているのではないことを伝えました。

 するとです。「だめです。障害のある方はだめです。介助者ときてください。」

 「障害のある方って、全盲だけではないのですか?」と私。

 「はい」と即答なのであります。

 「じゃあ、少しは見えている弱視の方も、車椅子の方も、知的障害の方もみんなだめなんですか?」

 「はい。障害のある方の一人での体験は認めておりません。介助の方ときてください」と繰り返されてしまいました。

 ここで、おもむろに、「あのう、私、こういう者です」と名刺を渡しました。でも、ちらっとは見たのでしょうか、名刺は私に押し返されました。

 この時点で、私も、これは話し合いにならないことを自覚したのでありました。

 「障害のある人が体験できないというのはこの会社の方針なのですか?」と尋ねてみました。

 「はい。そうです」。言い切られましたので、「失礼ですけど、あなたはどういう立場の方ですか名刺をくださいませんか」。後で読んでもらうと監査員のKさんという方のようです。

 別れ際、もう一言だけ尋ねてみました。「今日は体験ができなくてもかまいませんので、いま手が足りないのなら、そちらが都合のよいときに出直してきますので、いつならいいですか?」とも譲歩したのですが、Kさんの意志は固かったのでありました。

 「お客様がいつこられるかはわかりませんので、どの日のどの時間帯が空いているのかはわかりません。介助者と来てください」の一点張りでした。何も忙しいと先方が言っている時に是が非でも体験したいなんて言うつもりはないのです。スタッフを30分くらいの間だけでもひとり増員してくだされる日時があればそれに合わせてきますからと言っているのですが、私からの申し出に対するこの日の話し合いは決裂したまま。私は、帰りのタクシーを呼んでもらい大学に戻ったのでありました。〈後編につづく〉
2016年12月1日

こんな大学あったらいいな!(視覚障害編)

 ハーイ!ムツボシくんです。ムツボシくんも視覚障害部長として所属している宮城教育大学の障害学生支援室では、23日、東京・秋葉原のCIVI研修センターにて、日本学生支援機構(JASSO)と共催で「障害学生支援セミナー」を開催しました。

 テーマはズバリ!「こんな大学あったらいいな!」です。今年は障害者差別解消法元年、これまでの障害学生支援の到達点をみなさんで共有しつつこれからの障害学生支援の未来像を展望しようというビッグ?な企画なのであります。全国から約130名が集まってくださいました。

 さて、このセミナーでは、視覚障害・聴覚障害・発達障害・肢体不自由・病虚弱といった全障害分野にわたって、それぞれの本学担当教員から「こんな大学あったらいいな!」が語られたのであります。

 ムツボシくんも視覚障害学生にとっての「こんな大学あったらいいな!」について発表させていただきました。

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セミナー全体会にて視覚障害学生支援の未来像を語るムツボシくん!



 当日の原稿は、トップページから「ムツボシくんの思索室」内にも公開しております。この日、発表しつつ、自身、重度の視覚障害者として1970年代後半から何度かの入試や採用試験を経験し、この間、障害学生としても3つの大学にて学ばせていただいた'あの頃'を思わず心の中で振り返ってしまっていたのでした。大学側から「何かお手伝いしましょうか」なんて声がかかる時代が来ているのです。「あなたの受け入れに対して大学側はどんな準備をしたらいいのでしょうか」などと相談してもらえる時代が来ているのです。確実に視覚障害学生がチャレンジできる時代が来ているのです。

 それでは、以下に、視覚障害学生支援の未来像の中から重点となる3点を、発表しつつ、当日、ムツボシくんに去来した思い、心の声も含めて書いてみます。

 (1)可読媒体による提供が当たり前になる時代へ

  障害学生に対して、読書可能な媒体、つまり、点字・拡大文字・音声・テキストデータなどを通して、大学側の責任で供給しなければならない図書の範囲が全国的に決まってくるようになります。購入が受講の前提となるテキスト類(語学等)、履修登録のための手引き・時間割類、合否通知や成績表類は最低大学側に可読媒体を添えての提供責任があると考えられます。 〈そう言えば、合格通知や成績表って、一度も自分で読んだ覚えないよな…〉

 (2)大学図書館や支援室が作成したテキストデータや点訳データのネットワークによる共有・活用の道が拓かれる

 全国には、これまで学んできた学生が大学側の力を借りて点訳したデータやテキストファイル化したデータが意外と各大学の中に眠っているのではないでしょうか。プライベート利用に限るといった著作権の問題もあるのでしょうが、なんとか大学間で共有できるシステムができたらいいなと思います。〈各地の点字図書館やライトハウス、国会図書館に録音依頼などのリクエストを毎月のように出していたよな。あの頃はオープンリールの8インチテープを4トラックで使っていたっけ。〉

 (3)「合理的配慮」という美名で学習権を奪わないでね

 例えば外国語学習。ロシア語を学びたい点字使用の全盲学生がいたとします。しかし、大学側としてはロシア語の点字版テキストを準備しがたいと判断。そこで当事者と相談した結果、PCの音声読み上げによる普通字のワードデータで提供することで和解します。これって、一見、合理的配慮の到達点を見たように思えます。しかし、ムツボシくんに言わせればこれは学習権の剥奪です。この学生はロシア語をこのままだと一度も点字で読み書きしないまま単位だけは取得できることとなるのです。点字使用の学生がロシア語を学んでいながらロシア語点字にまったく触れないまま単位だけはもらえるというのはみなさん、「大学側の支援のたまもの」と言って喜ぶべきことなのでしょうか。〈そう言えば、ムツボシくんも最初の大学、フランス語は取ったもののフランス語点字には一度もお目にかからなかったものです。〉

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こちらは視覚障害分科会。全国13大学等機関から現在の到達点を出し合いました。

[参考サイト]

○宮城教育大学しょうがい学生支援室
 http://shienshitu.miyakyo-u.ac.jp/

○日本学生支援機構/障害学生支援のページ
 http://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/index.html
2016年10月22日

大人の社会見学はやっぱキリンビールでないかい?

  ハーイ!ムツボシくんです。今回はなんら教育的ネタのない話題?「私、大人の社会見学に出かけました」という話であります。

 行き先はこちら、キリンビール仙台工場「一番搾り うまさの秘密体感ツアー」。なんと無料なのであります。

 JR仙石線多賀城駅でキリンビール工場までのシャトルバス乗り場まで案内を受ければ見えないあなただって「一番搾り」の世界に連れていってもらえるのです。

 工場に着くなり、ちょっとお茶目なムツボシくん。本物の柴田工場長に代わって「いやいや工場見学ごくろうさま」のポーズ。記念写真と相成りました。

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一番搾りのジャンパーを着てヘルメットをかぶればムツボシくんも工場長…?



