法則11. 2つ以上の動詞や形容詞がくっついた時(          複合動詞や複合形容詞】

ぜったいに、複合したら、はなれない


 《解説》 〔複合の仕方いろいろ〕 なにになにがくっつくかで複合動詞と複合形容詞に分けられますが、いずれもひと続きに書きます。

 (1) 複合動詞の種類(すべてひと続き)
ア.名詞+動詞でできた複合動詞
  → 名付ける 物語る 旅立つ
イ.動詞+動詞でできた複合動詞
  → 見送る 揺り動かす 思い出す 受け取る
 
このイのパターンは、つなぎ目が「イ列」か「エ列」でつながるのが特徴です。
 〔下線部がイ列だからひと続き〕… よつづけた、かはじめた、あるさった
 〔下線部がエ列だからひと続き〕… かだした、よごはじめた、ころおちた
 《注意〕 つなぎ目がエ列でも、「〜て」「〜で」でつながっている複合動詞(この場合はマスあけしない)と、上の法則10の「〜て、〜での後ろの補助用言」(この場合はマスあけする)とをまちがえないようにね。
ウ.形容詞+動詞でできた複合動詞
  → 近寄る 近づく 長引く 若返る

 (2) 複合形容詞の種類(すべてひと続き)
ア.名詞+形容詞でできた複合形容詞
  → 名高い 力強い 末恐ろしい 心細い 
イ.動詞+形容詞でできた複合形容詞
  → 読みにくい 寝苦しい 信じやすい 
ウ.形容詞+形容詞でできた複合形容詞
  → 細長い 古くさい おもしろおかしい


  法則12. こそあどことばのとき】

こそあど君、背はひくくても、一人立ち


 《解説》 〔こそあどことばの後ろはくぎる〕 ‘この、その、あの、どの’のように、‘こそあど’からはじまる短いことばがありますね。これらをまとめて「こそあどことば」とよんでいます。これらはすべてその後ろを原則としてマスあけします。「こそあどことば」の主な種類を見てみましょう。
  
 〈こ〉…この□家、こんな□本、こう□なると、これ□ゆえに
 〈そ〉…その□夜、そう□言えば、そんな□ふうに、それ□以上
 〈あ〉…あの□人は、あんな□こと、ああ□して、あれ□以上
 〈ど〉…どの□店へ、どんな□生き方、どう□やって

 ただし、いうまでもありませんが、「こそあどことばの後ろはマスあけ」だからといって、後ろに助詞や助動詞が続いた場合は、法則1の通り、続けなければなりませんから、注意してくださいね。(これクライ、そのヨーニ、あれバッカリワ、どれナラ ←カタカナ個所が助詞・助動詞)

 《注意》 こそあどことばの中には、後ろに続く語とくっついて、もう1語(連語、接続詞、副詞など)となっているものがあります。これらは、こそあどことばとはいえ、その後ろをあけずに続きに書きます。

こそあど言葉’だけど今ではもうひと続きになった語一覧

 〔この〕 … このあいだ(こないだの意)、このうえ(注:この□上は□汚い)、十0年□このかた(注:この□かたは□偉い)、このかん、このさい、このごろ(注:この□ころの)、このさき(時間的な意味では続け、場所的な意味では区切る → 注:この□さきは□山だ)、このたび、このぶんでは、この方(目下への呼称)、このほど、このまま、このせつは、この世(注:この□夜)、このご(注:この□あと)、このまえ(時間の意味で続く、注:この□まえを□みろ)、このへんで
 〔その〕 … そのうえ(注:その□上に□置け)、そのうちに、そのかん、そのくせ、そのご(注:その□あと)、そのじつ、そのた(注:その□ほか)、そのば(そのば□かぎり、そのば□しのぎ、そのば□のがれ)、そのひぐらし、まさに□そのひとだった、そのへんに、その方(呼び名として)、そのまま、そのもの□ズバリ
 〔あの〕 … あの手□この手、あの世(注:あの□夜)
 〔どの〕 … どのへんに、どのみち(注:どの□みちへ□進もう)
 〔こう〕 … どうこう□する、そうこう□する
 〔そう〕 … そうして(接続詞の「そして」の意味の時)、そうこう□して
 〔どう〕 … どうして(なぜの意味で続け、方法・手段の意味では区切る)、どうしても(必ずの意味)、どうして(なかなかの意味、注:彼は□なかなか□どうして□好人物だ)、どうこう□する


