アッという間に合うマニュアル



ぼちぼち会顧問 長尾 博  


序章  なにを信じて点訳するのか?



 この章への答えは、もちろん「自分を信じて点訳して下さい」です。「えっ?それができないから困るんじゃないの?」と、いまあなたは口の中でぼそぼそいいかけましたね。わかってます。点訳なんてものは、本来は悩みながらやるものではありませんよね。しかし、現実にはそうはいきません。それはどうしてでしょう。
 みなさんもご存じの通り、点字表記のほとんどは、国文法の解釈から多くを生み出しています。しかし、それはあくまで‘点字表記の多く’にすぎません。すべてではないのです。この国文法では裏付けられないわずかな部分が、点訳を悩み多きものにしているのです。たとえば、次のような問題はいつも頭を悩ませるところではないでしょうか。

 ア.四字熟語に出てくる漢数字を仮名で書くか、数符で書くか?
 イ.長い名詞を意味の塊ごとにどうマスあけするか?
 ウ.外来語のマスあけをふつうの日本語のマスあけと区別するのか?

などなどたくさん思いつきますよね

 実際、これらの問題を点訳者がひとりで考えてもわかる答えがでる問題ではありませんよね。従って、いまの点訳界では、どうしても、これらのあいまいな問題に対して点訳グループ独自の表記基準をもつ必要があります。私たちのぼちぼち会も例外ではありません。表記上の文法的な事項はしっかりおさえつつも、点訳界では、まだ判断がゆれている表記について独自の基準をつくる必要があります。
 この間、ぼちぼち会としても、独自の点訳ルール集が必要となっていました。そこで、本会結成10年を迎えた記念すべき2000年に、私たちの点訳ルール集『アッという間に合うマニュアル』を発行することにしました。ここに作成した本マニュアルは、ぼちぼち会が点訳するにあたっての判断基準を集めたものです。そして、ここにあげたものはあくまでも基準ですので、改訂を今後重ねていくための踏み台みたいなものです。会員のみなさんの議論の中でよりよいものが順に積み重なっていくことを期待しています。
 再び、「なにを信じて点訳するのか?」という問いかけへの答えをいいましょう。もちろん「自分を信じて」です。「ええっ!」というまえにちょっと待って下さい。すべてを自分で考えて判断できるそんな自分にならなきゃ点訳はできないのと悲観する必要はありません。
「わからない時はまずあの本を調べてみよう!」「これって確かあれを引いたら出てたっけ!」ということがわかる自分でさえあればいいのです。そうです。「なんでも調べてみる自分」に自信がもてるようになれば点訳者として十分一人立ちできるといえます。
 本マニュアルは、初心者用ではありません。点字の50音の書き方などは説明しておりません。これから分かち書きをしながら文章を書いてみようと思われる方を対象としています。第2章では、そのためのコツを、覚えやすいように川柳風に‘法則’としてまとめてみました。本マニュアルが、みなさんの調べ方上手になるための案内書となり、実際の点訳の場面で、みなさんの自信を支える一冊となることを願っています。
 なお、本マニュアルは、2001年に改訂された新表記法を踏まえて、2001年8月および2002年9月に改訂しました。


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