 手引きを受けて工場見学路を歩き、戻ってきたら、いよいよお待ちかねのテイスティングタイムであります。

 まずは、一番搾り麦汁と二番搾り麦汁との違いを体感!それはそれは甘さが数倍違うのでありました。

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麦芽を煮て醪(もろみ)にした後の一番搾り汁と二番搾り汁の甘さの違いにびっくり



 一番搾り麦汁だけを使えばビールはおいしくなることはどのメーカーもわかっていたそうです。でも、コスト面など課題は多くあったところを、アサヒビールのスーパードライにシェアを奪われていくキリンビールを救うにはこれしかないとばかりに新たな一番搾り製法を実現。キリンは、現在の地位を回復したのでありました。「どうやって、コスト面をクリアしてきたのですか?」とムツボシくん、質問してみたのですが、これにはちゃんと答えてもらえませんでした。

 工場見学はここでは終わりません。なんとなんと「一番搾りビール」にマッチするおつまみまで紹介してくれました。ノーマルな一番搾りにはスモークチーズ、一番搾りの黒ビールにはチョコレート、そして一番搾りビール熊本づくりというご当地別ビールには牛タンジャーキー。これが担当者Sさんのベストマッチおつまみとのこと、ちゃんと準備してくれていました。

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おつまみを代えての一番搾り3種(ノーマル→黒→熊本づくり)の飲み比べもまた楽しい



 さて、本格的な試飲はここからです。350ccが入りそうなグラス3杯がこのあと自由に飲めるのでした。さっそくムツボシくんはビールサーバーを触らせてもらいました。レバーを前に倒せばビールがどくどく、後ろに倒せば泡がボニョボニョ…、上3割を泡にするようにとのSさんの指示が飛びました。

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サーバーからビールを注ぐムツボシくん!「見えなくてもできるの?」こんなことでも見える人たちは心配するのですね



 帰りにいただいたおみやげがまた気に入りました。立派な一番搾りグラスなのでありました。これは何回か通ってこのグラス家族分集めなきゃ!おっと、ムツボシくん、さびしいひとり暮らしでなかったっけ…(トホホホっ)。

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さっそくもらったグラスで冷蔵庫の一番搾り缶ビール、ひとりでいただきまーす


[参考サイト]
キリンビール 仙台工場(キリンの工場見学)
 http://www.kirin.co.jp/entertainment/factory/sendai/
2016年9月27日

盲学校が他障害を受け入れ総合特別支援学校に変貌する日

 ハーイ!ムツボシくんです。今回も‘盲学校の今’を考えてみたいと思います。前回は、2016年5月22日(日)の本欄「盲学校の役割ってなんだろう〜鳥取県立鳥取盲学校で考えたこと〜」で地方盲学校の極端な生徒減について考えてみました。全国には鳥取盲のように全校生が10〜20名の盲学校が数校見られるのです。

 では、少子化や人口減による小学校の統廃合のように近隣の同種の学校間で整理すればよいのでは?となりそうですが、それがそうもいきません。というのは、地方の盲学校はその県に1校しかなく近隣県と統合するにも県が異なるため不可能なのです。日本が道州制にでもならない限り県を超えた盲学校の統廃合はあり得ないところです。

 そこで、考えられたのが今回のテーマ、「総合特別支援学校への変貌」なのです。いち早く2008年から総合特別支援学校へと変貌をとげた旧山口県立盲学校に夏も終わろうとする8月末、ムツボシくんはおじゃまさせていただいたのであります。現在の校名は「下関南総合支援学校」(山口県では「特別」の文字は学校には付けません)です。

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こちらが下関南総合支援学校(旧山口県立盲学校)の正門です。



 では、どんな学校になったのかです。盲学校のままなら視覚障害のある子どもしか入学できませんでした。それを総合支援学校とすることで、聴覚障害・肢体不自由・病弱・知的障害といった他障害の子どもたちも受け入れるようになったのです。小学部・中学部・高等部普通科の計12学年を見てみますと、こんな感じで学級があります。視覚障害学級は全学年では揃わず5学級、聴覚障害学級は小学部のみに3学級、肢体不自由は普通科1年のみの1学級、病弱は5学級、知的障害は7学級となっています。つまり、5種類の障害別の学級がそれぞれ学年ごとに作られる学校なのです(欠学年はありますが)。これまでの盲学校の先生は視覚障害の子どもの学級を担当し、そこに、聴覚障害専門の先生や知的障害専門の先生たちが集まってきて学部を作り、さらに学校を運営するのです。だから、ある先生が5障害のすべてを学んでどんな障害でもどの子どもにでも対応できるようにするのではありません。もちろん、旧盲学校ですので、高等部職業課程には理療科(あんま・マッサージ・指圧師、はり師、きゅう師養成課程)は存在しています。


写真2〜4
左から視覚障害(中3)、聴覚障害(小1)、知的障害(小5)の学級。掲示物などに特徴が見られる。



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廊下のセンターラインは点字ブロック、視覚障害の子どもたちが他障害の子どもたちとぶつからないように右側通行が徹底されている。



 今年度、下関南総合支援学校に在籍する視覚障害児(生)は22名。盲学校のままなら全校生22名ということで山口県でも、とどまらない生徒減をどうするのか、盲学校を存続できるのかなど議論が沸騰していたことでしょう。しかし、他障害の子どもたちが入学しているおかげで、下関南総合支援学校の現在の全校生数は91名です。もはや廃校を心配することはないのです。

 しかし、盲学校が他障害を受け入れて総合特別支援学校に変貌することに、手放しでは喜べない問題もあるのではとムツボシくんは考えています。学校運営自体が視覚障害者の学校として特化されません。そのあたりから従来の山口県立盲学校が110年間熟成してきた盲学校としての歴史と伝統ある‘校風’はこのさき消えていくのでしょうか、心配しています。

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創立者は盲人鍼灸家今冨八郎、創立50周年建立の石碑があった(創立は明治38年まで遡る歴史ある学校だ)。



 下関南総合支援学校の様子をさらに知りたい方、地方盲学校のこれからについてのムツボシくんの考え方など、さらに詳しくは、月刊『視覚障害〜その研究と情報』(視覚障害者支援総合センター発行)の10月号をぜひご覧ください。ちなみに、視覚障害の方は、この月刊誌はお近くの点字図書館などを通して点字版、デイジー版などを借りることもできます。

[参考サイト]

下関南総合支援学校
 http://www.s-minami-s.ysn21.jp/
月刊『視覚障害―その研究と情報』/視覚障害者支援総合センター
 http://www.siencenter.or.jp/sikaku/sikaku-new.html
2016年9月1日

ぼちぼち会(滋賀県)が高校生物大学入試問題集の点訳を完成(全2054ページ)!