法則13. バカにできない短い名詞(形式名詞)】
 また失敗、思わず続けた、「こと」「とき」「ため」


 《解説》 日本語には、本来の意味をもたない次のような形式的な名詞があります。これらはいずれも短く、しかも前の文節についはずみで続けてしまいそうになるものばかりです。そう、助詞の扱いとまちがえる人もいます。でも、これらは形式とは言え、品詞は‘名詞’、立派に一人立ちすることば(自立語)なのです。必ず形式名詞の前は区切ることにしましょう。

 
BR> うえ(怒られた□上に)、うち、かぎり、こと、すえ、せい、せつ(あの□せつは)たび、ため、てん(その□点は)、とおり、とき、ところ、はず、ほう(そっちの□方が)、ほか、まま、め(ひどい□目に)、もの、ゆえ、わけ


  法則14. 「ない」の前をくぎるとき】
 マス席で、はも(鱧)入り料理、ナイスです

 《解説》 〔枡席で鱧料理とは〕 「はも入り」とは、助詞の「は」とか「も」などが「ない」の前に入るケースを指しています。‘関係ない’の場合、‘関係(は)ない’のように、「は」が入ってもおかしくなりませんね。このようなケースを「はも入り」といい、マス席でゆっくり「はも(鱧)をいただいてもらいましょう」の意味でマスあけをします(この時の「ない」は形容詞の「ない」です)。
 《注意》 この「はも入り」のケースは、「ない」の前に形容詞が「〜く」で続くことがあります。「堅く(は)□ない」とか「痛く(も)□ない」のようにです。形容詞の「〜く」の後ろの「ない」は必ずあけると覚えてもいいですね。
 例) 〈「はも入り」の「ない」はくぎりましょう〉           
異常□なし ちがい□ない 関係□ない 美しく□ない 元気□なく おかわり□ない 差し障り□ない このうえ□ない こだわり□なく 差しつかえ□ない やる気□なく ほしく□ない 所在□ない


  法則15. 「ない」の前が続くとき】

打ち消しの、いないない動詞は、マスあけなし


 《解説》 〔いないない動詞とは〕 動詞につづく「〜ない」が、「いない」の意味で、「いない」の「い」の省略されて「ない」となっている場合を‘いない動詞’と呼びます。この時はマスあけしないで続けて書きます(「いない動詞」の例: 書けてない やってないわ 信じてないよ)。また、「〜ない」がその前にある動詞の意味を打ち消し(否定)する時を‘ない動詞’と呼びます。この「ない」は助動詞の「ない」ですので、前をくぎってはいけません。(「ない動詞」の例: 歩かない、動けない、許されない 投げられない)。このように、‘いない動詞’と‘ない動詞’をあわせて‘いないない動詞’といい、いずれも「ない」の前をくぎってはいけないケースとなります。

 《注意》 次の2つの文を比べてみて下さい。「ない」の前にマスあけが必要でないのはどちらでしょうか。‘いないない動詞’を含む文かどうかを判断すればよいことになります。
 例1) もうお菓子はたべてないさ
 (点訳文)→ モー□オカシワ□タベテ□ナイサ(形容詞の「ない」だからマスあけする)
 例2) まだお菓子はたべてないさ
 (点訳文)→ マダ□オカシワ□タベテナイサ(「たべていない」の「い」の省略された「いない動詞」だからマスあけをしない)


  法則16. 「〜なさい」の前をくぎるときとくぎらないとき】

マスあけしなさい、そのままいなさ


 《解説》 〔ナサイはもともと何の省略形かな〔 「〜なさい」には、「しなさい」の「し」の省略された場合と、「いなさい」の「い」の省略された場合の2つがあります。そして、この2つのケースをマスあけの有無で使い分けます。まず、「〜なさい」が、「しなさい」の「し」の省略の時は、「なさい」の前をマスあけします。これを「し」の省略に注目して、‘マスあけしなさい’と覚えます。また、「〜なさい」が「いなさい」の「い」の省略の時は、「なさい」の前をマスあけせずにそのままにしておきます。このことを「い」に注目して‘そのままいなさい’と覚えます。

 例) 〈「なさい」の前はなにが省略されているかな〉
 (1) 教室の後ろに立ってなさい(立ってイナサイの意)
 (点訳文)→ キョーシツノ□ウシロニ□タッテイナサイ(マスあけせずにそのままイナサイ)
 (2) 仕事はすわってなさい(シナサイの意)
 (点訳文)→ シゴトワ□スワッテ□ナサイ(マスあけシナサイ)


  法則17. 長い名詞(複合名詞)の切れ目をさがそう】

3拍子、そろってはじめて、一人前!