 ハーイ!ムツボシくんです。お待たせしておりました。ついに点訳完成です。滋賀県立盲学校にて月2回集われている点訳サークル「ぼちぼち会」(栗本正弘会長)が、約1年がかりで、『生物(生物基礎・生物)基礎問題精講(三訂版)』(大森徹著、旺文社、2015年重版)を原本とする点字で学ぶ大学受験者のための生物問題集の点訳を完成されました。

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こちらが点訳原本、大森徹著『生物問題精講』です。



 今回の点字版は全11巻、総ページ数は2045ページに及びます。また、なんと365点の点図が所収されています。点図とはこんな感じのものです。「エーデル」という図形点訳ソフトを用いてパソコンで描き点字プリンタで打ち出すことができます(点の色が黄色のものは小さな点で描かれています)。

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「上皮組織で見られる細胞間結合」(点字版第1巻p59)



写真3
「野生型黄色ショウジョウバエの成虫原基」(点字版第3巻p91)



 実は、ムツボシくんのような点字使用者が大学受験のために学習をすすめようとするとき、真っ先に立ちふさがる壁は点字版の学習参考書や問題集がないという現実です。「生物」の勉強で言うと『高校生物』の教科書が1種類あるだけです。教科書だけでは志望校突破もままなりません。

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点字使用者にはこれしかなかった。全国の盲学校で使用している生物教科書『高等学校生物』(吉里勝利他著、第一学習社、平成23年検定済み)。点字版は全18巻となる。



 こう見ていくと、今回の「ぼちぼち会」の「生物問題集」の点図入り点字版の完成の意義がわかっていただけたでしょうか。1年前、ムツボシくんがこの原本を選定、さっそく点訳を依頼。でも、実際は、点訳に取り組んでいただいた「ぼちぼち会」のみなさんからは、「ムツボシくん、そりゃ意義はわかるけど…」とためらいつつもの点訳だったようでした。

 最後に、「ぼちぼち会」の方から寄せられた意義深い点訳完成に至るまでの声をお聞きください。まずは苦労話いろいろです。

 「エーデル(点図)は複雑で難しく、時間を要しました。それでも、今は、ネットがあり、疑問点は検索しつつ、時間はかかりましたが疑問点を解明してから点訳することができました。」

 「今回の点訳で一番困ったのは、生物の用語の読み方、二通りにも読める用語です。私の担当した箇所で言うと、「翼」と「肢」の読みでした。一杯、ネットや資料を見たり、滋賀県立盲学校の元理療科の全盲の先生にも調査をしてもらいました。」

 「まず内容自体が難しい。解説を読み、解答を見ても理解しきれない。教科書を読み、ネットで調べまくって、やっと少し理解するの繰り返し。点訳の前に、この作業が大変でした。特にエーデル(点図)は充分に理解できていないと描けないので、くじけそうなくらい時間と労力が必要でした。」

 「『点字理科記号解説』と『点字数学記号解説』を首っ引きで調べても記載されていないこともあり(遺伝子の表記方法や生物の専門用語の切れ続き等)、悩むことが多かったです。」

 「生物の点字教科書を参考にしました。該当箇所があるかどうかを先ず墨字教科書で探して、それを点字版教科書で確かめる作業が結構しんどかったです。」

 そして、何よりもうれしい感想はこちらです。

 「こんな難関の課題をみんなの力で完成できたこと。みんなで何度も何度も話し合って、グループ内だけでなく、他のグループの皆さんとも連携できたこと。ぼちぼち会って、すごいな〜と改めて感じています。私たちのぼちぼち会の底力も大したものかも…、なんて。」

 本当にみなさん、貴重な時間を割いての点訳、その積み重ねでの今回の点訳完成、ありがとうございました。「ぼちぼち会は現在、教科書改訂に準拠した新しい中学教科書ワークの点訳に取りかかっておられるとのこと、点字で学ぶ中学生にとってはこちらの完成も待ち遠しいところですね。

●『生物問題精講』の点字データダウンロードはこちらからどうぞ!(書名をクリック)

 http://nagao.miyakyo-u.ac.jp/tenjiheya/TEN_koko_2.html

2016年8月24日

内閣府は点字の文化をバカにしているのか?

 ハーイ!ムツボシくんです。今回はかなりの‘怒りモード’です。

 昨夜、点図の勉強会にてお知り合いになったSさんより連絡をいただきました。「『障害者差別解消法リーフレット』の点字版にかなりの点字の間違いが見られるのですがいかがしたものでしょう?」と

 ムツボシくん、絶句!

 えっ、そんなバカな…、内閣府の障害者施策室が作成しているのですよ、とは思ったものの、国土地理院が展示している触地図の点字にも誤記があるのがこの日本です。まずは確認!とばかりにさっそく点字版をダウンロードして読んでみました。

 ムツボシくん、2度目の絶句!

 点字表記をご存知の方にしか伝わらないかもしれませんが、こんな感じです。

 (1)タイトルの書き方がむちゃくちゃ。タイトル行の折り返しが先頭行から始まっています。
 (2)長音符の使い方に間違いが見られます。
 (3)原本(墨字リーフレット)とのページ照合のために、原本のページ数を点訳しているのですが、pageの略で「p」と書くつもりでしょう。ところが、カナの「ね」になっています。誤記も誤記。しかもこの原本ページは、挿入場所が点字1行目ではなく、改ページのないだらだら書きの途中にそのつど出てくるのです。これでは「原本ページの**ページを開けてください」といわれても点字版リーフレットを見ている人には検索のしようがありません。

 内閣府に電話しました。そして、担当者と話しました。

 「誰が点訳をしてくださったのですか?」とムツボシくん。
 「パソコンによる機械点訳です。」
 「えっ?校正はしていないのですか?」
 「はい。どこが間違っているのですか?」
 「残念ながら、電話では言えないくらいあります。また点字の表記を知らない人に話をしてもわからないでしょう。」

 ムツボシくんは、このあたりでもう怒り沸騰!声が荒々しくならないように自制するのがやっとでした。

  「あのね、みなさんの文字で言えば、タイトルを原稿用紙の1マス目から書き出しているようなものですよ。誤字は言語道断です。だいたい、1文字1文字を点字に置き換えたらそれで点訳できたと思っているのが間違いです。点字には歴史と文化があるのです。そのルールを無視してこんな点訳をアップして恥じないというのは、私たち点字使用者の点字の文化をバカにしているのと同義ではないですか。そんなルールがあったのですか、知りませんでしたと言いたいかもしれませんね。でもね、障害者差別解消法を推進しているあなたの部署がその程度の視覚障害者の文化理解だと言うのがおかしいとは思わないのですか。間違いだらけの読みづらい点字で解説する障害者差別解消法って何なんですか。この点字版リーフレットが立派な新バリアを作っているではありませんか。この差別解消法の目的は『共生社会の実現』ですよね。わが国が実現しようとしている共生社会はこのような社会なのですか。つまり、パソコンのプログラムにより機械点訳でもかまわないのでとりあえず点字版をアップしておけば文句は言われないだろう。見える人たちが点字まで見えない人のために提供してあげているのだから共生社会には近づいているのだとほくそ笑んででもいるのでしょうか。」

 ムツボシくんは、このような共生社会を拒否します。点字の文化を無視するような見える人からの歩み寄りは‘歩み寄り’とは認めません。なぜ、点字のことがわからないのなら点字の文化で生きている人たちに尋ねないのですか、尋ねようとも思わないのですか、その傲慢さが見え隠れする見える人からの「共生社会実現」という言葉をムツボシくんは一切信じません。

●障害者差別解消法リーフレット/内閣府(点字版がダウンロードできます)
 [2016年8月24日参照]
 http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai_leaflet.html
 [問い合わせ電話番号] 03-5253-2111(内閣府代表)


2016年8月15日

仙台市天文台で考えたわが国のインクルーシブ教育

 ハーイ!ムツボシくんです。今回のタイトルはちとお堅くなっちゃいましたが、内容はグジュグジュなのでご安心を…。

 連日、ここ仙台でも30度超えが続いた8月上旬、ムツボシくん、仙台市天文台にフラッと出かけてみました。

写真1
これが仙台市天文台



 普段着のままの天文台への全盲者による見学、案の定このありさまです。

写真2
太陽系や銀河系の解説コーナー。説明はすべてが文字のパネルと画像のタッチパネル

写真3
このケースが邪魔なんですけど、ニュートン式望遠鏡

写真4
ムツボシくんの手を拒む歴史的な41cm反射望遠鏡(1954年組立て)



 見える人に読んでもらうしかありません。見える人の感想を聞くしかありません。すべてが「待ち」の姿勢です。自分から何かおもしろいものを見つけて「あっちはどうなっているの?」なんて足を踏み出すことができません。ふと考えました。地域の通常学校の教室ってもしかして全盲だったらこんな感じ受けるのかな。すべてが受け身、子どもの性格だって変わってしまいそう…です。

 気を取り直して3階の観測室へ。というのはこちらでは専門スタッフによる解説付きで「ひとみ望遠鏡」に触れられるとのこと。この望遠鏡は、国内屈指の大きさを誇る口径1.3mの反射望遠鏡で、17等星ほどの暗い星まで観測可能なのです。スタッフによると、この大きさ「1.3」を「ひと.み」と読んでほしいとのことです。昼間でしたが金星が見えるとのこと、ムツボシくんも覗いてみました。

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見える振りして覗くムツボシくん、触れることができたのは目の周りだけ…

写真6
「ひとみ望遠鏡」の形も知りたいし天井が開きながら望遠鏡が動く仕組みも知りたいな…



 見える人が次々に「見えた!金星」など楽しげに行き交います。ここでも、ムツボシくんはふと感じてしまいました。見える人ばっかりの教室はこんな感じなんだろうな。別にいじめられているわけではありません。見えないムツボシくんにもちゃんと順番が回ってきて手を取って覗かせてくれました。でも、なぜかひとりぼっち感。「早く順番ゆずらなきゃ」。質問したいけどつい我慢しちゃいます。教室の授業だったら、こんな気持ちが続いてしまうと好奇心だって消え失せていくだろうなって思うばかりでした。

 レプリカや模型があって、手に触れるままになんでも気軽に質問ができて、そこに知ったことやその先のことがわかる点字や点図の本がある!好奇心がかき立てられてその好奇心が盛り上がる情報が入手できて、そして好奇心のままに自ら働きかけられるフィールドがある!そんな学びはいつくるのでしょう。地域で学ぶ全盲の子どもたちには今も「教科書だけは点字で準備しましたよ」というインクルーシブ教育が続いているのではと心配しているムツボシくんでありました。

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かってに嘆いたムツボシくん!プラネタリウムで結局はお昼寝?

[参考サイト] 仙台市天文台
 http://www.sendai-astro.jp/
2016年7月22日

大満足のお味、障害のある方たちが働く「キッチンガーデンふるかわ」!

 ハーイ!ムツボシくんです。今年の海の日、ムツボシくんは宮教大視覚障害教育コース1年生の学生たちに誘われてJR古川駅に降り立ったのであります。

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県北のJR古川駅(大崎市)までは仙台から高速バスでわずか1時間で到着!



 何に誘われたのって?もちろんランチ・DE・デート!学生達に連れられて向かったお店がこちら!「キッチンガーデンふるかわ」なのであります。

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 「キッチンガーデンふるかわ」に到着、いざビュッフェランチに出陣!



 実は、1年生の授業で「障害者の雇用問題」について議論をしていたときのこと。大崎市出身の学生より、「私、障害のある方が働いているお店、知っています。とってもおいしいので家族でもよく行きます。」という話が出ました。「そうなの、行ってみたいね。」とムツボシくん。それがこの「キッチンガーデンふるかわ」。そうしたらであります。学生達はこのお店に予約を入れるばかりか、責任者の方とのインタビューまで企画しての今回のプラン。こうして実現した学生達とのランチデートなのであります。

 私たちを迎えてくださったのが、(株)まちの豆腐屋プロジェクトの専務取締役・森新一さん。個室を準備してくださり、さっそくインタビューに応じていただきました。

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森専務に話を聞くムツボシくん



 (株)まちの豆腐屋プロジェクトが運営しているのは3事業所。涌谷町にある「涌谷とうふ店」と「涌谷・放送字幕制作センター」、そして、ここ大崎市古川の「キッチンガーデンふるかわ」のビュッフェレストラン。いずれの事業所も東日本大震災後に就労継続支援A型事業所としての指定を受け、障害のある方を積極的に雇用されているのです。また、スタッフとしての一般の方の被災地雇用にも取り組んでおられます。この就労継続支援A型事業所とは、通常の企業に雇用されることが困難な身体、精神、知的の障害のある方や難病の方の「働く場」の一つです。実際の業務や職業訓練を通じながら、職業技能や体調管理能力などを身につけ、最終的に一般就労を利用者は目指します。最低賃金が保障され、各種保険が準備されているところもあり、雇用契約に基づく労働が求められます。

 「キッチンガーデンふるかわ」でも、時給800円前後の賃金にて毎日5時間以上の勤務が標準で求められているそうです。スタッフ20人のうち、障害のある方は14名。厨房におじゃまさせてもらいました。

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知的・精神・発達障害の方々が働いている厨房、視覚障害者や車いす使用の方はおられませんでした。



 森さんは実家が豆腐屋さんだったと言います。その関係もあって、火が消えかかった伝統ある涌谷町のおぼろ豆腐の復活を決意され、あの震災の年に事業を開始、その中で障害者雇用にも着手されたといいます。全国の障害者の作業所においしい豆腐作りのノウハウを教えてまわること50箇所という森さんの豆腐作りの技。その技が生きる涌谷とうふ店のおぼろ豆腐や厚揚げなどは、こちらのレストランの人気メニューとなっています。

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地元野菜や自慢の豆腐料理がならぶ店内、この他にもメニューは豊富。90分でどこまで食べきれるかな?