 《解説》 〔複合名詞内にある大人の部品と子どもの部品〕 いくつかのことばの部品がプラスされてできている長い名詞を複合名詞といいます。複合名詞をつくっている各ことばの部品には、長いものと短いものとがあります。この部品の拍数を調べてみて、3拍以上の部品は、一人前の大人の部品だと考えます。2拍以下の部品はまだすねっかじりの子ども部品です。例えば、‘高速道路図’という複合名詞は、「こうそく」という4拍の部品、「どうろ」という3拍の部品、そして「ず」という1拍の部品というふうに3つの部品からできていると考えるのです。そして、この場合、大人の部品は、「こうそく」と「どうろ」の2つとなり、「ず」は子どもの部品となります。
 〔3拍以上の大人の部品はその前をくぎり、2拍以下の子どもの部品はその前後の大人の部品にくっつける〕 ここでは、前にマスあけが必要な部品を一人前と呼びます。すなわち、大人の部品である3拍以上の部品が1本立ちできる一人前の部品となります。でも、2拍以下の部品は一人前とはみなさず、マスあけはしません。すなわち、マスあけをさせてもらえないまだすねっかじりの子ども部品ということです。だから、その前後にある大人の部品にくっつくということになります。子どもの部品は、まだ独り立ちできないため、大人の部品に面倒をみてもらっている扶養家族みたいなものですね。

 拍数の数え方 1拍と数えるものは次の通りです。
 ア.「あ〜ん」の五十音清音
 イ.「が」などの濁音や「パ」などの半濁音(マスは2マス使いますが拍数は1つです)
 ウ.「きゃ」「ぴょ」などの拗音の仲間
 エ.「っ」のつまる音
 オ.「ー」の長音

 例1) 教室→キョ・ー・シ・ツ(4拍)  発表日→ハ・ツ・ピョ・ー・ビ(5拍)
 例2) 〈こんなふうに3拍以上を含むかどうかで複合名詞を区切りましょう〉
視覚□障害(3+4) 桜□並木(3+3) バレー□ボール(3+3)
年寄り□扱い(4+4) カラー□テレビ(3+3)
たまご□丼(3+4) アイス□クリーム(3+4)

 ※比べてみよう
すぎなみき(2+3) ←→ さくら□なみき
ハムサラダ(2+3) ←→ ポテト□サラダ
つきみそば(3+2) ←→ つきみ□うどん

 《注意》 この‘3拍以上はマスあけする’という原則にも次のような例外があります。

 優先的例外 3拍以上でも一人立ちしない困った大人部品
 (1) 複合動詞からできた複合名詞
 例) 歩き始め 覚え直し 開き直り(「歩き始める」のようにもともとの複合動詞が存在する場合は、その名詞形の「歩き始め」もひと続きとします。)
 (2) 連濁を含む部品(下線部が連濁箇所)
 例) 柱時計(ハシラケイ) 勉強部屋(ベンキョーヤ)

 それほどでもない例外 2拍以下でも一人前を主張する部品
 (1) 漢字2文字で2拍となる部品(下線箇所)
 例) 母子□手帳 都市□計画 交通□事故 歯科医師
 (2) 漢語との混種語を作る2拍の外来語部品
 例) プロ□野球 ミニ□国家 観光□バス 和風□ピザ
(ただし、「開店デー」「銀行マン」「宣伝カー」は例外の例外として続けます)
 (3) 2拍以下の漢字1字でも、マスあけして意味を強調する部品(下線箇所)
 例) □社会的 □現実的 □人道的 □総合□体育館 小泉□□総理

 ★表記辞典へ★  ここでいう強調語とは何を指しているのかの判断は難しいです。悩む前に表記辞典を引きましょう。〔法則Xを参照〕


法則18. 「〜として」、「〜にして」が続く3つの例外】

いまにして、主として続くは、いながらにして


 《解説》 〔助詞にも「して」がある〕「〜して」がサ変動詞の「する」ならば、当然区切ることとなるのですが、ここであげた3つは、古語的に使われている助詞の「して」と判断します。だから続くこととなります。ただし、「して」が動詞か助詞かの判断はとても難しいので、この3つだけをぼちぼち会では続けるようにします。次の2つの文を参考にしてください。