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ムツボシくんも大満足のお味。9分割プレートを2つならべてみたものの、この他にパスタ、カレー、デザート、フルーツ…、別の日に出直さないとね。



 毎日新聞に、「厚労省によると、A型事業所は2009年に全国328カ所だったが、14年は2382カ所と約7倍に急増。社会福祉法人の他に民間の参入も相次ぎ、現在は約半数が営利法人による経営」という記事がありました(2016年1月10日)。事業所の増加は働く場所の増加なのだから、これまで一般企業にほとんど採用されてこなかったムツボシくんのような重度の視覚障害者にとってはこれは朗報?なのでしょうか。森さんの3つの事業所においても、残念ながら視覚障害者の雇用契約はこれからだといいます。実習扱いで1名がいま字幕制作にチャレンジしているとのこと。マッサージ師・鍼師としての伝統的な仕事だったら重度の視覚障害者でもできるのでは?と思われるかもしれませんね。でも、実態は、マッサージや鍼の業界は今や晴眼者たちの施術者が8割以上という業界なのです。また重度視覚障害者の誰もがマッサージ師や鍼師に向いているわけではもちろんありません。では、どうするか?一般企業の門をたたくもののなかなか雇用されません。今回話題にした「まちの豆腐屋プロジェクト」のようなA型事業所でも視覚障害者はお呼びではない。そこで、年金のみを頼りにしつつ、最低賃金が保障されない福祉労働のB型事業所に通うこととなるというのが現状です。今後、視覚障害という障害がさらに理解され、適切な人的・物的・制度的サポートさえあれば重度視覚障害者も参加できる生産活動があることを、「まちの豆腐屋プロジェクト」のようなA型事業所における雇用実績から、たくさん見えてくるような障害者雇用のこれからの展開を大いに期待するムツボシくんでありました。

[参考サイト]

株式会社まちの豆腐屋プロジェクト
https://おぼろ.com/

「涌谷とうふ店、涌谷・放送字幕制作センター」の新設事例紹介
http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/top/shinsaijouhou/fukkojirei/20160222_01.html

「就労継続支援A型」参入事業者が急増/毎日新聞(2016-1-10)
http://mainichi.jp/articles/20160110/k00/00e/040/142000c
2016年6月18日

宮城教育大学視覚障害教育コース1年が「拡大読書器」など視覚支援機器を実際に触って体験!

 ハーイ!ムツボシくんです。宮教大の視覚障害教育コース1年生の12名とムツボシくんは、6月1日、株式会社トラストメディカルを訪ねました。視覚障害のある方を支援する様々な機器を取りそろえておられるのがこちらの会社「トラストメディカル」(仙台市泉区)なのです。もちろん、目的はどんな支援機器が実際に使われているのだろう、このことに実感をもち、将来、支援する側となるために必要な問題意識を育てることです。おっと、今回のムツボシくん、ちょっとだけ教育者モード…。

写真1
これが株式会社トラストメディカルの社屋です



写真2
講師のKさんを囲んでお勉強開始です



 学生たちには一人1台ずつ、手持ちやスタンド式のルーペや単眼鏡といった弱視レズレンズ類が準備されており、実際に触れて学ぶことができました。どこまでレンズを離したらぼやけるのか、レンズ類には倍率の異なるものがあることなど基本中の基本を手に取って学びました。

写真3
近用のためにはスタンド式や手持ちなどいろいろなルーペがある



写真4
遠用のためには単眼鏡が用いられる



写真5
まぶしさをカットする遮光レンズも眼鏡の上からかけてみた



 またレンズに書いてあるディオプター(D)の単位についても簡単な倍率計算法とともに教えてもらいました。つまり、「ディオプター値÷4=倍率」がよく用いられているようです。

写真6
これはエッシェンバッハ製LED付き手持ちレンズ、「6×24D」とあり、6倍である。



 どんなレンズが弱視の方にあっているのかというのはこの計算式だけ知っていたらよいわけではもちろんありません。弱視者一人ひとりの目の調整機能との関係もあるのであくまでこの計算はざっとしたものであり、倍率を問題にするよりはその弱視者が求めている「どんなサイズのものをどんなサイズまで大きくして見たいのか」「そのためにはどれくらいの視距離が必要なのか」など専門的なアドバイスが必要となることは言うまでもありません。また、レンズ類や拡大読書器といった道具類は選んでさえもらったらすぐに使えるというものではありません。やはり、使いこなすためのトレーニングも必要です。これも最初はトラストメディカルのような代理店におられる福祉用具専門相談員の方や、眼科医、視覚障害福祉機関などでロービジョンリハビリテーションに関わっておられる専門家からリハビリを受ける必要があります。学生たちもそのことを感じてくれたでしょうか。最後に、拡大読書器を用いて書き込む練習を体験させていただきました。ペンを持つ手元を見るのではなく、映される拡大画面を見てペンを動かすのです。


写真7
なかなか思うようには書けない拡大読書器を用いた書類書き込み練習



 最後に学生たちの感想をいくつか…。

 「体験させていただいた拡大読書器では、実際に文字を書いてみると思っていたよりも上手く書けずに苦戦しました。自分では、目を瞑っているときでもまっすぐ上手に書けると思っていたけれど、実際は全然違っていて、少し驚きました。」(女子)

 「マイナスルーペをはじめて見たときには少し驚いた。見えにくさというと、遠くが見えなかったり、ぼやけて見えたりというのを想像するが、マイナスルーペは、視野が狭い人のための物である。視覚障害のとらえ方が少し変わった。」(男子)

 「一人ひとりの見え方の違いにあわせていろいろな種類のものがありました。今回の見学では実際に手に持って確かめる機会をたくさん設けていただいたので、よりそれぞれの補助具がどんな場面で使われるかということが想像できました。しかし、様々な種類があってもそれぞれに短所もあり使い分けていくことが重要だと思いました。また、身の周りで見えにくい方がどんな場面で不自由だと感じるのか、その場合にはどうしたらより快適に過ごせるようになるのかを考えていきたいです。補助具に頼らなくてはいけないときももちろんありますが、私たち自身が見えにくい人の立場になって物事を考え、配慮をすることができれば、それが補助具には及ばなくても快適に過ごしてもらうことができるのではないかとも思いました。」(女子)

[参考サイト]株式会社トラストメディカル/眼科に関わるすべてをお手伝いします
http://www.trust-medical.co.jp/
2016年5月22日(日)

盲学校の役割ってなんだろう〜鳥取県立鳥取盲学校で考えたこと〜

 ハーイ!ムツボシくんです。4月25日、ムツボシくんは鳥取県立鳥取盲学校を訪問していたのであります。とても自然豊かで環境、施設ともに魅力的な盲学校でした。

写真1
現在の鳥取盲学校校舎。正門近くには「ようこそ盲学校へ」との横断幕もあった。



 さっそく授業を見学。生徒数は近年激減し、小学部〜高等部まで全校あわせても今年は10名だという。しかし、見学した授業にはいずれも熱い学びの姿を見ることができた。職業課程の授業(按摩・マッサージ・指圧師、鍼師、灸師をめざす課程)では、黒板の他、大画面TVにも要点や問題が表示され、弱視の生徒はPCにてノートを取っていました。

写真2
職業課程の「生理学」の授業。教える先生も視覚障害教師である。



 この廊下をみてほしい。余計なものは一切置いていないのが盲学校の廊下なのです。目の見えない、見えにくい子どもたちの学校ですので当たり前と言えば当たり前! 見える人たちにすれば新鮮かもですね。

写真3
何も置かれていない点字ブロックだけが見える校舎内の廊下。



 こちらは小学部3年生の教室、理科の授業にお邪魔。鳥取盲学校では、一人ひとりにiPadが貸し出されるのです。iPadで撮影してきた春の草花や昆虫についての勉強のようです。弱視児童1名の教室でした。

写真4
小学部3年生の理科の教室、ここでも大画面TVが活躍。


写真5
ベランダに出ると、そこは上履きのまま花や虫の観察ができる自然たっぷりの中庭だった。



 グラウンドの方を見ると、築山があったり、実のなる果樹を集めたプチ果樹園があったりとすばらしい環境です。でも、全校生徒数がここ20年ほどのうちに4分の1までに減少。小学部2名、中学部3名、高等部5名の計10名となっているのです。滋賀県の盲学校で小さい頃から学んできたムツボシくんとしてはとても残念です。まるで、「もう盲学校なんていらない」と言われているようで悲しい気分になりました。

 実は、今回の鳥取盲学校訪問は、まさにこの最近顕著に進む盲学校における生徒減の問題に関する取材訪問だったのです。盲学校の生徒減はここ30年来の全国的な傾向なのです。「地域の学校に視覚障害のある子どもも通えるようになったんだから盲学校はなくなっても問題ないんじゃないの?」「でも、盲学校がなくなったら、これまで盲学校に蓄積されてきた視覚障害者を教育することの意味や手法・理念などは本当に地域の一般の学校の中にこれからも残し続けることができるの?」などなど、この生徒減の問題はいろんなことを問いかけてきます。この点に関するムツボシくんの考え方については、月刊『視覚障害〜その研究と情報』(視覚障害者支援総合センター発行)の6月号に発表する予定です。興味のある方はぜひ読んでみてください。

 ところで、ここ鳥取盲学校は明治43年に私立鳥取盲唖学校として創立された歴史ある学校です。創立者は遠藤董(視覚障害者ではないようです)、山陰のペスタロッチとも言われる明治の教育者(画家でもあった)でした。竹信学校長は、私に、創立時の視覚障害教員・上田ツナ(27歳)について、塩田健夫著『遠藤董と盲・ろう教育』(今井書店鳥取出版企画室発行)という本を紹介してくださいました。

 上田ツナは、按摩、弾琴、針鍼、マッサージ、音楽、手工、裁縫などを盲児に教えていました。彼女は、盲の生徒の立場に立ち、生徒の相談にものり、その業績は高く評価されています。この本によりますと、「創立したばかりで、先生方にも生徒にもとまどいかあったが、特に生徒は入学前の孤立した生活から一変して仲間ができ、喜んで登校した。」「生徒に教えるにあたり、普通学はさほどむずかしさは感じないが、技芸、特に針灸とか、はさみを用いる手工には困難さを感じます」。また、「盲の人は家の内にいることか多く、そのため運動不足や青白い顔になりがちです。これは家族が盲人を外に出したがらない結果によるものであり、保護者は盲のわが子を人前に出すようにしなければなりません。盲人教育では知育、徳育もですが、特に体育が大事です。身体が健康でないと全てに影響を与える…」と言葉を残しています。

 まさに、生徒減だからといって盲学校を閉校することは、創立以来、上田ツナのように熱意のある盲教育者を百年以上にわたって産み出してきた視覚障害専門の唯一の教育の場が鳥取県から消えることとなるのです。

 鳥取盲学校を去るにあたり、ムツボシくんは、創立者・遠藤董先生のお顔に触れさせていただきました。そして、おひげの口元に触れては「生徒減だからという理由だけで閉校させてはいけませんよね」と遠藤先生に語るのでありました。

写真6
創立者・遠藤董の銅像に対面するムツボシくん。


[参考サイト]
鳥取県立鳥取盲学校
 http://cmsweb2.torikyo.ed.jp/torimo-s/index.php?page_id=0
月刊『視覚障害―その研究と情報』/視覚障害者支援総合センター
 http://www.siencenter.or.jp/sikaku/sikaku-new.html
遠藤董(鳥取県、教育の父・山陰のペスタロッチ)/鳥取の偉人録
 http://blog.livedoor.jp/ijinroku/archives/51822844.html
2016年4月13日(金)

仙台地下鉄「南北線」に見た点字サインのアレレ?BEST3

 ハーイ、ムツボシくんです。昨年7月のこのコーナーの記事「日本信号株式会社様への手紙(7月21日)」で紹介していました仙台市営地下鉄南北線の全駅点字サインの点検ですが、仙台市視覚障害者福祉協会と仙台市交通局の連携にて無事この3月に終えることができました。まあ、ひどい点字サインが放置されてきたんだなあというのがこの点検に協力してきたムツボシくんの感想です。

 「摩耗して指で読み取れない点字」「はがされたのか切り取られてしまっている点字」は当たり前、「まるみつ方面出口と書かれてるけど‘丸光’なんてデパート、もうなくなって25年は経つんじゃない!」という街の変化に取り残されている点字サインも多数見られました。また地下鉄から降り立ったホーム、ようやくたどり着いた上り階段、この階段を上ればどこに行くのかなと思いテスリにある点字サインを読むと…、「ここは地下1階ホームです」と書かれているだけ。「いま地下鉄から降りたんだから、それはわかってるって!それよりここ昇ったらどこに出るのかを教えてよ」と言いたくなったことも多々ありました。

 そこで、今回はこれら数ある問題点の中から、「これってどうよ!」という「点字サイン・アレレBEST3」を取り出してみます。いずれも「なんでこうなるの?」「こうなっちゃった背景を放って置いていいの?」と言える問題点を含んでいるからです。

 【第3位】ここにもあった!天地逆さまに貼られた点字

写真1
これじゃ手首をひねらないと読めませーん!