 《注意》 「主として」は「もっぱら」の意味の時のみ続けます。

 (1) 彼の□授業の□中身は□実験を□主と□して□いた。
 (2) 彼の□授業は□主として□実験で□構成されて□いた。


  法則19. 人名の後ろを続けてよい呼び方】

名前には、くずした「さん」「ちゃん」だけがつく


 《解説》 〔人名の後ろは原則としてひとマスあけ〕 呼び名のうち、人名の後ろでも続けるものの方が例外となります。だから、例外のみを覚えておけば、あとは‘人名の後ろはすべてマスあけ’と覚えればいいことになります。人名の後ろでも続く例外とは次の3つです。
 (1) ちゃん … ひろしちゃん コアラちゃん
 (2) 愛称の「さん」 … やまさん 看護婦さん やおやさん
 (3) 一族をあらわす「し」 … 徳川氏 蘇我氏
(人名の後ろの氏はマスあけ→松下□氏)

 だから、これ以外の次のようなものはすべて人名の後ろをマスあけします。
〜□さん 〜□くん 〜□様 〜□殿 〜□氏 〜□談
〜□記 〜□作 〜□絵 〜□著 〜□曲 〜□叔父
〜□叔母 鈴木□アナ 尾崎□プロ


  法則20. およその数の書き方】

およその数、重ねた数符の、前を仮名


 《解説》 〔数符を重ねておよその数〕 「5、6年」のようにおよその数を表す数字の書き方は、それぞれの数字ごとに数符をつけるのが原則です。だから、「5、6年」は、「数符5数符6」となります。この時、5と6の間に打たれている「、」は点訳してはいけません。

 〔重なり数符を含む大きな数〕 それでは、‘2せん7ひゃく5、6じゅう’というような数はどう書けばいいでしょう。簡単です。重なり数符の箇所をさがして下さい。そこの書き方はもうわかりますね。この場合は、「5、6じゅう」ですので、「数符5数符60」となります。そして、その重なり数符の箇所より前の数は、位ごとにマスあけしながら、その位を仮名で書いていくのです。つまり、‘数字の重なり部分が中間の位にくるときは、それより高い位を仮名で書き、位ごとにマスあけする’のが原則です。

 例) 〈複雑なおよその数の書き方〉

ア.千百二、三十(せんひゃくにさんじゅう)
(点訳文)→ セン□ヒャク□数符2数符300
イ.五万三千七、八百(ごまんさんぜんしちはっぴゃく)
(点訳文)→ 数符5マン□数符3ゼン□数符7数符800
ウ.9千数百万冊(きゅうせんすうひゃくまんさつ)
(点訳文)→ 数符9セン□スーヒャクマンサツ


法則X. つべこべいわずに表記辞典をまっさきに引くとき】

しょうがない、四字とセットで、辞書を引け


 《解説》 〔考える前に引くことば〕 これまでの法則集を完全にマスターできたと思ってもまだまだ点訳の世界は奥が深いのです。それは、表記法の解釈がゆれているケースです。分かち書きの解釈がゆれている場合はどうしたらいいでしょう。もちろん、明らかな間違いでないかぎり、その解釈に基づくマスあけの仕方は正しいこととなります。でも、個人で点訳をすすめる場合はそれでもいいのですが、ぼちぼち会は協同で作業をすすめます。そういった場合はどうしても解釈がゆれている箇所は「多くの人はどう点訳しているか」に従わなければならなくなります。点訳界での多勢はやはり『表記辞典』の解釈となります。そこで、次のケースだけは、考える前に無条件に表記辞典を引きましょう。

 (1) 「しょうがない」 … 「しょうがない」のように、形容詞の「ない」がついて、いまではあたかもひとつのことばになっているかどうかが判断できないケース
 (2) 「四字」 … 四字熟語の漢数字を数符で書くか、仮名でかくかが判断できないケース、もしくは数字表記個所をすう符にするか仮名にするか迷ったとき
 (3) 「セット」 … 接頭語として用いられる2拍以下の「新〜、前〜、全〜、半〜、超〜」などの語が意味の理解のために後ろをマスあけするかどうかが判断できないケース


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