 この写真は長町駅にある「たいはっくる」(建物名)方面出口の下階段にあるテスリ点字サインです。実はJR仙台駅の階段にもこの天地逆さま点字があるのですが、こんなとこにもあったんですね。それにしても、なんで点字が逆さまになってることも自分たちで確認できない業者がこんな仕事請け負っているのでしょうね。

 【第2位】このエレベータ、付き添いがいないと乗っちゃいけないみたい!

写真2
 「できるだけ付き添いと一緒に乗ってほしい」と訴えているホームのエレベータ



 こちらの写真は黒松駅のホームにあるエレベータです。写真にある点字サインには「お願い」というタイトルで、枠線にてわざわざ囲みながらこう書かれていました。「エレベーターに乗られるときはできるだけ付き添いの方と一緒にご利用ください」と…。設置者にとって、このエレベータは見えない人たちには一人では利用してほしくない理由っていったい何なんでしょうね。付き添いがいないと地下鉄は利用できないよと言われているようでムツボシくんのような白杖一人歩き者にとっては気分はあまりよくありません。

 【第1位】はてさて、この改札階はいったい地下何階なの?

 BEST1にあげたいのは地下鉄駅構内の地下何階という階数表示の混乱です。次の2つの写真を見てください。いずれも北仙台駅の改札を出た同じフロアにある階段です。

写真3
改札を出て右へ。JR乗り換え方面出入り口の階段テスリには、「ここは地下1階」とある。



写真4
改札を出て左へ。バスプール方面出入り口の階段テスリには、「ここは地下2階」とある。



 まさにアレレ?となりますね。何で同じフロアなのに右の階段は「ここは地下1階」で、左の階段では「ここは地下2階」となっているのでしょう。ムツボシくんは混乱したのでありました。事情はこのようです。「ここは地下2階」という階段を昇るとこの地上には「エムズ北仙台」というビルがあるのです。

写真5
上の写真4を昇りきると地上にはエムズ北仙台のこのビルがあった!



 そうして、このビルのフロアの数え方から言いますと、さきほどの階段下テスリのフロアは地下2階にあたるそうなのです。エムズ北仙台にとっては「地下1階」とは自転車置き場の階が別にあるようなのでした。うーん、そんなん、エムズ北仙台のフロア構造を知っている人でないとわからないじゃありませんか。市営地下鉄の設置している階段の点字サインが地上の商業施設のフロアの数え方に引っぱられ、それを無条件に受け入れるからこんな変な階数表示になっているのです。

 ここまで、いろいろと地下鉄南北線の点字サインの問題点に触れてきましたが、今回の全駅点字サイン調査を市交通局の方を中心にすすめてくださった点は高く評価できます。すべての問題箇所を写真も撮ってチェックしてくださいました。すぐには改善のための予算がつかないでしょうが、ここにあげた問題点の背景にひそむ‘何でこうなふうになっちゃったの?’を考えることはいますぐにでもできます。仙台市は駅の点字サインをどのような方針で表示するのか、その内容とその設置方法をどのように統一するのか、私たち当事者も次期改善の日に向けて共に協議していきたいものです。

 また、これはあまり知られていませんが、階段テスリにあるサインは点字使用者のみが利用しているわけではありません。点字とあわせて、読みやすいコントラストの色遣いにて可能な限り大きめの文字による拡大文字サインもテスリにあるととても便利なのです。いずれにしろ私たち当事者がもっともっと声を出していかないといけませんね。「なんでこんなふうにしてくれなかったの?」なんて設置後に嘆く街作りからはいい加減卒業したいものです。
2016年3月11日(金)

凹凸のない点字ブロック?「歩導くん」は足下のバリアフリーなのだ!

 ハーイ!ムツボシくんです。今回の話題は屋内・室内用の視覚障害者誘導マットである「歩導くん」についてです。

 3月10日、改良版「歩導くん」を携えてムツボシくんの部屋を訪問されたのがこちら錦城護謨株式会社(きんじょうゴム)の前山さん。とってもさわやかな女性でした。

写真1
製品説明する前山さんとそれを聞くムツボシくん



 ここで、まず「歩導くん」について少し説明しておきますね。「歩導くん」は今から約十数年前、島根県のトーワ株式会社が初めて開発した凹凸のない屋内用点字ブロックです。「凹凸がない」ということのメリット、みなさん、お気づきでしょうか。ネットにご自身視覚障害者となられた杉原社長の開発秘話がありましたのでご紹介します。「今までの点字ブロックは、視覚障害者には便利でも、車椅子の方やベビーカーを押す人にとって、また、それが必要なはずの視覚障害者本人にとっても危険な場合があります。‘歩導くん’は、そんな問題点を一つ一つ解決し、誰でも安心して使えるように開発しました」。従来の凸凹したものではなく、表面が少し浮き上がった状態のゴムマットであり床面との接着も自由に着脱ができる両面テープです。また1枚は点字ブロックと同様30センチ四方でつなぎ目は差し込み式となっています。

 このトーワ(株)から始まった「歩導くん」を大阪府八尾市の錦城護謨(株)がタッグを組んで改良・発展させています。今回、ムツボシくんのところに持ち込まれたのがこの改良版・錦城護謨版の「歩導くん」ということです。

写真2
試しに宮教大のエレベータのボタンまで設置してみました!



 なんとこの「歩導くん」、今年のIFデザイン賞(デザイン界のオスカー賞とよばれている)にてグッドデザインとして入賞したとのこと。実際に少しエレベータ前に並べてみてムツボシくんも踏んでみました。素材がゴムなので感触が異なったり、杖でたたけば音に変化があったのはもちろん当たり前と言えば当たり前。何か物足りない!室内外を通して点字ブロック類を白杖にてたたく歩行スタイルは私にはないのでここをたたいて違いがわかるでしょと言われても戸惑いました。私としては、もう少し踏みごたえというか、単なるゴム面を踏んでいるのとは異なる‘気分も明るく、印象深い踏み感’がほしいと正直感じました。

 でも、この凹凸のないマット式の屋内誘導マットは明らかに次のような活用法に優れています。

 【仮設ができる】 卒業の式典、全盲の卒業生が単独で校長のところまで歩いて卒業証書を受け取りに行ける(式が終われば「歩導くん」は外して通常の体育館として利用)。視覚障害者からの宿泊予約、ホテル側が客室からエレベータまで、あるいは食事会場付近などに一時的に設置する。緊急時の災害避難所内の誘導のために設置する。

 【往来の多い場所にも常設できる】 各施設の入り口からインフォメージョン窓口(フロント・受付・事務所窓口等)までは視覚障害者用の誘導路が必須。図書館、病院、役所、学校等で凹凸のない誘導マットはまさに足下のバリアフリー。

 【レンタルできる】 錦城護謨では年に1回だけの式典とか、不定期のイベントの時に一時的に設置するための貸し出しサービスがある。

 【色が選べる】 床面との相性を考えて複数の色から選べる。また要望に応じて希望色のものを作ってもらうことができる(早稲田大学は早稲田カラーのえんじ色の「歩導くん」をただいま発注中!)。

写真3
標準である「歩導くん」のカラーバリエーションは黄色・茶・青・緑・そしてグレーの6色!




 残念ながら、わが仙台にはまだこの「歩導くん」の常設施設はないのです。錦城護謨には、さらなる‘踏み心地よさ’の改良を願いつつ東北地方においてもこのような足下のバリアフリーにも配慮した視覚障害者の誘導方式に関心が高まっていくことを願うばかりであります。

●参考サイト

トーワ株式会社(歩導くん開発元)/人の抱える問題は千差万別・・・本当のバリアフリーをめざして http://www.mable.ne.jp/~towa/

トーワ株式会社杉原社長の記事/山陰の元気印(元気人、元気企業)
 http://genki.sanin-navi.jp/3684.html

錦城護謨株式会社/歩導くん(視覚障がい者誘導マット,屋内誘導)
 http://www.kinjogomu.jp/welfare/index.html
2016年2月15日

家紋なんて見たことないってあなたに“触れてわかる家紋の本”ただいま仙台にて製作中!

 
 ハーイ!ムツボシくんです。今回は家紋を点図にしちゃおうよって話。わが家の家紋を知らないって人は見える/見えないにかかわらずおられるでしょうね。でもムツボシくんのように子どものころから見えない人たちはほぼ確実に家紋なんて知らないで大きくなっちゃっているのではないでしょうか。ムツボシ家は「三つ巴」と親父からは聞いてはおりました。でもこの「三つ巴」がどんなマークなのかは今回のプロジェクトをすすめるまでは恥ずかしながらよく知らなかったのでありました。それに同じ「三つ巴」でも右回りとか左回りとか、外に丸がついているのかついていないのかなど多種あるんですね。こうなるとムツボシ家の「三つ巴」は果たしてどれ?ってなりますね。

 さて、ムツボシ家の話は置いておいて、今回私たち仙台エーデル勉強会(宮城県視覚障害者情報センター)が家紋点訳プロジェクトの原本として選んだのはこちら。別冊宝島『家紋と名字』(高澤等・森岡浩監修、2014年)です。

写真1
こちらが墨字版原本の表紙、全国で多い名字ランキングとその家紋が300位まで掲載されている。



 まだ完成までには時間がかかりそうです。家紋は平面図だし色もないのでもしかして点図に向いているかも…と着手したものの、いやはや複雑複雑。細部まで細かく描かれた見事なデザインばかりです。これをいかに本物のボリューム感とともに指先に点字として届ければいいのか、いまも悩みながらの点訳を続けています。

写真2
こちらは全国名字ランキング1位佐藤姓に多い「上がり藤」の紋様。



 では、みなさんもムツボシくんと一緒に考えてください。日本十大紋の一つ「藤紋」を点訳してみましょう。

 家紋に関するあるホームページによると、「藤は風にそよぐ紫色の花弁がなんとも優雅な姿であるだけでなく、長寿で繁殖力の強い植物でもあります。平安時代には既に衣服の紋様として使われていた」記録があるようです。隆盛を誇った藤原一族が用いた紋様ですね。「全国分布では、岐阜県が1位、静岡県、香川県で2位、岩手県、宮城県、神奈川県、山梨県、愛知県、岡山県、山口県で3位。全国くまなく多い。ただ、一見多そうな近畿地方は少ない。京都府、滋賀県は8位、大阪府は10位、和歌山県、兵庫県で12位。」とも説明されており、次第に地方に下る貴族や地方武士の中で藤原氏にあこがれつつ重宝されバリエーションを増やしていった紋なのかもしれませんね。
 原本にも見られるこのような歴史的な説明部分はもちろん原本通り点字にすればよいでしょう。そして、「上がり藤」の紋様はエーデルという図形点訳ソフトにて点図にしてみました。ただ、忠実に描くだけでは全体のボリューム感は伝わりますが、細部がうまく触れられません。そこで、私たちはもう一つ、下に家紋の輪郭図(あるいは線図)を付け加えることとしたのです。

写真3
上がり藤の点図、できるだけありのままを伝える点図(上)と細部を理解するための輪郭図(下)。



 見えない人の中にはこの点図だけで「十分わかるよ」と言ってくださる人もおられるでしょうが、「説明してほしい」と言われる人の方が多いことでしょう。そこで、次のような説明文を考えてみました。

 「藤の花を二房、左右対称となるように円状に配置したデザインである。この家紋はまず下の輪郭図を見てほしい。6時の位置に花を隠して、上向きにとがった葉があり、その付け根からも左右に葉が出ているのがわかる。それぞれの葉は楕円形で中央に二重線の軸が走っている。右と左に円周を鈴なりに上がっていく花が12時の位置に向かってしだいに小さくなっていく様子もつかめるだろう。」

 いかがでしょう。もっとよい工夫を思いつかれる方もおられることでしょうね。ぜひ家紋の点訳にてアイディアをお持ちの方はムツボシくんまでメールにて連絡くださいね。こちらをクリックすれば「上がり藤」のエーデル点図データがダウンロードできます。一緒に考えていただけたらうれしいです。

●参考サイト
藤紋(藤原氏に憧れた地方武士の紋)/一本気新聞
 http://www.ippongi.com/2011/12/23/fuji-2/